かんせい? 5
湊
「今度の日曜日は市民ホールで合同の練習があるから忘れないようにー」
練習中ずっと幸せな気分でいられた。
このままずっとこれが継続して今日の終わりにベッドの中で良い日だったなと感慨に浸れると思っていたのに。
それがさっきの先生の言葉で瓦解してしまう。
うっかり失念していた。
以前、去年から決まっていたスケジュール。このあたり出身のオリンピックにも出たことのあるすごい人が来て指導してくれる、近隣の中高の合同練習。
ついさっきまでたしかにあったものが急速にしぼんでいく。
どうしよう? このままじゃ観にいけない。
「忘れるわけないですよ」
わたしと対照的に恵美ちゃんはすごくうれしそう。
前々からずっと言ったもんね、その選手、今は引退しているけど、に憧れていたって。
そんな恵美ちゃんを横目で見ながら考える。
本当にどうしようか?
サボって、というか参加せずに紙芝居を観に行くということもできるのかもしれないけど、部のみんなが出るのに、わたし一人だけ欠席というのは。それでなくてもまだ一番下手だし、上手い人に教えてもらえればその分上達する、強くなれる良い機会のはずだし。
せっかく結城くんが報告に来てくれたのに。
今週は諦めるしかないのか。
……ああ、でも観たかったな。結城くんの創った紙芝居。
どんな作品なのだろう? どんな風に上演するのだろう?
航
納得したつもりだったけど、時間が経つにつれて疑心暗鬼が強くなっていく。
やっぱり、届いていなかったんじゃ。
なら、明日もう一度言うべきだろうか。
けどな……。
まだ残る羞恥心。
それを払しょくできない、多分だけど明日も尾を引きそうな予感。
そんな状態で、もう一度言いに行くような気力は当然のことながら湧いてはこない。
百聞は一見に如かず。は、違うか。聞くのは一時の恥かもしれない。聞かないで、来なかったら、もしかしたら一生後悔するかもしれないけど。
だけど、もう一度行うだけの気力はなし。
だから、信じよう、全然根拠はないけど。
それでも、ちゃんと届いているはずだと。
湊
自分で決めたこととはいえ、内心では本当は行きたい、結城くんの創った紙芝居の上演を観たい。
はああー、と溜息をつきながら結城くんを見る。
なんだかせ中が小さく見えるように気が。
どうしてだろう? もう紙芝居はできたのだから悩みごとなんかないのに。
結城くんをずっと見ていると鼓動が速くなっていく。
以前にも何回もあった。その時は原因は分からなかったけど、今のは理由が分かっている。
これは期待している音だ。
結城くんがどんな紙芝居を創ったのか? それからどんな上演をするのか? 楽しみにしている音。
だけど、今度の日曜日は観に行けない。
ああ、行きたかったな。
|航
日曜日、朝。
不安と後悔が入り混じったままで目を覚ます。というか、正直あんまり眠れなかった。
大丈夫と信じたはずなのに、やっぱり届いていなかったんじゃ、伝わっていなかったんじゃないのかという気がして、それが大きくなっていく。不安が肥大化してそれに押し潰されそうで、少し吐き気も。
それでも、もうどうしようもない。学校がある時ならまだ確認をとる手段があった。恥を忍んで確かめることができた。けど、俺には藤堂さんと連絡を取る術がない。
まあ、そんな術を持っていたらこんなにも悩まずに、すんなりと報告ができたんだが。
ともかく、天に祈るような気持ちで俺はあの自分で書いた紙芝居を持って家を出た。
一時、最初の上演時間。
それなりの人の姿。まあまあの盛況と言っていいような人入り。
だけど、そこには藤堂さんの姿はなかった。
やっぱり、あんな言い方じゃちゃんと伝わらなかったのだろうか。
いや、まだ最初の上演時間だ。多分、この後絶対に来てくれるはずだ。




