第二章 第四十六話「報いを受けな」
勇人は巨人の大剣をようやく見つけたが、あまりの大きさに振れないでいた。
迫る黒い竜-。
勇人は一度武器モードを解除して、高い位置からの落下を利用して巨人の大剣をもう一度発動させる。
その攻撃は黒い竜を一撃で容易く屠ってしまぅほどの火力を見せたのだった。
「凄すぎるだろ⋯⋯」
ライドは感嘆を声を漏らして海へと駆け出した。
理由は決まってる。
この街を守った英雄を迎えに。
そして、この事実は魔族リリアルにも衝撃を与えた。
「なッ⋯⋯!」
有り得ないッ!
魔族であるこの私がっ!
半分以上もの魔力を注いで死に損ないを復活させたと言うのに!
たった一撃。それも魔力も感じないよく分からない巨大な剣で葬られた!
「⋯⋯クソッ!」
「焦っているようだな。顔に書いてあるぞ」
目の前の男-サンライズはニタリと笑う。
「それほど魔竜グランドが倒されるのが誤算だったのか」
「⋯⋯五月蝿い」
-さっきから何なんだこの男は。
「うるさいうるさいうるさいッ!どーしてさっさと終わらないの!あんたじゃ肉に勝てないはずなのに!」
この肉ッ!さてはぁ手加減?
いや、私の魔力は愛し合う力を反転させて殺し合わさせる力。そんな余地はない。
なのにどうして!目の前の男には笑う余裕すらあるの?
「私の魔力が効いてない?ううん完っ全に目は虚ろにハート!掛かってるのにどうして!?」
相変わらず手数が多すぎて攻防は目で捉えきれない。
でも男は確実に押してきているのが分かる。
なぜなら肉の身体に少しずつ傷が目立ち始めたから。
「チィッ-」
醜い言葉を吐きかけてハッとする。
だめだめ。だめよリリアル。焦っては。
だってこの男は肉に勝てない。
その証拠に最初は逃げた!
何度もこちらに攻撃を仕掛けては肉に弾かれてぼろぼろ。
痛みに顔を歪めて今にも虫の息だったの!
なのにどうしてッ!今はそこに平然と立っているの!
「たった数分で何があったって言うの!?」
私はありったけの魔力を肉に注ぐ。
「おらぁッ!残りの魔力ねじ込んでやるよぉッ!!」
あら♪口調がっ⋯⋯なんて気にしてられない!
肉は魔力を入れるとさらに激しく男を火花を散らす。
さすれば男は一瞬後退し辛そうな顔を見せる。
「あらぁ?イイ表情じゃなぁ~い?」
そうそうそれよそれ!私が見たいのはその顔♪
やっぱり強がったとしても虫の息には変わりない。
「どーする~?私のモノになるって言うなら⋯⋯止めてあげてもイイケド?」
甘い声で誘ったのに男はつられないどころか無視。
何?私に本当にそこまで魅力が無いって事!?
本っ当にムカつく。この無駄肉の方がこの男には好みなのね。
⋯⋯もう一思いに肉を殺す?
フッ⋯⋯焦らないで、私♡
たまたま、この男が無駄肉が好きな変わった人なの。世の中この私みたいなロリで甘い人形のような形が好きなのだから♪後で処理で大丈夫よ♪
私が自分の心を沈めている間、ふと前を向けば肉は少しずつ後退し押され気味となっていた。
「⋯⋯どうして、なの」
おかしい。さっきまでとどう違っているというの?
「そんなに私がおかしいか?」
「あぁ!?」
一々この男の発言にムカつく。
もうだめ。苛立ちが隠し切れない。
思わず噛み付いてしまった。
「思い出したんだ⋯⋯ヴィスとの約束を」
「はぁ!?それがなんだってのよ!」
この男ッ!凄まじい攻防の中、目を伏せて悲しげに笑った?なんなの、なんなのっ⋯⋯なんなのっ!
そんな私の胸中も知らないで、男はゆっくりと顔を上げた。
「私は君を乗り越えて行くと」
「はぁ!?」
何を言っているのこの男は?
「それがどうしたって言うの!?それがどうして、今そこに平然と立っている理由になる!?」
今もなお激しい攻防を繰り返している肉と男。
数分前まで一方的だった展開が、肉が今にもやられて逆転してしまいそうな勢いだ。
どうして?
その理由が”君を乗り越えて行く”と約束した?
それが今そこに立てている理由なんて結び付かない!
「分からないだろうな。本当の愛を知らない貴様には」
「このッ-言わせておけばぁぁああああッ!」
刹那、バギャン!と目の前から金属が砕ける音と共に何かが弾け飛び耳を裂く。
「アァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
痛い痛い痛い痛いィッ!
ザックリいった!ザックリ痛ったぁぁ⋯⋯。
でも痛みを触れている場合じゃない。
涙でぼやける視界からヌルッと目の前に現れるのは男の姿。
気がつけば先程の攻撃で肉はぶっ飛ばされてしまって目の前にはいない。
こいつ自分の好きだった人を殺したっていうの!?
壁にすらなれない、どこまでも使えない贅肉野郎があ-ッ!
「では、覚悟-」
男から振り下ろされる冷徹な剣は確実に私の脳天へと届く-所だった。
「-ッ!?」
だがそれは目の前でビタッと止まる。
「身体がっ⋯⋯動かない!?」
もうこれは笑うしかないよね♪
「ふぅ~⋯⋯フフフッ。ざぁーんねんでしたぁー♪」
「アハハ」と私は込み上げてくる笑いが止まらない。
「私が街に蒔いた魔力、回収させて貰いました♡」
男はよく分からないような顔をしてる。アハハ、分からないよねぇ♡
「魔力を貴方に。つまり貴方は私に恋してるって事。恋人に攻撃なんて、出来ないよね?」
「ぐぅ-ッ!」
男は悔しそうに下唇を噛みしめて力む。
でもどうにもならないの。
「くるしいよね?かなしいよね?でも仕方ないわ。これが私の魔力だもの♪」
私は脇からするりと小さなダガーを取り出す。
本当なら貴方をモノにしたかったけれど、あの肉にご執心みたいだしダメね。
「あぁ残念ねぇ♪じゃあ最後は私に綺麗な音色を聴かせ-ぐぇッ!?」
背中の方から凄まじい衝撃に身体が一瞬宙を浮く。
「がフッ!」
やだっ、口から血が溢れて漏らしちゃった⋯⋯そしてこの異常な熱さは何?
何事かとぐぐぐと首を振り向かせれば、背中には獣の如き爪が背中を貫いていた。
まさかとその手を辿ると、そこには肉がいた。
「どう⋯⋯して」
肉は胸から腰にかけてバッサリと裂かれており、今もなお苦しそうに血反吐を吐き散らす。
その怪我で立っているなんて有り得ない。
それでも血で濁ったその目は、まるで獲物を喰らう獣のように絞られてこちらを凝視していた。
「元グラディウスの私がこの程度で死ぬかよ⋯⋯じゃあな」
「あっ-」
私は最後何かを言おうとしたのだけれど、もうそこで口は動かず、気付けば落ちていく私の視線。
見えるのは私の胴体-あれ、首がないじゃない。
その背後、見下ろす肉の冷たい視線が突き刺さる。
「人の恋事情につけ込んだ報いだよ」
彼女はたしかにそう言ったのだろう。
そこで私の意識は消え失せた。