表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/136

第三章 第十九話「静謐の女神ルミナス」

空間を司る巫女に武器を使ってくれとせがまれる主人公。

日が落ちており、明日にすることを約束する。


眠れない中、新たな情報飛び交う疲れが押し寄せて、主人公は眠りについた。

ふと、のそっと何かが身体に乗っている重みに目を覚ます。

まだ朝は遠く、薄暗くてなにも分からない中、俺は乗っているものに手を伸ばす。


-むにっ。


なんだか柔らかな感触が手に触れた。

掴めばぐいっと伸びて、まるで小さな餅みたいだ。

寄せるように引っ張ってみれば、夜目が効いた瞳が昨日の少女を捉える。


「あ、あんまひあそはないてくらはい⋯⋯」


「どうやって入ったんだよ」


頬を引っ張られたまま少女が指さすのは壁、隣には天の部屋がある方だ。

確か窓から出たテラスが繋がっていたはず。


「つまり窓を伝ってやって来たってことか」


しかし少女は首を横に振る。

返事変わりと取り出すのは樫の木で造られた杖。頭には光沢を放つ赤い宝石があしらってあった。

徐ろにそれを振ると、ブゥンと鈍い音と共に何かがそこに浮かんだ。


乗っかっている少女を降ろして電気を付ければ、それは鮮明に視界に捉える。

そこには小さめな黒い空間が渦巻いて空中に浮かんでいた。


「なんだこれ」


少女を見ると、ニマニマと笑っているだけ。

恐る恐る近づいていけば、その黒い空間に薄らと何処かの景色が見えた。


「-えいっ!」


少女の声が聞こえたとほぼ同時、後ろから突き飛ばされて、思わず指先が黒い空間に触れる。


刹那、ギュンと凄まじい吸引力で身体を呑み込み、気づいた時には全く違う場所に投げ出されていた。


「あ-」


短い悲鳴を上げつつ、迫る地面。

あわやというところで転がって衝撃を抑える。

おかげでダメージは無かったが、見上げれば少し離れた所で部屋で見たのと同じ空間があった。


「あれは⋯⋯ワープゲート?」


読んできた膨大なラノベにより難なく状況を察する。

ラノベの異世界でも上位に扱われる、稀な高位魔法なんじゃないか?


と思ったのもつかの間、次に何かが現れて飛び出す。


「とおっ-」


それが少女だと理解した時には遅く、その小さなお尻が顔面を捉えて後頭部を強く地面に打ちつける。


「うぉおおおっ⋯⋯痛てぇ」


少女は「あわわっ」と顔面から跳ね起きると、こちらを見て「てへっ」とかわい子ぶる。

ちくしょうっ、こいつ何十年も生きているんだろ?

その舌を突き出してコンッと頭を小突く仕草に、殺気を覚える。


「ごめんごめん、ちょっと展開する位置ズレちゃった」


「昨日と口調が違うじゃねぇか!」


昨日はまるで淑女のようにおしとやかな女性の印象だったが、


「昨日は二人の王、それも水の勇者と元グラディウスの前だったからよ」


と悪びれる様子もない。

やはり盗みを働いた時が本来の姿なのだろう。


「なーにが巫女って呼んでねだよ。やっぱりただの少女-クソガキじゃねぇか!」


「あぁ!言った!女の子に言っちゃいけない事言った!」


「何十年も生きてるんじゃねぇのかよ!」


プーっと頬を膨らませる少女は純粋そのもの。だが何十年も生きてる、思考も性格も成熟しきった女性なのだと聞いている。


「うーん⋯⋯そのはず、なんだけどね」


少女は含みのある言い方をして歩き出したかと思えば、くるりと振り返って口を開いた。


「⋯⋯記憶ないんだ」


そう言った少女の顔は、寂しそうな笑顔を作る。


「記憶、がない?」


聞き返すと少女はこくりと頷いて話し出す。


「⋯⋯直近で二年くらいかな、ちょうど光の勇者と出会ったくらいからしか記憶がなくて、それ以上後の事を覚えていないの」


少女は寂しそうに語ると、こちらに向かって歩き出す。


「記憶は無くても私を見た人々の反応は様々。中でも”空間を司る巫女”と呼ばれていたから、それにしたわ。どうやら魔素を取り除いて、魔物に対抗していたそうだから」


そして、少女は目の前で止まると、その大きく開かれた金色の瞳を真っ直ぐこちらに向ける。


「-私の名前はルミナス。覚えているのはそれだけ」


「ルミナス⋯⋯」


ヴィランダさんから聞いた。確か、陽光の女神ダウナの双子の-


「そう。妹の静謐の女神と同じ」


俺の思考を読み取るように少女-ルミナスは答える。

少女の背後にはまだ、月-”静謐ルミナス”が薄明の世界を彩っていた。


「どうしてその名前なの?とか思ったけど、間違いないって、それだけは断言できる」


少女は決意めいたようにグッと力を込める。


「お前⋯⋯その瞳の色」


「ん、あぁ。これは-」


少女は目に指を押し込むと何かを取り出す。それはカラコンのようだった。


「へへっ、びっくりした?だよね、昨日は茶色だったのにって。夜とか早朝はこんな感じなんだ」


コロコロと変わる少女の口調に俺は「あぁ」としか答えられない。

ネレウスさんも、魔力を使う際には金色の瞳へと変わっていた。


「ってことは、勇-」


「違う違う!あーもう、そう言うのが多かったから付けてるの!そもそも勇者にはどこかしらに痣が入ってるて言うじゃない。光の勇者にだって肩に閃光のような眩い痣があったし、私には無いから断じて違うからね!」


はーはーと息を切らす少女は、これまでどれだけ言われてきたのだろうか。


「肩に痣か⋯⋯」


俺の読み込んでいるALIVEの主人公も同じ場所に痣があったな-ってか、目の前の少女はまだ地団駄踏んでるし。


「トードーが変な事聞いてくるから、口調変わっちゃったじゃん!」


「そんなの知らねぇよ!そんな簡単に口調変わることあるのかよ」


「だってッ⋯⋯ここ二年くらいしか記憶に無いし」


少女は何かを思い出したように表情を曇らせる。


「⋯⋯ある時は魔女。何百年前から存在していた人ならざる者なんて言われたりして、どうしたらいいの⋯⋯」


その声は段々と小さくなり、涙を纏うように震える。

察するに昔に会った人から色々と言われ、迫害を受けたりもしたのだろう。

口調も他者からの情報を頼りに、過去の自分を真似るように寄せようと奔走しているのだろう。


「⋯⋯悪かったよ。ごめん、思ったように接してくれ」


そう言うと、「ほんと?」と涙に濡れた顔を上げる。


「あぁ。俺にならどう話してくれても構わねぇよ」


少女はこちらを見つめたまま固まっていたが、暫くしてクシャッとさせると「えへへ」と頬が緩む。


「ありがとう、トードー!」


そして後ろ手を組んで屈託のない笑顔を見せる。

見た目も相まってか、その方が違和感がない。


「で、でっ!ほらほら見せて見せて!」


少女-ルミナスはネックレスを指さす。


「あ、いや-まだサンライズさんに何にも言ってないしな」


「そのことなら大丈夫!」


グッと立てる親指を後方に向ける。その指を先を見やれば、城前に一人佇んでいる人物が見える。

もしやと目を凝らせば、こちらにグッと親指を立てたサンライズさんがいた。


「すげぇな⋯⋯まだ日の出前だぞ」


辺りはまだまだ日が無ければ闇が広がる世界。

いくら海上から十キロと言えど、普通に夜は暗いし朝も薄暗いのだ。


「ここに戻っても、いつもこんな時間に起きているのか」


シークリフでも、誰よりも早く起きて仕事をこなしていたサンライズさん。

まさかこの王都でも早起きとは、恐れ入る。


「さぁさぁやろうよ!」


下では俺の裾を引っ張る無邪気な子供が一人。こっちが本来の-今のルミナスの姿なのだろう。


「なら許可も得ている事だし-やるかぁ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ