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第二章 第四十八話「縛られた記憶」

遂に魔族を倒したサンライズはヴィランダを抱える。


倒す為とはいえ、もはや虫の息となったヴィランダの最後の願いと唇を重ねる。

死は免れない。

諦めきれないサンライズは叫ぶも助けは来ない。そこに包帯でぐるぐる巻きとなったマフィーが現れる。

⋯⋯。


気付けば俺は海の上に一人ぽつりと立っている。


「何処だ⋯⋯ここは」


周りに見えるのは辺り一面に広がる湖畔-⋯⋯いや海だ。その青い海以外目立つものは無い。

潮の匂いもない、波風一つ立っていないからそう錯覚してしまった。

そこに俺は取り残された岩礁のように一人佇む。


まるでいつか満ちる潮に攫われるのを待っているかのように。


焦りにまた辺りを見渡せば、はるか遠方、先ほど無かったはずの海の一角に、岩壁に挟まれるようにして成った街が小さく見える。

それはさっきまで自分が居たはずの街シークリフだ。


あんなに離れていたか?

いや、街からは近かった位置だ。


まさか流されたのかと慌てて足を踏み出そうとしようにも動かない。

まるでそこに縛られているように一歩も、そしてその思考すら沈められるような気持ちに恐怖を覚える。


ズンッと重い何かが静かに後ろで降りたのを感じる。

そして湖畔とも思しき海にようやく波紋が生まれて俺の脚を通過して広がっていく。


後方に目をやると、そこには黒い竜-魔竜グランドが横たわっていた。

俺は慌てて武器を構えようとして身体が持っていかれる。

見ればそれは”巨人の大剣(タイタン)”であり、片手どころか両手ですら持て余す圧倒的なサイズだ。


だが俺は片手でガシッと、掴む事すら叶わないグリップを超人的な握力で握り掴んで持ち上げていた。


そのまま魔竜グランド目掛けて振り下ろそうとして止まる。

魔竜グランドは目を白濁とさせて、口からは泡を吹いていた。

身体はもう半分が紫色の粒状へと変化させて、消えるのも時間の問題だった。


こんな事誰が出来たんだ?


ボタタ、と上から何かが顔を降りかかる。慌てて顔を拭うと、それは真っ赤な血だった。

見上げればその”巨人の大剣(タイタン)”にはべっとりと血が付着していて、何かを倒したのだと理解する。


「-俺か」


ニヤリと俺の口角は嬉しさと狂気につり上がっていた。


グリムも倒して、そしてフウカすら相手にならなかった魔物をたった一撃で葬ってしまったのだ。自然と口元が緩んでしまってもしかたない。


俺は強くなった。


「キヒヒ」


また降りかかる血が顔を真っ赤に濡らす。

次は拭う事なく血濡れたまま、不気味に顔を歪めて強さに酔いしれた。


まるで倒した相手の血を浴びることで強さの証と自身を染めるように。


そう。俺は強くなりたかったんだ。

どうして?


⋯⋯分からない。


ただ今は、この瞬間が心地が良い。永遠に浸っていたい。そう思えるほどに身体を委ねて幸福を味わう。


「どうして力を求める?」


どこからともなく誰かがそう俺に問いかける。

男性とも女性とも取れない声。


だけど俺は答えない。

まだ浸っていたい、邪魔しないでくれ。


「どうして力を求める?」


またしても聴こえる問い。

煩わしいと思いつつも、また聞かれるのも癪だからと何処からか聴こえる声に反発するように振り返る。

そこには小さな少女が一人、音もなく立っていた。


いつからそこに?

その少女は顔を下に向けたまま小さく横に首を振る。


「強く⋯⋯なった、の?」


その少女は俺に問う。

まるで地底から聴こえる地響きのような声に思わず緊張が走る。


「あ、あぁ⋯⋯その、つもり」


さっきまでの自信はどこえやら。俺はそう答えて思わず仰け反った。

決して臆した訳じゃない。

そう答えろと、身体が言う事を効かなかった。


「嘘つき」


少女は小さく呟くとゆっくりと顔を上げる。


俺はその顔に見覚えがあった。


「ゆう⋯⋯な、なのか?」


それは俺の三つ下の妹、”勇菜(ゆうな)”だった。


「うん。そうだよ」


勇菜は苦しそうに顔を歪ませて、不器用に笑った。

まだ苦しんでいるのか。


「待ってろ!今そっちに行く!」


足は動く。行けるっ!

しかし足を出しても出しても一向に前に進めない。


「くそ!くそっ!なんで行けないんだよ!」


それどころか、ゆっくりと海の中へと俺の身体は引き摺られ始めていた。

まるで足掻けば足掻くほどに沼る蟻地獄のようだ。


クソぉッ!また、また⋯⋯届かないっていうのか!


「無駄だよ」


勇菜はそうはっきりと声を漏らす。生前と変わらぬ声で。


「だって⋯⋯助けられなかったじゃん」


勇菜の顔はばっさりと割れて、顔から見えてはいけないものが噴き出して真っ赤に染める。


「あっ⋯⋯あぁ⋯⋯⋯⋯」


それは命を落とした時のまま顔を歪めて嗤う。

刹那、ボタタと三度目の血が上から降り注ぎ、既に真っ赤に染まりきった頭を激しく濡らす。


「ほら」


その上から聞こえる声は確かに勇菜の声だった。

だが正面に勇菜はいる。


嫌な予感がして恐る恐る上を見上げる。


「あぁ-」


その予感は的中した。


上からは血濡れた勇菜がこちらに迫っていた。

それはあの時身投げを強要されて落ちていく時と全く同じ、その割れた顔が俺の顔ギリギリまで迫り止まる。


「お兄ちゃんのせいだよ」


「-あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!」


もう気が狂いそうだった。わけも分からずに声を荒らげて俺は手足をばたつかせた。


「ちょっと!大丈夫!?」


「⋯⋯はぁ?」


気が付けばシーリングファンが回っているのが見える。

天井?つまりはどこかの建物の中?

その視界を遮ってグイッと顔を覗かせるのは女の子-天だった。


「ようやく起きた」


はぁ、と天はため息をついて「大丈夫?」と肩を揺する。

その時ようやく俺は先程まで夢の中にいたのだと知る。


「あぁ⋯⋯ありがとう」


部屋には明るく陽の光が差し込んでいた。


「俺、どのくらい寝てた?」


俺の問いに天は後ろを振り向いて時計を確認する。


「うーん⋯⋯多分四時間くらいかなぁ。そんなに寝てないよ。てかうなされてたけど大丈夫?」


「⋯⋯あぁ。大丈夫」


暫く見ていなかったが何とも嫌な夢を見てしまった。


「はぁ~⋯⋯」


俺のため息に天は引っかかったのだろう、「やっぱり何か嫌な事でもあったんじゃないの?」と聞いてくる。


「まぁ、な」


それ以上突っ込まれたくない。

俺は逃げるように天から顔を背けてベットにうずくまる。


「そう」


天は俺の気持ちを察してかそれ以上聞いては来なかった。


「動けそう?隣りにヴィランダさんとサンライズさんいるから挨拶行こうよ」


「ん?あぁ」


そうか。サンライズさんはヴィランダさんに勝ったのか。


「何ニヤついてるの?気持ち悪い」


「はいはい」


俺はよっこいしょとベットから飛び降りる。

ふつう怪我人を歩かせるか?と思い、ふと置かれていた全身鏡に目をやるとその答えが見つかった。


「⋯⋯ない」


服は切り裂かれボロボロとなり、昨晩の闘いの激しさを物語っていた。

だが不思議と思ったのは、俺自身の身体だ。


-おかしい。昨晩の傷が見当たらない。


慌てて上半身の服を脱ぎ捨てて確認しても、身体には傷どころか擦り傷一つすら見当たらなかった。

何度か攻撃を喰らったはずだ。だが天に裂かれた頬の傷さえも綺麗さっぱりなかった。


「俺って誰かに治療された?」


「え、上に居たから分からないけど、あんたがここに運び込まれた時には傷はなかったよ」


「うーん」


もしかして誰かに魔法を掛けてもらってからたどり着いた?まぁその可能性が高いか。


魔力が全くない身体なのに、中途半端や壊れた武器を完全に再生できる能力。

自分の身体だと言うのに知らないことが多すぎる。


「まぁいいや」


気にしても仕方ない。

とりあえず二人の様子を見に行こう。

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