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or どっち? 4


   (こう)


 藤堂さんの一言は、俺の中にずっとあった悩みと迷いを消し去ってくれた。

 観たいと望んでくれている。

 たったそれだけのことなのに、天にも上るようなうれしさ、喜びが留めなくあふれ出してくる。

 幸福という感情が俺に中で一気に溢れ出る。

 こんな気分を俺一人で独占してしまうのは勿体ない、周囲の人々にお裾分けしたいような心境にかられるけど、流石にそれは自重する。そんなことをしても事情を知らない人には迷惑になってしまうだろうから。

「……本当に観てくれるの?」

 確認の言葉を。もしかしたらさっきのは俺の聞き間違いという可能性も。もしそうだったらこの喜びは糠喜びになってしまう。

「うん、観たい」

 藤堂さんは力強い言葉で返してくれる。

 聞き間違いなんかじゃない、俺の創る紙芝居を望んでくれているんだ。

「……観てほしい……絶対に……藤堂さんに……」

 情けない話だけど、俺の声は震えてしまっていた。ここで格好良く言えれば決まるのかもしれないけど、そんなことができるだけの経験値は俺にはない。胸を張って言うようなことじゃないけど。

「うん、絶対に観るから」

 うれしさで弾んでいる音のように聞こえる。

 うれしさが増大していく、爆発していく。

 もうすぐ次の上演時間なのにそれどころではなくなってしまう。

 心臓は早鐘のように動き続け、うれしさで地に足がつかないような感覚。

 こんなんじゃ久し振りに観に来てくれた藤堂さんを楽しませることができなくなってしまう。残念な紙芝居の上演になってしまう。

 落ち着こうと思いはするものの、なかなか落ち着けない。



   (みなと)


 本当は来月だけど、ちょっと早いクリスマスプレゼントをもらったようなうれしさが。

 これまでの人生で一番うれしいプレゼントかもしれない。

 ああ、でも完成まではまだ時間がかかるかも。絵を描いて、そして練習をして、それからの上演になるはずだから。結城くんの創った紙芝居を観られるのは年明け、ということはお年玉、もうちょっとかかってバレンタインの贈り物になるかも。

 すごく楽しみだ、待ちきれない気分に。

 この形はないけど、最高の贈り物をいつまでも心の中で愛でていたい気分になる。

 けど、どうしよう。

 結城くんのする紙芝居で楽しくなるつもりだったのに、観る前にすでに楽しくなっちゃった。



   航


 落ち着かないままで、ちょっとだけ藤堂さんの傍を離れる。

 報告しないと。

 ヤスコに。

 あの紙芝居を書きなおして、藤堂さんに観てもらう、そんな決意を。


「決めた」

「決めたって二時の最初の紙芝居? ああ、あの子が来てるもんね。それじゃまた一番手は航に任せようかな。ああ、それよりも全部アンタが上演したほうがいいかもね」

 俺の後ろにいる藤堂さんの姿を見ながらヤスコが言う。

 けど、それは勘違いだ。俺が決めたのはあの紙芝居でいくこと。

 それにいくら藤堂さんが観てくれるといっても全部一人でするのはゴメン被る。というか、サボろうとせずにお前もしろよ。という、突っ込みの一つも入れたいところだけど、それどころじゃない。今はそんなおふざけをしている場合じゃない。

「違う。そうじゃない、……そうじゃなくて」

 言うべきことは決まっているはずなのに、なかなか言葉が出てこない。

「だったら何よ? 前も言ったけどちゃんと主語を言いなさい」

「だから、紙芝居」

「紙芝居は今からするんでしょ。違わないじゃない」

「そうじゃなくて、えっと、あれに決めた。……あの紙芝居を創ることに決めたから」

 ようやく言えた。

「……いいの、あの作品で?」

 そう言いながらまたヤスコは後ろの藤堂さんをチラリと見る。

「うん」

「本当にいいの?」

 念を押すように聞いてくる。再度質問される。

「うん」

「もしかしたら、あの子のことを傷付けるようなことになるかもしれないのに。こんな場所で言うのもなんだけど……レイプに、傷付けてしまうことになるかもしれないのよ」

 後半、レイプという言葉は声を潜めて。それからいつもよりも少し低い真剣な声で。

 再度ヤスコが忠告をする、これは、けして俺を困らせるための質問ではない。俺のことを案じているからこそ出ているものだ。そのことはちゃんと理解している。

 この従姉様は普段は鬱陶しいとも思える存在だが、こんな時は優しい従姉になる。

「判ってる。けど、それでも俺の創った紙芝居が観たいって言ってくれた」

「そうか」

 そう言いながらまたヤスコは藤堂さんへと視線を送る。

「それじゃアレで創るか。せっかく創るんだったらアンタの目的通りに彼女が元気になれるような紙芝居にしよう」

「うん」

 ヤスコの言葉に俺は力強く肯く。

「それじゃ、今から作戦会議は無理だけど。今夜はとことん話し合おう」

 この後まだ上演を残しているのに、気分は創作について向かっていた。


「じゃあまずは書き直しね、こないだ言ったこと憶えてる?」

 憶えてる。けど……。

「まあ、紙芝居じゃなくて小説だと言われたことは理解できるけど、でもさ、ある程度は説明をしないと、俺の意図が藤堂さんに伝わらないんじゃないのか」

 セックスをするということは言ったけど、それで何を伝えたいのかは言ってない。

 それは上演で、紙芝居のいう名のセックスで気持ち良くなってもらって。

 だがしかし、気持ち良く観てもらうことはできるかもしれないけど、作品に込めた意図をちゃんと伝わるかどうか不安だ。

 だからこそ、ヤスコに駄目だしを受けた。書き過ぎと。

 しかし、あれでもまだ足りないような心境である。 

 昔、あの人に言われたことが。一伝えて、一ちゃんと伝わることはない。その二、三割伝われば、いや一割でも伝われば上出来と。

 それが脳裏にあって長文になってしまった。

「でもね、何でもかんでも言葉で説明、まあこの場合は文章かな、しちゃうと聞いている側としては説教臭く感じるものだから。某ドラマがそうでしょ」

 これはまあなんか理解できる。が、

「けど、……」

 しかし、過不足なく伝えるなんてことは。不足して意図が全く伝わらないのにあれば、過剰に盛るのは有りなのでは。

「大丈夫だから。自分の力を信じなさい」

 そう言われてもな、昔過信し過ぎて大失敗をしたという実績もあるし。

「アイツと私が鍛えたんだから。もっと、自信を持ちなさい」




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