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第三章 第八話「レストランにて」

王都に到着すると、サンライズさんは王都の特徴、魔物たちへの対策を講じていることを教えてくれた。

鐘がなりサンライズさんは何処かに向かっていく。

勇人とライドは腹ごしらえと店に赴く。

「お前⋯⋯そんなに腹減ってたのかよ」



「ん?」



がっつく俺に軽蔑の眼差しを向けるライド。



あれから間もなくして一つの店を見つける。


外装からして高そうだがその分美味いだろうと俺は提案。


ライドは「いや、ここはあまり気乗りしないな」と言うも、数秒後には「⋯⋯分かった。奢ってやる」とのこと。やったぜ。



そうして入ったのは気品溢れるレストラン。


中には貴族なのか綺麗で高貴な装いをしたお客さんと、これまた高そうな甲冑を着込んだ男達数名。


それ相応の人が来る所だろうと見るからに分かり、緊張からごくりと生唾を呑み込んだ。



席に座り呼び出しベルも無かったからあたふたしていると、ライドが呼んでくれて俺の分まで注文してくれた。



しばらくすると目の前に置かれているのはステーキが置かれた。


腹も減っており、もはや獣のごとくステーキを喰らっていた。



「まさかテーブルマナーが違うとか?」



「お前はステーキを丸々かぶりつくのが正解と思ってるのかよ」



「まったく」と呆れながらライドは「見てろよ」と一言。



「ナイフは右手、フォークは左と決まっているし、一口はそんな大きくなくていい」



ライドは丁寧にナイフとフォークを使い一口サイズに切り分けていく。



「慎重過ぎやしないか?」



普段と様子の違うライドに疑問が浮かんだ。


シークリプではろくにそんな事もせずに、なんなら「肉はこう、食らいつくもんだ!」と教えてくれたのはライドだというのに。



「ここは王都だぜ?シークリフのようにはいかないのさ」



ライドは目配せすると言葉を重ねる。



「それにな、分かっていると思うがここは高級店なんだぜ?少しは弁えろよ」



辺りを見やると、俺達のテーブルを冷めたように見るお客さん。それは店員も含めて、一同に言いたい事が伝わってくる。



「うっ⋯⋯」



間違いなくライドの言うことが正しい。


ライドと二人、しかも腹が減った状態で高級店、ちょっと舞い上がってしまった自分を咎める。



「⋯⋯ごめん」



「あぁ。分かればいい」



ライドは口に肉を運びながら「変に目立ちたくないんだよ」と小さくこぼした。


シークリフでは三日に一度は酒場で暴れていたし、目立ちたがり屋だと思ってたが。



視界の端、ライドの背後で見えるお客さん-甲冑を来た数名の男が、怪訝そうな顔を浮かべてこちらを見ていた。


正確にはライドを見ている。


ライドの方を見ながらぶつくさと何かを呟いているのが分かった。



「気にしなくていいよ、いつもの事だ」



ライドはちょうど届いたグラスを揺すって口に運ぶ。



「俺は王国騎士団の中でも異例の”密偵”を生業としているからな」



「!お前っ、民兵隊じゃないのかよ!」



「おいっ⋯⋯ちょっとだけ声落とせ」



ライドにキッと睨まれて、俺は声のトーンを落とす。それに合わせてライドは顔を寄せる。



「俺は民兵隊に一時的に所属していただけ。本来は王国騎士団の一人だよ」



「そう⋯⋯なのか」



身なりといい悪い口といい、あまりそのようには見えない。



「まっ、さっきも言ったけど俺はその中でも異例の密偵だ。諜報が主だから、他の一般の王国騎士には俺の活躍は伝えられない。だから遊んでいると思われるわけだ」



大船から王都に入る際も、回遊軍からいちゃもんをつけられるのは織り込み済みってことか。



「そっ。だから海でも絡まれたってわけ」



ライドは俺を心を見透かしたように続ける。



「慣れっこだからなぁ。俺の事を知る人は王都でもごく一部。一般の王国騎士から見れば、王子に縋り付いているだけの腰巾着としか思われていないだろうな」



なるほどな。どうりでこの店に入るのを躊躇したわけだ。



「ふーん⋯⋯でもなんか心配して損した気分だ」



「あぁ?なんでだよ」



「だってあれだけ圧かけられても平気だったんだろ?」



「あぁ。慣れっこだから心配いらねぇよ」



そういうもライドはどこが寂しげに俯いた。



「ただ⋯⋯あんまり目立つ事は好きじゃない。とくに王都では俺の事をよく思ってない連中が多いから。だから偏狭な所に置いてもらってたのさ」



普段から明るくしているのも、自分の心を偽り守る為の、彼なりのカモフラージュなのかもしれない。



「お前も大変なんだな」



「そうだぜ?王都だと、どこ行ってもこんなだから、目立たない事に越したことはないけどな」



話も切りよく、互いの料理に目をやった時だった。



「えぇ!?そんなにするの!?」



突如、静寂とも取れる店内を突き破るような大きな声が響き渡る。


驚いて辺りを見渡すと、数個離れたテーブルに全身白いローブに身を包んだ人が一人、店員と言い争っていた。



「あぁ、やっぱりか」と言わんばかりに、俺とライドは目を合わせて互いに悟った。



「十年前はもっと安かったのに!なら、これでどうにかしてくれ!」



そう言って白いローブの人は懐から何かを取り出す。それは何かの紋章が描かれた証のようだが、店員には伝わらない。「そんなんではなく、払ってもらわなくては困ります!」の一点張りだ。


白いローブの人は「えぇ、これもダメなの!?」と慌てふためいた。



声音から察するに男のようだが、横から聞くに、持ち合わせが無かったのだろう。店員と二人の押し問答が続く。



「やっぱり面倒な事になると思ったぜ」



ライドは俺に耳打ちすると深いため息をついた。


と言うのも、この気品溢れる静かなレストランの中で、俺ともう一人、場違いと言わんばかりに騒ぎ立てている人が居たからだ。



聞けば「パウロは腕を上げたなぁ!」とか、「店出せて凄いな!」とか何とか。


とくに座っている姿からしても身長が高いことが分かり、その割に子供っぽい発言がちぐはぐで気になっていたのだ。



案の定、いま店員と揉めている。



その傍ら、甲冑を着た男たちが立ち上がろうとしていた。


あれは間違いなく連行されてしまうんじゃないだろうか。



「あー⋯⋯俺が払うよ」



ふと目の前に居たはずのライドは、気付けば店員とローブの人の間に入っていた。



「えぇ、いいんですか!?」



「あぁ。大丈夫」



ライドは値段を聞きながら速やかに会計を済ます。


ローブの人は立ち上がり、その様子を見ていた。



-でけぇ。


ライドよりも頭一つ大きいその姿は、身長もゆうに百八十センチを越えているだろう。


間違いなく大人の人なのにと、どこが情けないなという気持ちがあった。



「⋯⋯はい。これで全部です。ありがとうございました!」



支払いを終えた店員の声にローブの人はビクっと身体を硬直させた。



「さっ、俺が払ったわけだし⋯⋯さっさと行きな」



ライドの声にローブの人は戸惑いながらも、ライドを見やると「ありがとう!」と言って店から走り去っていった。


ライドはその様子を見送り、見えなくなると「ふぅ」と短いため息をついてテーブルに戻ってきた。



「おいおい、いいのかよ」



「良いんだよ。騒がれたら俺にも火の粉が散ってきそうだし、あれなら少しは良いように見られるだろ?」



確かにライドのおかげで丸く納まった感じはある。


後ろに見える男たちも、少しこちらを見る目が変わったようだ。



「ここ高そうなのに、やるじゃん」



それでも思い切った行動の取れるライドは、やはりどこが芯のある人に見えた。



「それに俺の金じゃないしな。ユウトに使った金田って言って経費で落とす。ささっ、食べちまおうぜ」



そう言ってライドはニタニタと笑いステーキを食べる。



「⋯⋯」



うん。やはりライドはクズいところがあってこそだ。

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