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第三章 第二十五話「光の勇者って?」

英雄生誕祭の前日。

朝から楽しげに買い物する天に振り回されてくたくたな勇人。

さらに天は勇人が憧れていた魔力に目覚め出していて。


勇人は錯乱状態で走り出して逃げ出した。

「ははっ、それで今日は僕達と食事するってなったのか」


テーブルに置かれた肉をナイフで丁寧に切り分けながら、ネレウスさんは笑った。


あの後、どうしようもない衝動に駆られて王都中を走り回り、疲れて帰ったらちょうどネレウスさんが戻ってきていた。

普段なら一緒に食べることはできないが、フウカと面会が可能となり、俺を押し退けて話し込んでいる。

聞けば食事も病室で摂ると言っていたみたいで、せっかくならと一緒に卓を囲んで今に至る。


「サンライズさんも一緒なら良かったのに」


見渡せば目の前にネレウスさん、そして俺の隣には細々と食事をするルミナスの姿。

せっかくの広い卓だ。もっと人を呼べたら楽しいのだろうが。


「兄ちゃんとライド君⋯⋯二人は入念に残り二つの推進円柱の警護を頼んでいるからね。祭りの次の日までは抜けないのさ」


二人は国に仕える、いわば最終防衛ラインのようなもの。忙しいのは仕方ない。


「つまんない」


ルミナスは美味しい肉を上手く切り分けられずにムスーっと頬を膨らませる。


「お前、敬語はどうしたんだよ。一週間くらい前まではもっと綺麗な言葉使ってたのに」


「トードーが良いって言ってくれたから」


「そりゃ俺に対してはな」


せめて城の中ではもう少し礼節を守ってほしい。俺が言えたことじゃないけど。

前を向けばネレウスさんが「いいよいいよ」とにこやかに笑ってた。


「僕、敬語じゃない方が接しやすいし、硬っ苦しいのは苦手だからさ」


ネレウスさんが優しいのは分かったが、そこを良しとしてつけあがるのがこの少女。


「むー!」


ギコギコと音を立てるルミナス。流石にと後ろから呼びかける侍女に「いい!」と断る。

しかしまた顔を膨らませると、今度はフォークでぐさぐさと突き始めた。


「おいおい。せっかくのいい肉なのに」


見ていられずに席を立つと、「来なくていい!」と睨まれる。


「お前は良くても他の人の迷惑になるっての」


まだ喚くルミナスを無視してナイフとフォークを取り上げると、背後から切り分けてやった。

自称何十年、何百年と生きてるかもと言えど、ここ数年の記憶と名前しか覚えてなければ、精神年齢は子供っぽいのも無理ないか。


「⋯⋯ありがとう」


チラりと見えるルミナスの頬は嬉しそうに赤く染めていた。


「なんだか光の勇者と似てるね」


「俺が?」


光の勇者。確かネレウスさんと同じ勇者であり、アッシュと呼んでいた。


「その人と俺がどう似てるって?」


「ガサツなところ」


「お前なぁ」


「べー」と下を突き出すクソガキを尻目に、俺は自分の席に着くと、ネレウスさんは空を見上げて想いを馳せる。


「アッシュ、元気かなぁ」


その呟きにルミナスは俯く。


「⋯⋯現状何とも言えません。私が出会う前からずーっとダークネシアに居るみたいですが、多くの戦闘、魔障の影響も相まって日に日に力を無くしております」


その言葉にネレウスさんは顔を強ばらせる。


「魔障ッ、もはや彼の身体も穢すほど広がっているのか!?」


「⋯⋯残念ながら」


「なら早くアクアシア大陸に戻ってくるよう-」


「ダメなんです!」


ダンッ、とネレウスさんの言葉を遮るようにルミナスは立ち上がる。


「アッシュは!⋯⋯光の勇者は、それでもっ⋯⋯あの大陸を護りたいと、今でも元に戻ると信じて戦ってます」


目に浮かべるのは大粒の涙。

そこには、いつか光の勇者が大陸を浄化できると信じて疑わない、決意を固めたルミナスの瞳があった。


「ダークネシアは彼の大事な人が魔王として覚醒⋯⋯そして討伐、亡くした地でもある。アッシュはあの時の悔恨を胸に今も⋯⋯」


「魔族を含めた魔物の根絶。現時点で敵対生物として頂点に位置する上位魔族ルキウスの討伐と、不浄の地クロクの滅殺。この二つが達成されない限り、彼にとっては死んでも死にきれない想いです」


二人はいつの間にか食事の手を止めて、光の勇者の話でどちらも顔を曇らせる。


「あぁごめん、ユート君は知らない話だったね」


ハッと気づいたネレウスさんは取り繕う。


「いいですよ。俺に気にしなくて」


二人がそんなに思い詰めるような相手なら、俺が茶々を入れるなんて人として駄目だろう。

それに魔王は一度倒されているのか。


「?なんだよ」


ふと隣からじーっとした視線を感じて振り向くと、ルミナスがこちらを見ていた。


「なんというか雰囲気が⋯⋯似てる」


「その言う光の勇者に?」


「うん」


こくりと頷くルミナスに続いて、「僕もそれ思った」とネレウスさんも食いつく。


「なんて言うのかな⋯⋯初めて会った時から、不思議と一緒に居ても違和感がないんだよね」


俺は前に言われたことのある記憶を腕を組んで思いだす。


「うーん⋯⋯前に居てもいなくても一緒と罵られた経験があるな」


あ、言ったのは天だった。

「そういう事じゃないよ」とネレウスさんはフォローする。


「一緒にいても異物感がなくて馴染みやすい。人として一緒に居やすいって事だよ」


「あーわかる!」


ルミナスはパチンッと手を叩いてはしゃぐ。


「初めて会った時から、あ、こいつなら何言っても良さそう、って!」


こいつは会った時からずっと失礼だな。

というか光の勇者もルミナスにそんな扱い受けてるのかよ。


「ありがとう、ございます。ポジティブな意見として受け取っておきます」


「あぁ。だからしょげないで!」


「うん!だから私の接し方は好意と思って!」


⋯⋯片方は都合良く扱おうとしているがまぁいい。

俺たちは再び食事に手を伸ばして食べ始める。


魔王は一度倒されている⋯⋯ね。

ふと、ここに来てから受けたドス黒い悪意の塊のような力を思いだす。


あの時に感じた魔力は、魔族リリアルよりも真っ黒な⋯⋯そして現に今、目の前にいる勇者ネレウスよりも圧倒的な大きさを感じた。



もし⋯⋯もし天が、魔王という存在だとしたら?


「⋯⋯⋯⋯そんなわけねぇだろ」


変な事考えるのはやめろ。


俺は自身の不穏な思考を振り払うように強く首を振って、目の前の食事に集中する。

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