or どっち? 2
湊
なかなか寝付けなかった。
テスト勉強をベッドに入る前までしていたから、英単語と数式が頭の中をグルグルと回っていたからというのもあるけど、それ以上に楽しみだったから。
結城くんの紙芝居が。
それでもその内夢の中へと。
起きたらもうお昼近くになっていた。
急いで支度をして出かけないと。
ベッドの上で立てていた計画では紙芝居が始まる前に結城くんに話しかける予定だったのに。
時間がないのに服選びで悩んで、ちょっとメイクをして、それから自転車に飛び乗る。
楽しみのはずだったのにショッピングセンターが近付いてくると不安になってきた。
というのも、わたしと結城くんは同級生。わたしが試験期間ということは、それは結城くんも同じように試験期間ということ。もしかしたら今日は紙芝居に来ないかも、勉強をしているかも。もしそうだったら、ショッピングセンターに行くことが無駄足になってしまう。
どうしよう?
行くのは止めようかな。……けど、今日を逃したら今度は何時行けるのか分からない。
……行こう。
もしいかなかったら、その時はその時。それに、もし仮に結城くんがいなくても、他の誰かが、多分ヤスコさんが紙芝居を上演しているはずだから、全くの無意味ということはないはず。
不安は無事外れてくれた。
紙芝居をしている結城くんの姿を発見。
ほっと胸を撫でおろす。
教室での結城くんとは違って、大きく見える。観ている人たちを楽しませている。
面白いな。すごいな。
遅れてきたから、少し離れた位置で邪魔にならないように観ることに。
楽しい時間はあっという間に終わってしまう、紙芝居の上演が終了する。
行かないと。
あの時は反対に。
わたしなんかが力になれるかどうか分からないけど、恩返しをしないと。
結城くんのいる方向へと一歩足を踏み出す。
踏み出すと同時に、あれ? どうしよう、どうやって話しかけるのか全然考えてなかった。
考えが纏まらないままで、結城くんの傍へと。
結城くんの視線がわたしへと。
その瞬間、さっきまでの結城くんはいなくなって、教室で見るような顔に。
航
上演中は集中していたから、悩み事は、未だに決められない苦悩は、俺の中から姿を消してくれていた。
このままずっと消えていれば、そのまま消滅してくれればいいのに。
それなのに、藤堂さんの顔を見た瞬間ぶり返してきた。
本来なら藤堂さんが紙芝居を観に来てくれた、それは非常に喜ばしいこと、嬉しいことのはずなのに。
自分でも判るくらいに表情が固まって、強張ってしまう。
こんな顔を藤堂さんには見せられない。
表情筋を無理やり動かし、口角を上げて笑顔を作り出す。
湊
さっきのは気のせいだったのだろうか? 見間違いだったのだろうか?
結城くんは笑顔で迎えてくれる。
そんなに結城くんに何と言って話しかけたらいいのか。未だに良い言葉が浮かんでこない。
まだ思案中のわたしに、
「観に来てくれたんだ、ありがとう。でも、試験勉強は大丈夫なの?」
と、結城くん方から。
うん、試験勉強は大丈夫……のはず、昨日は遅くまで机の前にいたから。だからこそ今日は寝坊してしまい、本当は楽しみでなかなか眠れなかったからなのだけど、紙芝居の最初の上演を見逃してしまった。
それよりも、結城くんこそ大丈夫なの?
結城くんも試験勉強があるはずなのに。
いや、それよりももっと心配というか、気にかかるようなことがあるから。だから、ここに来たんだ。
けど、それを直球に、いきなり本題に入るのもなんというか。
そうだ、まずは当たり障りのない話題から入ることに。それから徐々に本題へと近付こう。
うん、そうしよう。
それじゃ何か話そうか? 考える。頭の中に浮かんできたのは、
「あのね、結城くんに訊きたいことがあるの」
「……何?」
「前にヤスコさんが言っていた紙芝居の創作、あれからどうなったのかって?」
結城くんの表情が凍り付いてしまった。




