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第三章 第四話「彼こそが本当の王なのだ」

屈強な男により魔物を制圧。

しかし反対側からも現れ、勇人はフードの子を守る為に戦わずに逃げる。

最終的に男に助けられるもフードの子は見当たらず、そして上を見上げればそこには王都アクアシアが存在していた。

「はぁぁあああああああっ!?」


上空に浮かんでるあれが!?

驚愕のあまり腰を抜かして尻もちを着いた。

てっきり海に浮かんでいるのかと思っていた。もはやあれは雲の上だろ。


「さっ、サークルが開くと人でごった返して大変だ。戻るのも難しくなるだろうから部屋に戻るといい」




男に言われるままに自分たちの部屋に向かうと、続々と人が集まりだしていた。


「おっ、遅かったなユウト」


部屋に戻ると、ライドはニタニタとして視線で俺を誘導する。そこには脚を組んで両腕を交差する、明らかに不機嫌な様子の天。

隣にはハッとした顔をして伏せるフウカがいた。


「二人とも、さっきは-」


「さっ、そろそろ行きましょ」


天は俺の声を遮ってフウカの手を取ると立ち上がりこちらを一瞥すると「フンッ」と部屋を出ていく。


「あーぁ、どうかしたのかよ」


ライドは笑いを堪えて俺の肩に手を置く。

知ってるくせにわざとらしいな。


「そうか、ユウト君だったのか」


サンライズさんはいつもの事だろうとにこやかに笑った。


俺はため息を漏らして近い天井を見上げる。

こりゃ暫くは話聞いてくれねぇな。


「まぁ、仕方ないよな」


俺が悪いが、ちょっとだけ寂しいと思った。


「さぁ、私達も行こう」


サンライズさんの声に荷物を片して準備する。

樹美を終えるとサンライズさんが部屋を出いき、続いて俺とライドも部屋を出る。


部屋を出ると外には長蛇の列が出来ていた。

だが丁度よく俺たちの部屋の前が最後尾だったので、列の後ろにつく。

まだ後ろについてくるだろうなと思ったが、それ以降何分経っても後ろには誰も並ばない。


「これは最後尾かもな」


サンライズさんは腕に巻いた幾つもの宝石をあしらった、これまた高級そうな時計に目を落として苦い顔をした。

それに「うげぇ」と声を漏らすのはライド。


「なんだよ?長蛇の列は苦手か?」


俺は好きな小説の為に何度か並んだことがあった為ある程度耐性がある。


「そういうわけじゃねぇんだけど⋯⋯」


だが様子からして少し焦っているようにも見えた。


「トイレか?どうせ最後だろうし行ってきたらどうよ?」


「だから、んなんじゃねぇーっての」


「二人とも。喧嘩はよせ」


サンライズさんに制させれ俺たちは話を終える。

だがライドは「はぁ⋯⋯」や、「あーぁ」と零すと、チラチラと一向に動かない列にイライラが募ったのか、最前列を見るようにサイドにズレる。


「おっ、ミカちゃんみーっけ」


嬉々として声を上げるライドにつられて横から列を見ると、数十人先に、いつの間にか白いローブを被った天が並んでいた。


「やっぱりまだ怖いんだな」


やはり王都に向かわずにシークリフでもっと療養しておくべきだったか。


「閉鎖的だが他者を慮るシークリフと違い、王都は各地から人が集まってくるいわば混合都市。人が多い分まともじゃない人だって少なからず存在する。警戒したってしかたない」


サンライズさんは何処か一点を見つめるようにして表情を曇らせた。


「それを本来、国の王代理である私が統括、管理し務めなきゃいけないんだがな。力及ばすに申し訳ない」


サンライズさんはそう言い終えると、グッと拳を握りしめた。


「いやいや!そんな事無いですよ!サンライズさんが全部悪いなんて、俺は思いませんよッ!」


「⋯⋯そうか。すまない」


そう言って少しだけにこやかに笑ってくれた。だが目の奥にある暗闇はまだ影ったままに見えた。


「まっ、”王代理”のせいでは無いと思いますよ」


そう話に入ってきたのはライド。

「見てみろよ、ユウト」と天の方を見ながら顎でしゃくる。

言われるままに見やると、天のローブが小刻みに揺れている。それは列の中に埋もれて見えない誰かと話しているのが分かる。

間違いなく手を引き連れだしたフウカだろう。

感じからして楽しそうなのが伝わってくる。


「俺はミカちゃんの事情とか詳しくないけどよ、王都に向かって行く決断は必ずしも間違いって訳じゃ無さそうだろ?」


ライドはこちらを見てニッコリと笑った。


「あぁ、そうだな-!」


天だってここに来て数ヶ月、本当に少しずつ成長している。

シークリフの人達限定だったけど顔を見て話せていたんだ。

今はまだローブを被る事で身を守っているけれど、そうしてまで進もうとする意志が感じ取れる。


見守っていけばいい。何かあった時に俺が-守る事が出来たらいいんだ。


そうこうしていると、ようやく列が動いた。

「付近に魔物の生命反応無し-なるほど、いま移動用サークルを降ろしたんだな」とサンライズさん。


「移動サークルも王子が普段行っているのか?」


ライドはぶっきらぼうに質問する。


「あぁ、本来なら王代理として私の管轄で行っている」


「ふーん⋯⋯」


ライドは外の景色を横目にそれ以上何も話さない。

いや聞いておいてその態度は駄目だろ。


さっきまで話が続いていたのでいきなり黙るのも何か変な空気だ。ここは俺が一つ、気になっていた事を話題にするか。


「あの、サンライズさん。どうして普段から自分を”王代理”と名乗るのですか?」


「ん?」


そう。これは結構気になっていた事の一つだ。

十年前、魔王により元王-つまりはサンライズさんの父親にあたる人が亡くなったのは聞いていた。ならサンライズさんが次の王のはずだが、自らを王代理と呼ぶのが引っかかっていた。


「前に自分よりも王に相応しい者がいる、と。その人がいるからですか?」


ただセンシティブな内容かと聞くのを控えていた。


俺の質問にサンライズさん「うーん⋯⋯」とうなり考える。

数秒もしないうちに真剣な顔をしてこちらに向く直る。


「⋯⋯知っていると思うが、私には弟がいるんだ。それもとっても優秀な弟だ。名をネレウス・アクアシア。水の勇者であり大海の支配者とまで言わしめるほどに強い魔力を持った⋯⋯そして、王としての才覚のある自慢の弟なんだ」


サンライズさんは昔を思い出すように続ける。


「巷では死んだ⋯⋯-とされているが、それは違う。大きな声では言えないが魔力を使い果たして眠っているに過ぎない。私は彼がいつか戻ってきた時に王の座を明け渡したいのだ。私は切り捨てるしか選択できなかったあの日、民の為にその命を燃やし尽くさんばかりのありったけの魔力を惜しみなく王都に使った彼に。だから私は彼の”代理”なのだ」


語るサンライズさんの目は悔しさはなく、そこにあるのは羨望の-いや、弟が勇者であり王である確信を映し出していた。


サンライズさんは誇らしげに告げる。


「勇ましい彼の姿は本当の意味での勇者-。そして民を導かんとするその姿勢こそ-王たる器なのだ」と。

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