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カクという行為 5


   (こう)


 書き直しをするたびにこれも追加したほうが、あれも足したほうがという考えが常に付きまとってなかなかはかどらない。

 一度最後まで書いたのだから今度はもっと簡単に書けると思っていたけど。

 それでも一応最後まで書ききる。

 ……けど、これもしっくりこないな、なんか違うような。

 もう一度、再挑戦をしようかと考えていたところに、ヤスコからの呼び出しが。

 書いたところまでいいから、一度見せろ、というお達しが。

 いつもならまだ完成していないと文句を言うところだけど、今回はなんというか……まあ、ちょっとありがたかった。というのも、締め切りがないと、いつまで経っても完成しないような気がしないでもなかったから。

 数日だけ猶予を貰い、パソコンで清書をしてヤスコの家へと自転車で。

 寒かった。書き始めた頃は、藤堂さんに創作のことを知られた頃はまだ過ごしやすい季節だったのに、いつの間にか外出時にはアウターが必要なくらいに。

 本当に寒い。

 けど、この寒さは外気温だけのものではない。今から起こることに対しての身震いというような感じ、恐怖からのもの。

 絶対に褒められるようなことはないはず、芝居同様にダメの嵐、いや慣れていないことだからもっと多い大嵐になるはず。

 正直、見せたくない。

 弱気になってくる。放り出して逃走にしたい心境に。

 しかしながらヤスコに画を描いてもらわなければ、俺の野望は実現しない。

 藤堂さんと紙芝居でセックスをして、悦ばせたい。

 どうせ褒められることなんか滅多にないんだ。普段から批判ばかり受けているんだ。だったら少々のダメ出し、少々で済むといいんだけど、くらいは我慢しよう、耐えよう。

 油断すると勝手にUターンしてしまいそうな自転車を、必死に前へと走らせて俺はヤスコの家へと。

 普段なら十分もかからないような距離なのに、長い時間かけたのか、それとも短かったのか、全然判らない時間感覚で到着。

 着いたというのに、この期に及んで内心では留守だと、いないといいなと考えてしまう。

 だけど、こんな時には期待は裏目に出てしまうのは世が常。

 きっちり在宅中。

 ……まあ、行くと言ったから待っているよな。


 そんな体験をしたことないけど、判決を待つ被告のような心境に。

 ヤスコが俺の書いた紙芝居を黙読している。

 普段は、いつもはすごく不真面目なくせに、こんな時には真剣な表情。

 その視線、首の傾げ方、紙を捲る指の動きが止まったり、かと思ったらプリント数枚あっという間に捲ったり。

 その全ての動きに何かしらの意味があるんじゃいのかと勘繰ってしまう。

 見たくない、けど俺の視線はヤスコのほうへと。

 それを無理やり別の方向へ。

 視線を外し、それからベッドの上に腰を下ろして、久し振りに来たヤスコの部屋を見回すことに。前に来た時は叩き起こすので手一杯だったな。

 それにしても相変わらずものが散乱、服が堆積されているな。

 少しくらい片付けろよ、まあ俺も人の子とは言えないけど。

 ベッドわきにある本を一冊手にする。読む。

 別の興味があるわけじゃないけど、何かした他所事をしていないとまた視線がヤスコのほうを向きそうだ。

 文字の列を目で追う。確かに読んでいるはずなのにちっと内容が入ってこない。

 こんなのでは読書の集中できるわけもなく、結果俺の視線は本の上から再びヤスコの方へと向かってしまう。

 最初の書いたのに比較したら、それこそ加筆と修正を繰り返して倍以上の長さになったけど、それでも原稿用紙にして数十枚程度。ヤスコの読む速度からすればとうの昔に読み終えていてもおかしくないはずなのに。

 最後まで読んだ、と思ったらまた最初から。

 ここに来てからもうどれくらい時間が経過したのか判らない。まだまだ全然経っていないような気もするし、もう何時間もベッドの上にいるような気もするし。

 ヤスコがまた最後まで読み終える。

 視線を上げたヤスコと目が合う。

 今度こそ読み終えたようだ。

 何を言われるのか? あれだけ長い時間、何度も読み直していた、どんな評価が下されるのか。緊張してくる。

 ストップモーションのように。ヤスコの口がゆっくりと動くような感じに。

 それから少し遅れてヤスコの声が、

「没。書き直し」

 絶賛されるようなことはないという予想は持っていた、ある程度は批判される覚悟はできていた、しかし一言で済まされるとは思っていなかった。

 あんなに苦しんで、長い時間をかけて書いたのに。それなのにたったの一言かよ。

 無性に腹が立ってきた。

「……何でだよ」

 理不尽だという気持ちが言葉に乗って出る。

 本当はもっと罵詈雑言をぶつけたいが、言葉が全然出てこない。

「書けといったのは紙芝居。誰が小説を書けといったのよ」

「……はあああ?」

「これは紙芝居じゃなくて小説でしょ、どう見たって。枚数多いし、文字も多い、漢字も多い、ああこれは別にいいか。それに観ている側には判りにくい言葉もある。文字で読むならともかく耳で聴いて瞬時に理解するのが難しい。後は説明が多いというか主人公の心理を描きすぎてる。これを紙芝居で上演するのはめっちゃ大変よ」

 ヤスコがプリントの束をヒラヒラさせながら言う。

 確かに枚数は多いかもしれない、それは短い言葉では藤堂さんに伝わらないのではと思って文字を増やした、確実に俺の想いが伝わるように説明を過多にした。書いているうちにちょっと興に乗って漢字の言葉遊びを入れてみたりもした、指摘されたようにそれを耳で判断するのはちょっと難しいかも。

 そして、これを紙芝居にして上演するのはあれを声に出して読むのは少し、いや絶対に骨が折れそうだ。



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