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第三章 第十八話「またしてもロリっ子」

次に現れたのは、なんと昼間の勇者。

魔族との戦いで唯一起きていた勇人を気遣って会いに来てくれたみたいだった。

そして勇者は兄-サンライズとの再会。

十年ぶりの抱擁を果たした。

「空間を司る巫女?」


俺はオウム返しのように聞き返す。こんな幼い少女がそんな強そうな力を持っているのか。


「その名の通り空間に干渉する能力を持っていてな、魔素が多いダークネシアで、光の勇者と共に尽力してくれていたんだ」


ネレウスさんには”水の勇者”と肩書きが付いている。つまり勇者は複数人、存在するのか。


「もしかしてアッシュは不浄の地にいるの?」


ネレウスさんからの問いに少女は静かに頷く。


「はい。目下打倒ルキウスと、不浄の地にて”クロク”の消滅を掲げております」


だが少女は苦しそうに顔を歪めて俯く。


「ただ、どちらも一筋縄ではいかず、不浄の地は拡大を食い止める事が精一杯でして⋯⋯申し訳ありません」


俯いたままの少女に、ネレウスさんはポンッと頭に触れた。


「仕方ないよ。ルキウスは魔王と変わらない力を有していたし、不浄の地は星を媒体としている。止めているだけで凄いよ」


その言葉に救われたのか、少女は大きく潤んだ瞳から涙を零した。


「⋯⋯ありがとうッ、ございます」


嗚咽を堪えても溢れだし、止まらない。

それだけの相手と少女は戦っているのだろう。


ネレウスさんはポケットからハンカチを手渡すと、くるりと身体を翻して扉に手を掛ける。


「さて、そろそろ僕は王室へ戻るよ」


「もう行くのか?」


サンライズさんは少し寂しそうな表情を見せる。


「うん。元々彼に話があって来たんでしょ?僕はもう起きてから王都も出歩いて楽しませてもらったからさ。そろそろじぃの肩の荷も下ろさせないと」


「そうか⋯⋯ありがとう、水の勇者よ」


「大袈裟だなぁ、畏まらないでよ兄ちゃん。いつも通り呼んで⋯⋯また後で話をしよう」


「⋯⋯あぁ」


「あと君!」


「はいッ!?」


ネレウスさんに指をさされて、俺は変に声が上擦った。

王族。しかも勇者という二大ビックタイトル持ち。その事実に後から緊張が追いついてきた。


「名前を聞いていなかったと思って。名前は?」


「刀道⋯⋯勇人、です」


その圧に押されて、思わず声が小さくなってしまった。


「トウドウユート君ね⋯⋯うん、覚えた」


ネレウスさんはニコッと笑うと言葉を続けた。


「明日、十一の刻に王間に来てほしい。今日の事について話が聞きたいんだ」


「わかりました」


ネレウスさんはこくりと頷いて、白いローブを引っ掴むと、サンライズさんにじとーっとした視線を向けた。


「まっ、兄ちゃんがどうしてあの場に居なかったのかも分かったしね♪」


そう言い残して鼻歌混じりにネレウスさんは部屋を出ていった。

その言葉に、サンライズさんは目を泳がしていた。


「⋯⋯謁見の間にいたから魔族に気付かなかった」


そしてくるりとこちらに向き直ると、「すまない」と頭を抱えた。


「いやいや、それは仕方ないですよ!そのえっけんの間?というのがどういうのか分かりませんけど」


「⋯⋯言い訳するわけじゃないが、謁見の間はあらゆる魔力を通さない、魔力不干渉の完全防御の部屋。⋯⋯つまり、外からの魔力も分からないわけでして」


なるほど。そのせいであの時駆けつけられなかったというわけか。


「話が逸れた。それで、会っていたというのがこの方というわけだ。君に合わせたのは他でもない、武器を返すだけじゃないんだ」


少女は「ごめんなさい」とネックレスを手渡してくる。

手にはズシッと小さくも重い感覚。

半日程しか経っていないのに、どうしてこんなに愛おしく感じるのだろうか。もう離さないよ。


「あぁ⋯⋯フフフ」


俺は思わずネックレスに頬擦りした。

この少し冷えた感じも堪らなくいい。

視界の端でドン引きしてるサンライズさんを無視して、少女の頭を撫でる。


「もういいんだよ。ありがとう」


そう言い終えると、またしても涙を流した。


「彼女は力を使って魔素を取り除く傍ら、天界へと向かう道を探して旅をしていてな。今回君の武器を盗んだのも理由があったんだ」


「ですよね?」と振られて、少女は小さく頷く。


「その武器から魔力は感じないけど、違う力を感じたから」


魔力と異なる力⋯⋯それは前にサンライズさんにも言われた、新しい力の事だ。

唯一無二の力。その言葉だけを都合よく耳に残して、当時は何度も反芻した気がする。


「つまり、これを使ったらどうにか天界に行けると思ったってこと?」


「うん⋯⋯」


少女はもじもじしながらも、そのネックレスに触れる。


「この武器、今使えない?」


「無理だな」


今これを武器モードにしたら、間違いなく城をふっとばしてしまう。


「そう、だよね⋯⋯」


少女はまた元気を無くして俯いてしまった。

その、いたたまれない姿に耐えかねて提案する。


「なら明日!明日してみよう!明日なら俺も身体が万全になっているだろうし-良いですよね?」


サンライズさんに問えば「良いだろう」との返事。

それに少女はパッと顔を明るくさせた。


「明日なら良いだろう。ただ使う際には連絡してくれ。一度見ただけだが、あれはあまりに巨大だ」


「わかりました」


すると少女は分かり易く嬉しがって飛び跳ねる。


「やったやったぁ!」


まるで子供のように-いや子供か。


「可愛らしいなぁ⋯⋯えっと、名前は?」


巫女って読んであげたいが、どうしても見た目からそうな扱い出来そうに無い自分がいる。


「ははっ、ユウト君は子供だと思うかもしれないけど、もう何十年も生きてる立派な女性だよ」


「なんだとっ!」


またしてもこんな見た目をしておいて女性なのか。

マフィンさんといい、フウカといい、この世界はロリっ子に見せかけた女性が多い気がする。


「私のことは巫女って呼んで。いやなら⋯⋯名前を教えてあげてもいいよ?」


「うっ!」


-なんだ?急に大人の魅力がこの少女から溢れ出してきた気がした。


「いやっ⋯⋯巫女って呼ばされてもらいます」


思わず敬語になってしまった。


「じゃあ、今日はもう疲れたろう?また明日」


そう言って二人は部屋を出ていく。


「⋯⋯疲れたっていわれてもなぁ」


さっきも寝れないって上体を起こしたばっかりだ。

だが数分もすると、ふつふつと意識が途切れ始める。

どうやら興奮覚めやらずにアドレナリンでも出ていたのだろう。

暫くすると、俺は一日の疲れがドッと押し寄せて、気がつけば眠ってしまった。

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