第三章 第十一話「自信がついて」
出会った白いローブを纏った男性。
陽気な性格に押されつつも、天に眠る魔力を引き出そうと優しく導いてくれる。
「ふぅんふふんふふ~ん♪」
私は晴れやかな気分を胸に抱いて、スキップするような軽い足取りで路地裏を駆ける。
やった、やった!私魔法使えた!
ハッと気付いて一度は止めるも、すぐにまたうずうずした気持ちを堪えきれずに足を止める。
サッと何にもない所で身を低くして、警戒するように周りを確認。
「⋯⋯よしっ、誰もいない」
さすがに誰かが居る前でやるのは危ない。
でも辺りに人は居ない。
自分のやりたい事が出来ると思うと、ニタリと口角が緩く上がっていくのを感じる。
これはもう勇人のこと言えないな。
とにかく無性にさっき学んだ魔法を少しでも使えるようにしたい!
私はうずうずした気持ちを解放するべく、両手を突き出して、目を閉じ力を込める。
「イメージ⋯⋯身体に流れる気を一点に集めるように」
神経を両手のひらに集中させる。
身体の血の流れすら、そこに集めんとする程の集中力。
すると手のひら先に、ほんの僅かな光球が浮かび上がる。
それは熱を放ち、温かいと言うよりも熱さがあった。
それはまるで火の玉を手で持っているような感覚に、耐え切れず「熱ッ」と両手のひらを離してしまう。
刹那、その手の光は空中で霧散する。
「あっ⋯⋯うぅ」
もう一度と試してみるも、光は手に集まらない。
男性に教えてもらった時は何度も出来たのに⋯⋯。
「はぁ⋯⋯帰ろ」
私はがっくりと肩を落として、城に帰ろうと最短距離の大通りに出る。
また大勢の人が行き交う中、がやがやと人の声に少し立ち止まり、気付けば空を見上げていた。
照りつける陽光は、路地裏を抜けてよけいに眩く感じて私は逃げるように俯いた。
「⋯⋯」
⋯⋯うん。やっぱりまだ厳しいかも。
そう路地裏に引き返そうとした時だった。
ゆっくりと歩く人々の間を縫って、早く動く何かが視界の端に引っかかる。
思わず顔を上げると、見知った男の子二人が私の前を通り過ぎて行く所だった。
「勇人?」
「おい、お前ついてくんなよ!」
ライドは声を荒らげて後ろの俺を払おうと手を伸ばす。
「さっきのって王国軍からの要請だろ?俺も行くよ」
「馬鹿かお前は!?民兵隊ですらないのに駄目だって!」
「へっ、忘れたのかよ!」
「はぁ!?」
こうしてライドについて行くのには理由がある。
街シークリフで、サンライズさんから直々に命を貰ったのだ。
それは、城に住まわせて貰う代わりに、ライドと行動を共にしてくれと言われている。
「何かあったらお前と行動を共にしてくれ、ってな!」
「あっ」
ライドもそこで思い出したように声を漏らして、少し考える。
「確かに言われたけど大丈夫か?”王誓剣”は見つからなかったし、頼みの綱の”巨人の大剣”はスられて、今手元にあるのは”簡易武具-剣”だけなんだろ?」
「うっ!」
「忘れているのはお前の方だろ?そんな中途半端な戦力で、足引っ張られても困る。残って探すべきなんじゃないのか?」
「確かに、そうだけどっ⋯⋯」
街の外で誰かが魔物に襲われると聞いた。
近くにいた王国軍騎士団全員にも招集が掛かり、一刻を争う事態だと聞いた。
「俺も行かない訳にはいかないッ⋯⋯」
確かに今、切り札だった”巨人の大剣”が手元になくて、あるのはただの剣のみ。
それでも⋯⋯動かないで後悔するのは嫌だ。
「お前⋯⋯」
ライドは意を汲んでくれたのか、押し黙る。
「驕ってるだけじゃね?」
「うぅッ!?」
俺の反応を見て、ライドはニタニタとした表情を浮かべた。
「魔物の中の上位、魔竜グランドを倒したユウトさんはさぞかし気持ちよかったんでしょうねぇ~」
「ううぅッ!?」
ライドの鋭い言葉が簡単に胸を抉る。
⋯⋯中々痛いとこ突くじゃねぇか。
「あぁうるせぇ!俺も行くっていったら行くんだよぉおお!」
「あーはいはい。お前はそういう奴だったな。強情で言っても無駄だ」
「なんかあんまり褒められた気がしないな」
「もちろん⋯⋯足引っ張んじゃねぇぞ?相棒」
おっと、そんな事言われるとは思わなかったな。
「⋯⋯んだよ」
ライドは少し頬を赤めてこちらをギロりと睨む。
「いやぁ⋯⋯ッ、クソッ、息がキツい!」
駄目だ!話しながらはさすがに辛い!
「ハハッ、そんなんで足引っ張らないように出来んのかよ!」
ライドは走っているというのに、息一つ切らしていなかった。
「ぐぬぬッ⋯⋯やってやるぁぁああ!」
何度も引き離されそうになる中、必死にライドに付いていき、俺たち二人は王都の外に続く正門へと向かった。