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第十二話「境界の鍵」

疑いつつも楽な方へと流れる勇人。

いざとなったら俺がネーチスを倒してしまえばいいと考え乗り込むのだった。

幾ばくと経ったのだろう。

ぼんやりと映る視界に自身が寝ていた事に気付いた勇人は薄らと目を開けてその光景を眺める。

流れていく景色は相も変らず砂利道に両端が森となっており、唯一変わっていたのは辺りに視界が効くようになっていた事。見上げると空はグラデーションのように青みがかっていて、朝を迎えようとしていた。

今更だけど何とか逃げ切ったんだよな。あれだけの事があって。なんか現実味がない。

まるで嘘のような感覚。だが思い出すだけで身震いする俺の身体ははっきりと覚えているみたいだ。

それでも朝は来るみたいで。

呼吸により自然と鼻に入り込む朝の空気が心地良く、勇人の凝り固まった考えと身体を解していく。それに従うように「ん~⋯」と身体を空へと伸ばす。


「起きられましたか」


背後から男の声が掛かる。

しまった。乗せてもらっていたのを忘れていた。

ハッとして振り返るがネーチスは馬の手網を引っ張ったまま前を向いている。咄嗟に自身の身体に目を向けるが何もない。視線を落として横たわる二階堂の毛布を少しめくると、そこにはすやすやと寝息を立てて眠る可愛くも綺麗な顔があった。

どうやら何もされていなかったみたいだ。ネーチスさん、疑ってすみません。


「すみません。乗せてもらっているのに寝てしまって」


「いえいえ。それほどお疲れだったのでしょう。それにちょうど良かったかもしれません」


前を指差すネーチスにつられて前を向く。少し先、目に映るのは延々に続くとさえ思っていた森の外。広がる草原のその先に小さく映る街の姿。


「ここまで来ればもうあと二十分もしないうちに着きそうですよ」


そう言ってネーチスは柔らかく笑って見せた。

この人はどこまで優しいのか。それが心の中を抜け出して思わず口にしていた。


「どうして俺たちにそこまでする?」


ネーチスは驚いた顔をしていた。

俺たちを助けたところでこの人にメリットは無い。

勿論向こうに着けば何かしらの形で返すつもりだが今渡せる物はない。

ネーチスは少し顎に手を置き空を見上げると、やはりまた優しそうに微笑んだ。それは二階堂に向けられていて、少し寂しそうにも勇人の目には映った。


「⋯⋯似ているから、か?」


俺の質問に黙ったままこくりとだけ頷くと、ネーチスは前に向き直りバシンッと強く鞭打つと手を離し、馬は意を汲んだように「ヒヒーンッ!」と鳴いて一人でに歩きを続行する。


「着くまで少しありますから一つお話をしましょう」


勇人も頷き返すとネーチスは両手を合わせて話し始める。


「ここよりももっと上の大陸⋯⋯ちょうど今くらいの朝焼けの時間でしょうか。街に魔物が押し寄せたんです。街が崩壊するのは必然で、家から飛び出した私は娘を抱いて必死に魔物から逃げ回っていました。

しかし魔物に追われてもう駄目かと思った矢先、爆発のような衝撃が辺りを襲いました。それは全ての魔物だけを倒していて、その爆心地の中心に金髪の男の子に抱えられていたミカさんを発見しました。

ミカさんは昏睡状態なのか揺すっても目を覚ます気配はなく、金髪の男の子は必死で助けてくれと懇願し叫んだ。

その時、ミカさんの手の焼け跡から彼女が私達を救ってくれたのだと気づきました。

私はすぐに荷馬車に乗せて近くの街に運んだ。不幸中の幸いなのか、すぐに治癒魔法を受けて目を覚ました。

その後何度お礼を分かりません。それ以降は他の街に行かれたのかバッタリと会わなくなりましたがね。なんせ綺麗な御人でしたし命の恩人ですから忘れたりなどはしませんでした」


「ふぅ」と一気に喋り終えたネーチスは軽く息を吐いて「それでも-」と真っ直ぐにこちらを見やる。


「その人があの時の人ではない事は分かります。かれこれ十年も前の話だ、有り得ません。なので他人の空似です。これは私の自己満でしかありません。申し訳ない」


「いや、あんたのお陰で俺たちは助かったしこうして眠らさせても貰えたわけだ。こっちこそありがとう」


眠る前にもしたはずだが俺たちは再度握手を交わす。それとほぼ同時に長く続いた森を抜ける。


「これでもう大丈夫。あとは街に向かうだけですな」


抜ける瞬間、ネーチスの首元が一瞬光り輝いたのを見た。

勇人が呆けた顔を向けているとネーチスは服の裏手に隠れていたネックレスをこちらに見せてくれる。それは子供の拳よりも小さな袋でゴツゴツした何かが入っているのが分かる。取り出すとそれは黒色の石で、コンコンと指で触ると中が空洞なのか高い音を出す。


「これが森から抜ける時に必要なんですよ。私は境界のエリアキーと呼んでいますがね。とある森で拾ってから御守り代わりとして持っているんですが、どういう原理か出入りの際に光るようです⋯⋯⋯⋯疑っているようですな?」


突然ネーチスからじろりとした視線が送られ思わず視線を逸らす。もしかして最初疑った事も怒ってたり?迫るネーチスの無言の圧が視界の端に映る。二階堂があれだけ否定していた分いまになって反感を買ったのか。


「良ければ一人でまた森に入ってみますかな?」


「あーっ!わかったよわかりましたよッ!最初っから疑ってすみませんでしたぁ!」


ズイッと寄せられる顔の圧に耐えかねて俺はギブアップした。

ニタニタといじわるそうに笑いながら「冗談ですよ」と言うネーチス。この野郎。最初疑って掛かったのをこう返されるとは。

ただこれで終わりと言うことにしてくれたのかもしれない。何処かしらあったつっかえが取れた気がして少し気分が晴れた。


「そういえばネーチスはどうして森の中に?」


和やかな雰囲気。聞きたくても聞きづらかった内容を今ならと振ってみる。

「あぁ~⋯」とネーチスは顎髭に触れながらしばらく言いにくそうに唸る。


「⋯⋯娘の為ですよ。その森にしか、しかも夜にしか生えていないとされるあるモノを探して。それだけです」


ネーチスはこれ以上聞かれたくないのか前へと向き直るとそれ以上喋ることは無く口を閉ざした。

あまり聞かれたく内容だったのかと俺は心の中で謝罪した。

少し気まづい空気が流れた二人は街に着くまでの間、一言も喋ることがなかった。

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