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第三章 第三十一話「疑惑渦巻く城」

現れた勇者により王都は温かな光に包まれる。

その影-ゆるりと動く者を勇人は捉える。

「-では、皆そのようにして頼む!」


「「はっ!」」


サンライズが指示を飛ばすと、王国軍騎士団は自分の役割を果たす為に散っていく。

彼らが向かう先は城以外にまだ機能している五大推進円柱二つと、引き続き祭りの監視に分かれる。


「せっかくの祭り、邪魔立てはさせん」


王都は拍手喝采。ここ十年で一番の盛り上がりを見せる。

理由は明白。


サンライズが見やる視線の先は、我らが希望の光-勇者だ。

彼の復活が、ここ十年供養を兼ねた儀式じみた何処か陰鬱な祭りを神聖なものへと返ってしまったのだ。


「流石は我が弟ネレウス⋯⋯-いや、王よ」


サンライズがそう呼ぶのと同時に、辺りから勇者ではなく「神」や「王」といった言葉が埋め尽くす。


街の人々がそう呼んでしまうのも仕方のない事だ。

水の勇者は魔王の手から逃れる為に辺り一帯ごと空に浮かぶ王都を起動させ、現在に至るまでそれを可能にしてしまっている。

光の勇者に至っては、魔王をほぼ単独で討伐してしまった、正真正銘、神のような存在なのだから。


「それでも、嫉妬してしまうな」


いくら強いと言われる”懐刀(グラディウス)”だったとしても、勇者とでは途方もない力の乖離がある。

長男として産まれたにも関わらず、能力や思考、覚悟でさえ遅れをとってしまっているのだから。


ネレウスが皆の前に姿を表して何分か経ったと言うのに鳴り止まないこの歓声。その光景は、本来の王が誰だかを如実に表していた。

気付けばギュッと握りしめた指がくい込んで血を滲ませる。


だが今それとこれとは別問題だ。


「三つ⋯⋯いや四つか」


辺りに集中すれば、感じるのは禍々しい魔力。

それは魔力を抑えるローブすら貫通してしまう程-おそらく魔族以上。

この光溢れる王都の中を、ポツポツと黒いそれが異物のようにシミとして浮かんでくる。


おそらくネレウスも気付いているだろう。

だが民に囲まれて容易には動けない。

できるのであれば隠密に迅速に対応にあたりたい。


「シークリフ以来だな」


サンライズは静かに”王誓剣(ガーディアス)”に手を掛けて、ジェットソードを握る。


-数が多い。

この気配、前に比べて厄介な精神系では無さそうだが、その分ローブから溢れ出るドス黒い魔力は明らかにパワー型。

王都に異形のような者は居なかった事から、上位魔族から与えられた魔力に耐えうる身体であり、その分魔力を扱える力があるということ。それが四つ。

自然とジェットソードを握る手に力がこもる。


「-フッ」


はたして武者震いか恐怖心からか、ブルっと震えた身体に活を入れて俺はニヒルな笑みを浮かべた。


万が一全員で襲って来ようとも、私と王国軍騎士団がしっかりと対応する。


「サンライズ王子」


ふと声を掛けられて振り返ると、王国軍騎士団団長のシントが現れる。

その手には報告書のようなものが握られていた。

それを見てサンライズは「あぁ、その件か」と淡白に答えた。

理由は単純だ。


「やはり私は貴方の側近として暗躍するライドと言う者を信用できません」


そして信頼を置く男の名を侮辱するからだ。


「何度も言うが疑いすぎじゃないか?」


このような問答は何十回と繰り返している。

ため息混じりに答えるも、シントは「では、これを」と引かない。

仕方なく報告書を手に取ると、そこにはつらつらと、ライドの疑わしい行動を隅々まで書き記されていた。

驚くべきことに、俺と離れていた間の事も詳細に記載があったのだ。


「これは君が見ていたのか?」


「王都を護ることが団長としての務めですので」


サンライズは意地悪を言ったつもりだったが、毅然とした態度で返されては責められまい。

だがその全てを疑ってかかっては可哀想だ。


「まだ王都に戻ってきて一週間だ。疲れていて羽を伸ばしたい時だってある筈だ」


「彼は王都に戻ってまだ一週間ですが、これだけの黒い部分があるんです。王子よ-ッ!」


シントは感情を高ぶらせ、勢いでサンライズの肩を掴む。


「貴方はお優しい。だからこそ魔族により滅ぼされた村出のライドを側近に置かれた。そうでしょう?」


シントの言葉にサンライズは首を横に振ることは出来なかった。


「貴方は重ねてしまったのです。彼と見捨てたシークリフの人々の苦しみと憎しみに溢れた顔を。ですが王、彼の目は濁っております。時折腐敗した目をしております。あれは後天的ではなく先天的、王都に来る前からしたやかに闇を宿していて-」


「もういいっ!まだ十六歳の子供なんだぞ!?」


サンライズはシントの手を振りほどいて思わず顔を逸らした。


「⋯⋯王子の気持ちは分かりますよ。幼少期に辛い経験された貴方だからこそ、彼を導いてあげたいと思ってるということを」


「なら何故ッ⋯⋯私の側近を疑うのか」


その時、息を切らして何かが駆けてくる足音が聴こえた。

二人とも音の方を見れば、驚くべき事にルミナスが急いでこちらに迫ってきていた。


「ルミナス!?」


今は城を見守ってくれている時間の筈だ。


「大変!大変なんですっ!」


その様子は常軌を逸したように慌てふためいて、何も無い地面を転がりそうになった。


「おっと、大丈夫か?」


それをサンライズが受け止めると、手足をバタつかせて「城ッ、城がッ!」と喚き散らす。


「どうした、君ともあろう者が」


ルミナスは震える手で指をさす。

それを追ってみれば、明らかに異質な光景が視界を捉えた。


「なんだ⋯⋯あれは」


思わず足元がふらつきを覚えで数歩たたらを踏む。

それは真っ白だった城をドス黒い紫色へと変化させ、まるで帳が降りたように包まれている。


「お城で待機してたらライド君が来て、サンライズさんが呼んでるから向かってあげてって言われて、外に出たらいきなり城にカーテンをかけて入れなくされて」


もう胸騒ぎでしかなった。

嫌なほど心臓の鼓動がドラムのように鳴り響く。


今日この日、彼は何を起こそうとしているんだ。


「王子⋯⋯」


二人の意見によりライドが危ない人物だと浮かんできてしまう。


これはハッタリなどではない。

間違いなく祭りに魔の手が伸びている、いやもう喉元まで喰らわんとしている。


「⋯⋯二人とも、よく聞いてくれ。巫女様は城の黒いカーテンの解除を。シントは隠密に少しずつ王都から人を脱出させてくれ」


「はっ!」


「はいっ!」


二人も私から散って任務に入る。


シント含めた王国軍騎士団でも相手取ることが出来る手合いだ。

勇者がその場にいるにも関わらず襲おうとするのは、引けないのか-はたまた別の何かか。


「上位魔族⋯⋯」


ネレウスの言った、倒し切れなかった奴が送り込んだ刺客なのか?

狙いは間違いなく王都を潰して、アクアシア大陸の機能停止及び大ダメージだろう。


「何としても守り抜かねば」


サンライズはまた、城を見やる。


「ライド⋯⋯」


寂しさを感じるも、それを今名残惜しくしている暇はない。


サンライズは城を巫女に任せて、まずは被害を抑える為にシントと共に王都から逃がし始めた。

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