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第三章 第二話「盗人追う中、閑散とした船外」

王都アクアシアを目指す勇人たち。


しかし二日の船の揺れにやられて勇人が外でふけっていると、フードを被った子供に”巨人の大剣タイタン”を奪われてしまう。

閉められた扉を間髪入れずに開け放つ。そこにはフードを被った子供の姿はなく、変わりに多くの人でひしめき合っていた。


「こ、ここを通って行ったのか?」


少し先まで一本道。回り道なんてない。

人の間からたなびくフードの端が見える。どうやら小柄を活かして抜けていったのか。


「すみませんすみません!」


ぺこぺこ謝りながらも強引に人混みを掻き分ける。

いくら通路に溜まるのは駄目と言われたからって、まさか船外に続く細い道に寄っているとは。

そんな所に居るくらいなら外に出て風をにあたる方がよほど気持ちいいのに。


抜けると、三つに別れた分岐点に差しかかる。

見渡せばフードの子は左側の通路を走り、折れた所を曲がって進んでいくのが見えた。


「待てーーーっ!」


どんな理由か知らないが、勝手に人の物を盗むのは許さない。

俺はまたしても駆け出して後を追う。


大船と言えど余り使われない通路は、人二人通るくらいが精一杯で細い道が多い。

俺は視界に現れる人を左右に避けて、自分史上最速ラップをたたき出す。


折れた所を曲がれば、両脇に常設されているテナント

がズラっと並んでおり、人が溢れていた。


「げっ-」


ここを抜けるのかよ!

まさかこんなに賑わっているとは。

船内の人の多さを考えればそりゃそうか。


「すみません⋯⋯」


なるべく小さく腰を折り、這うようにして通る。


両脇からは魅力的なテナントが多く展開されていた。

そこには様々な工芸品、その村や町からしか取れない調味料など置かれていて、話に聞いていたのもあり気になっていた。

特に伝統の武具なども売っているらしく、後で皆と見に行こうと話していたのだ。俺一人で見るのは違うし、今はそれどころじゃない。


「うぅ⋯⋯気になる⋯⋯」


そんな世迷言を吐きつつ抜けると、一段と煌びやかな飾りが目立つ場所に出る。

ここは大船の目玉となる場所の一つであり、大きな会場となっている。


ここでは連日連夜、ダンスや談笑等に使う社交の場と

なっており、昨日も気品溢れる人達が集っていた。

勿論、アクアシア王国の王子として元グラディウスでもあるサンライズさんは顔を出すし、フウカも民兵隊副団長として綺麗なドレスコードに身を包んで会場へと足を運んでいた。

それに天だって着飾りそこに行っていた。どうやら天は親の事情でそういう場に慣れているらしく、最低限のマナーもダンスも分かっているらしい。


だが俺は身長も低く用意された服も似合わない。

マナーも曖昧なので、暇していたライドとBARの方へ行って話にふけっていた。


楽しかったのだが、帰りにチラりと会場を見やれば、天が全く知らない高身長イケメンと手を繋いで踊っていたので、BARに戻りヤケクソで飯をかき込んだ。


昨日の嫌な思いが蘇りつつも、辺りを見渡すとフードの子は端にあった小さな扉へと手をかけているのが見えた。

そんな俺にフードの子は気付き、ハッとして頭を動かすと、素早くその扉を開けて中へと入っていく。


「待て-っ!」


俺はそこに数秒も掛からず辿り着くと、突然扉が開いて誰かが出てくる。


「おわっ-」


だが足は止まらずに誰かにタックルする形になってしまった。


「うおっ、すみませんっ!」


「うぉわ!?」


そのせいで誰かに馬乗りになってしまう。

すぐに立ち上がろうと手をつくと-⋯⋯何だこの小さくもちょっとした反発があるような心地よい弾力は。


ふと扉に向けた視線を下へと向ける。


-ふにっ。


そこにはピンク色の髪をした女の子が寝ていた。

痛みに細められた緑色の目と、横に長く伸びた耳はエルフと分かる。

そして全体的にロリっぽい-いやこのロリは?


「イタタッ⋯⋯-あっ」


-マズい事となった。


咄嗟に飛び出た俺の手は、下の彼女-フウカの胸に置かれていた。

ヤバい。この体勢が一気に危ないものと化す。


-やばいやばいやばいやばい!


「あ、いやっ、これはッ-」


-もみもみ。


そしてあろうことか何度も揉んでしまっていた!


「あわわッ⋯⋯うう⋯⋯」


フウカはみるみるうちに真っ赤になり、今にも泣きそうな怒りそうな顔をする。


「これは事故で!だからッ!その⋯⋯ッ!」


-もみっ。あれどうした俺、また揉んじゃった。


「⋯⋯ち、小さくても柔らかいんだな」


うんミスった。本音が漏れちゃった。


「うわぁぁあああんッ!」


刹那、神速の拳が下から突上がってきて反射的に躱す。


「ごめーーーんッ!」


俺は即座に目の前の扉を開けてフードの子を追う。ぶっちゃけ今だけはフウカから逃げたのが理由だけど。

だがそれも悪手だった。


背後からフウカが騒いでいる。

防音なのか声が届かず、ガチャガチャと扉を開けられるのを恐れて咄嗟につまみを捻り鍵をかける。


振り返ると厳重にももう一つの扉があり、なぜかピンク色していたが、とくに考えるもなく開け放つ。


「-は?」


「えっ?」


扉を開けると、目の前にはふわっとした柔肌が現れた。

それは先ほどまで喋っていた天だった。それ自体は問題じゃない。


問題なのは、天の格好。

天はセーラー服を脱ぎ捨てて、もろ下着姿となっていた。

おかげで普段見られないオヘソが見えて、細い腰つきが露わとなっていた。

最後に脱ぐのつもりだったのだろうニーソが、なんとも言えない際どさを加速させている。


「はっ⋯⋯えっ?」


処理出来ずにいる頭が、視界の隅の方に映る水着でようやく動きだす。

そういえば室内に小さめなプールがありましたね。

ハッとして天の顔を見やれば、天は脱ぎかけの手を止めて、俺をゴミを見るような目で突き刺す。


天の後ろには、服を脱いで同じく下着姿となった女性が複数人、俺の存在に気付いて「きゃぁああ!」と叫ぶ。


「あっ、いやこれは-」


「死ね」


刹那、俺の視界は真っ黒に染まり、顔面に蹴りが迫っているのだと知った時には痛みが走った。


「二度と来んなよ」




数十秒間、天含めた女性陣から殴る蹴るなどの下着姿を見た報復を受けて外へと放り出される。


「アガ⋯⋯」


最初にフウカから逃げようと鍵を閉めたのが仇となった。扉の捻るも開かず、逃げきれずにボッコボコよ。


「だっ、大丈夫⋯⋯?」


半殺しにあって天を仰ぐ俺の顔を覗くフウカ。こいつは過って胸を揉んでしまった事を怒っていないのか。


「さっきの事、怒ってないのかよ」


どうやら俺のボロボロさに流石にビビったみたいだ。


「いやぁ、そこまでボロボロの姿を見るとね⋯⋯」


とこぼす。


「まぁユートくんなら少しくらい-」


「あっ!こうしちゃいられねぇんだった!」


痛む身体を起こして俺は弾かれるように走りだす。

何かフウカが言いかけていたけど気にしていられない!


「確か室内プールは外にも出るスペースが少しだけあったな!」


昨日から天を誘って行きたいと思ってた⋯⋯もう絶対に叶わない夢となったけど。

俺は最短で室内プールへと入るルートとして、横にあった外に繋がる扉から出ていく。


出ればまたしても閑散とした風景が現れる。

あんな狭い所に居る必要ないのに、外には人っ子一人いない。同じような風景が続くからか?


王都アクアシアは、アクアシア大陸に囲まれるようにして存在する孤島のような所らしい。

当然アクアシア大陸から一番離れており、遠巻きに見える海に浮かぶ姿は”海上都市”とすら言われている。

おかげで船からの風景は遠くの方にアクアシア大陸の連なった山々が見えるだけで変わり映えしない。わざわざ見るに値しないのかもしれない。


「こっちからだと後ろの方しか行けないのか」


そういえば内部にテナントが多くて窓が少なかった。

豪華客船なら外から一周回れる位はありそうだが、左右に外に出られるスペースが無いのだろうか。

頭にハテナを浮かべながらも俺は室内プールへと向かった。


「やぁフウカ」


ふとフウカに話し掛ける男性が一人。

フウカが振り返ると、その男性は高貴な服装に身を包み、明らかに皇族だと分かる。


「サンライズさん!」


フウカはサッと立ち上がると慌てて服の埃を払う。


「ごめんごめん、別に任務じゃないよ」


いつの間にかサンライズは額の皺が寄ってしまっていた。ふと真剣な表情を和らげる。

でも直ぐにまた元に戻ると慌ててフウカに確認する。


「フウカ、さっき外に誰かが出ていかなかったか?」


「え、はい!ユートくんが出ていきましたよ。そうがどうかしましたか?」


「うーん⋯⋯どうしようか」


サンライズはより一層、額の皺が寄ってしまう。

そして何事かとぶつぶつ呟きだす。


「あの~、サンライズさん?」


「⋯⋯いや、王国騎士もいるし、お披露目も兼ねて見守ろうか」


フウカは頭にはてなを浮かべていると、サンライズが悟る。


「⋯⋯ちょっと付き合ってくれるか?」




「へへへ⋯⋯外から近付けたぜ」


少し歩いたら、外から硝子で出来たプールが見える。

だが何かがある事に気がつく。


「-ッ!?」


そこには甲冑に身を包んだ屈強な男が立っていた。

その男から放たれるオーラに俺は思わず息を呑み、身体はバレる事を拒むように固まった。


-強い。多分フウカよりも。


緊張で大量の汗と身震いが起こり、その男から視線が外せない。

本能がバレるなと言っているのがわかる。


「-ん?何の用だ?」


気付かれた!

男はじろりと顔だけこちらに向けると、「危ないから外には出ない方がいい」と戻るよう促してくれる。


「あ、いや⋯⋯ちょっとそっちに用が⋯⋯」


「ん?聞こうか?」


ズイッと男は悠然と歩いてくる。

正直圧がすごくて来て欲しくない。


-ガチャ。


すると突然、後ろの室内プールから誰かが出てくる。

フードを被った子-⋯⋯子ッ!?


「お前ッ!」


声を上げるとビクッ!と方をす竦ませるフードの子。


「む?君危ないぞ!」


俺と男の声に慌てたのかバッと身を翻してすぐさま反対方向へ逃げる-その時だった。

フードの子を進路を経つように、バァンッ!と水しぶきを上げて海から何かが飛び出してきた、


「なんだぁ!?」


慌てる俺の隣で、男は「チッ」と小さく漏らして腰にぶら下げた剣に手をかける。


現れたのはアザラシのような見た目の魔物だった。

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