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第三章 第二十二話「上位魔族の存在」

勇人のこれまでの気合い、逃げないその覚悟にサンライズさんは触れる。


二人で扉を開けると、その厳かな雰囲気に圧倒される。


待ち構えていたのは、高貴な鎧に身を纏った屈強な王国軍騎士団の人達が数十もの列を成して立っていた。

ざわざわと、ただ一つの談笑もなく、険しい顔で話し合いをしているようだった。


扉の軋む音でこちらに気付いたのか、その部屋にいた全員の視線が向けられる。

こちらを見やるや否や彼等は頭を垂れて跪く。

それは俺の隣-サンライズさんに向けられていた。


「やれやれ、私には良いと言っているのに」


そう皆がしゃがんでようやく、奥に数人居ることに気が付く。

それは巫女ルミナスとスーツを着た初老の男性、そして玉座から降りてこちらに歩きだしているのは水の勇者ネレウスさんだ。


「いいや。兄上が王なんだから威厳を保たないと」


王国軍騎士団の列がザッ、と左右に別れる。

その間を、ネレウスさんはレッドカーペットを歩くが如く、堂々とした風格を持ち合わせていた。

そこに昨日会った間の抜けた雰囲気はなく、在るのは王たる所以のみ。


鳴らす足音はまさしく打ち鳴らすが如く存在を示し、風すら置き去りに歩く姿は勇姿を纏いて民を導く器だと表していた。


「あの玉座に本来座るべきは兄上だ」


身に纏った真っ赤な雄々しいマントと冠をサンライズさんに付け替える。


「⋯⋯私はお前こそだと思うが」


「兄ちゃんはあの時、多くを守る為に決断した。僕だったら出来なかった⋯⋯罪に向き合えないからかな。だから”間違っていない道しか進めないんだ”」


双肩を掴むその手は真っ直ぐに目を見ていた。


「私はそんな強くないんだぞ」


ネレウスさんは数歩下がると、「どうかな」とにこやかな笑顔を浮かべた。


「さっ、兄者もユウト君も付いてきてね!」



玉座に着くと、初老の男性が涙を浮かべていた。


「おぉっ⋯⋯魔王討伐後にこうやって生きて御二人揃うところを見られようとは。長生きはしてみるものです」


言い終わると共に感涙の涙を決壊させる。


「じぃ⋯⋯」


崩れ落ちる勢いの初老の男性にサンライズさんは肩を貸し、ネレウスさんはハンカチを渡す。

それがまた嬉しいのか、更に涙を溢れさせた。


その隣で立ち尽くしている少女ルミナス。冷めたように落胆した少女は、感動に浸る三人とは正反対のように思えた。


「⋯⋯嘘つき」


ルミナスは頬をぷくーっと膨れさせて、「いーっだ」と口を引っ張り舌を突きだす。


「う、嘘じゃなかっただろ!」


勝手に力があると思い込んで寄ってきた癖に。

だが届くはずもなく、ルミナスは小さくため息をもらした。


刹那、ふと肩を抱きそれられる力にぐいっと引っ張られる。

この感覚-と振り返ってみれば、ライドがそこにいた。


「ライドッ!?」


「よぉ。丸一日ぶりか?元気そーじゃねぇか」


「カカカ」と悪戯っぽく笑うのは本当にライドだ。


「お前心配したんだぞ!天から聞いてたから生きてるのは分かってたけど、どこに居たんだよ!」


「投げ飛ばされたのが丁度王都の方でさ、まぁ傷もあるし近くで休ませてもらってた。わりぃわりぃ」



謝って入るけど、この軽い感じ-ライド本人だ。

ズイッと間を割って入ってきたのはサンライズさんだ。


「全く。生きているならせめて連絡をくれ。お前の悪い癖だぞ?」


「すみません。俺も怪我してたんですよ」


「ふぅ⋯⋯まぁいい。無事で良かった」


サンライズさんも無事に帰ってきてくれて嬉しいのか、頭に触れたかと思えば撫でまわした。


「さぁさぁ。昨日現場にいた二人も揃ったことだし昨日の事件-魔族襲来について話そうか。シントッ!進行を頼む」


「ハッ!」と応えると、王国軍騎士団の最前列から一人、数歩前に出て話し始める。

そうして何百人で理由や原因、対策を練る。

後に現れた王国軍偵察部隊も数人加わり、話は何時間にものぼった。



「-成程。外からやってきた可能性は極めて低いと言うことか」


「はい。景色と同化できるならともかく、魔族ですらそのような能力は確認されておりません」


「ありがとう。下がっていい」


ネレウスの一言で王国軍偵察部隊の人達は持ち場へと帰っていく。


「となると、元からあの森に潜んでいたかもしれないな。父の墓を建てた時にすら気付かなかった僕の責任かも」


目を落とすネレウスさんを鼓舞するように手を置くのはサンライズさん。


「あの時は魔王復活により魔力自体が不安定だった。気が付かなくても仕方ない」


だが苦虫を噛み潰したように顔を歪める。


「だとしてもここ十年魔力反応は無かった⋯⋯やはり何か隠密系の能力が備わっていたのか」


「戦ってみたけど、武力のみの適当に造られた魔族クラスなんだろうね」


魔族クラスってなんだ?


「あの、魔族クラスってなんですか?」


俺の問いに前に出てきたのは王国軍騎士団の一人、シントと呼ばれた者。屈強な力を有しているのがその大きなガタイから伺える。


「魔族クラスとは、上位魔族から血を分け与えられた魔族とは違い、魔族が作った魔物の限界を超えた力を与えられた者の総称です。主に武力と頭脳の発達、人語を喋られるようになり、魔物と違い厄介さが格段に上がります」


それに「フッ」と鼻で笑ってライドが割り込む。


「まっ、他にもあるかもだかな」


ライドのぶっきらぼうな言い分にピクっと反応したのはシントさん。


「と、言いますと?」


「さぁな」


しかしライドはぬるりとそれを躱して、「そこまでは分からない」と吐き捨てる。


ふとサンライズさんがくるりと身を翻して呟く。


「⋯⋯やはり上位魔族が暗躍しているのかもしれない」


その言葉にネレウスさんは酷く俯いた。


「そっかぁ⋯⋯奴がまだ生きているのか。仕方ないかぁ。僕たちが遺してしまった残滓だからね」


それは悲しくも悔しそうな声を漏らして、一瞬、目を伏せた。


「さっ、今日はこれにて終わりだ!解散ッ!」

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