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第二章 第五十話「楽しく過ごした街」

襲撃の傷跡は酷く、グラディウスの二名は絶対安静の状態。

更に”黒衣の男”はジェラだったと知る。

街は殆ど破壊され、悲惨な有り様。

それでも誰一人として俯くものはおらず、必死に今を生きようとしていた。

二ヶ月後。

街の人達の協力により、街は前と変わらないまでに修繕が終わっていた。

本来なら最低でも半年は掛かるレベルの損害だった。早かった理由としては、損傷箇所が酷く、ほとんど建替えに近い形を取った為である。


「ここも元通りになったな」


陽光(ダヴナ)”が沈み始めた夕方、俺と天はオレンジ色に染まった街並みを歩く。


二ヶ月も経てば真夏のように暑かった日々は終わり、この時間帯なら肌寒さすら感じる。

それでも、この時間特有の空気の澄んだ世界が好きで、俺と天は度々歩いている。


「フウカちゃんの力があったからこそだったけどね」


そう。魔力欠乏していたフウカは数日で復帰して、その風の魔力を存分に使い再建の資材を運んだ。おかげで崖ギリギリに建っていた建物や、階段などの修繕に大いに役に立ったのだ。


そのフウカが直してくれた階段の入ると、天は手すりをなぞるようにして進んでいく。


「おいおい。ライドだって頑張ったろ?」


「えー⋯⋯まぁ?」


ライドは襲撃から一ヶ月ほどしてようやく身体が動くようになった。

最上位の魔物にたった一人で挑んだのだ。フウカですら一分も持たなかった相手に数分持たした英雄なのだ。

そんな彼を皆は褒め讃えたが、それが良くなかったようで、調子に乗ったライドは威張り幾度となく天に言い続けたので呆れたようだ。


「自分から俺、かっこいいだろ?はかっこよくない」


と天はバッサリ。


「流石に気持ち悪いな」


「あんたもね」


同感したつもりが、墓穴を掘る形になってしまった。


俺もそういう所あるんだと自重していると、天は楽しそうにステップを踏み駆け下りて港街に入る。


「あっ、ほら⋯⋯きれい⋯⋯!」


一足先についた天はぴょんぴょんと跳び跳ねて嬉しさに溢れる。

俺も階段を降りきると、そこから見える景色に感嘆の声を上げる。


漁港関係の建物が横一列に並ぶ奥-見えたのは、大きく切り開かれた浜辺だった。


「やっぱいつ見てもすごいな⋯⋯」


この案を思いついたヴィランダさんに感心する。

約三日と、深手にも関わらず復帰の早かったヴィランダさんは「浜辺はもっと大きくしよう!」と、現状破滅的な港街をまるまるリメイクしだした。

密集していた漁港関係の施設を左右にきっちりと並べ、真ん中はそのまま浜辺へと直行出来るようにと作り変えたのだ。


「行こっ!」


子供のようにはしゃぐ天は、しみじみと見ていた俺の手を引いて浜辺まで一気に駆け出した。


ヴィランダさんは、ただ浜辺での遊びが楽しかったからリメイクした訳ではない。

それに至ったの大きな理由として、サンライズさんと結んだ約束になる。


「俺は他を切り捨てず、必ず拾い上げる。それを実行できる王子でありたい」


サンライズさんはそれを公約に、王都と街シークリフを結ぶように提携した。

それは互いに物資の供給、観光目的も含まれる。

その為、来年には大きな船を完成させて交流が始まる予定なのだ。

おかげで早くもマフィンさん率いた街の人達で造船に取り掛かっている。

忙しそうだが、マフィンさんは自分の居場所を見つけたように楽しくやっている。


手を引かれるままに街を抜けると、天の瞳は一際大きく潤んで輝いた。


「わぁー⋯⋯ッ!」


飛び込んできたのは、視界いっぱいに開かれた浜辺だった。

海はオレンジ色に染まった空を乱反射させて煌めき、波は何度も押し寄せて音を奏でる。


前は一角にちょこんとあった小さめの浜辺だったが、今なら何百人と呼んだとしても軽く収納してしまう程だろう。


天は嬉しそうに声を上げて俺の手を振り払うと、一人で走り去ってしまう。


「俺を置いていくのかよ⋯⋯」


若干の寂しさを残しつつも、俺はその光景に目が緩んた。


「やっぱりこの街が好きだな」


俺はガラにもなくこんな事を口走っていた。


街アサガナにいた時とは比べものにならないほど、天

は前と変わらない明るさを取り戻している。

かと言って傷は深く、簡単には消えない。

それでも今の彼女の服すら脱がずに海へと飛び込んでいく姿を見ればそう思わざるを得ない。


「-あっ、風邪ひくぞ!」


「勇人もおいでよ!」


そう彼女に無邪気な顔で呼ばれれば、そうしてあげたいと思う。


「置いていくなよ!」


そう言いつつも、心の中は嬉しさに踊っていた。

俺も服が濡れるのもお構いなく天の所に飛び込んだ。


「ちょ、激しすぎッ!」


天はおかえしと俺に水を掛ける。


「ブッ!やったな?」


そこから壮絶な水の掛け合いに発展するも、天の手数にやられてしまった。

数秒で降参の白旗を振って互いに笑いあった。




「あーぁ⋯⋯明日には王都かぁ」


どれだけの時間が経ったのか、ふと天は空を見上げて呟いた。

いつの間にかオレンジ色だったのに横から夜空が入り始めている。


「なんだよ?嫌だったか?」


「ううん。そうじゃない⋯⋯けど」


天が振り返るのは街の方-。

その顔は何処か寂しさをみせる。


「過ごしやすかったもんな」


きっと彼女の心は、ここに留まりたいのだろう。

だが彼女は「ううん」と首を横に振る。


「だけど-進まなきゃ⋯⋯帰らなきゃ」


彼女は口をきつく結んで覚悟が瞳に宿る。

それでも何処か先を見ているように煌めいていた。


きっと見えたのだろう。この浜辺を埋め尽くす人々が。


そこに映るのは、王都から来た人々と、街アサガナからの来訪者。

街アサガナにはフウカが伝えにいっている。

街シークリフの人々は我々を恨んでおらず、生命力に溢れたとても力強い人達なのだと。


だからこそ彼女は思ってしまったのだろう。

ここに居れば、もう自分は傷つかないと。

これ以上、他の街に行けばまたフードを被る生活が待っているのだと。


「また来年、来たらいいさ」


「えっ」


「もう夏のような暑さは無くなったし、集まるならまた来年かな~って」


俺は少し嘘をついた。

来年までここに残っている可能性があるのだろうか。


答えは否。帰る手立てがあれば俺たちは元いた世界へと帰る。それが俺達の目的だからだ。

傷がつこうとも、進んでいかなければその道は開けない。それが茨の道だったとしても。


彼女の為、俺はわざと話題を逸らしたつもりだ。

だがそれは杞憂だったようだ。


「うん⋯⋯また来る、つもり。だから明日行くよ」


天は自身の弱さを克服するように振り払い、海の向こう-はるか先にある王都へと目を向けた。


寒さからか、天の身体は震えていた。

彼女の手は強く握られていた。


「まぁ⋯⋯俺もいるし?」


その手を俺は握った。

天は一瞬、驚いた顔を見せるも頬が赤くなった気がする。オレンジ色の空のせいか分からない。いやもう夜になりかけてた。


見つめ合う俺たちは、なぜか動けずにいた。


となると勝手に意識しちゃうわけで⋯⋯。

俺の脳は勝手に天の潤んだ瞳、艶のある唇、赤らめた頬と随所に注目しだした⋯⋯まずい。


「あ~ッ!てめぇユウト!ざっけんなぁ!!」


「ミカちゃんたちもここに居たんだ!」


誰だよ俺たちの間を邪魔するのは。

苛立ちに額に筋を浮かべて見やると、猿みたいに喚き散らすライドと、「混ぜて混ぜて!」と子供のように走ってくるフウカ。


「!フンっ!」


おかげで俺の手は振り払われてしまった。


「おらァ!ユウト!どういうつもりなんだテメェ!」


「⋯⋯あぁん!?」


上等だ!

手を振り払われた腹いせをライドで済ましてやる!


こうしてまた、ライドとフウカを含めた四人で水掛け合戦が始まった。

⋯⋯まっ。また俺が最初に白旗を振る事になるのだが。




空はもう陽は沈み、いつものように騒がしい夜が幕を開けた。

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