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カクという行為 3


   (こう)


 書けない、本当に一文字も。

 まだ頭の中にあるアイデア、イメージを、文章にできないまま。

 時間だけが無為に過ぎていく。

 こんなに悩んでいるのだから、少しくらいは成果が出てもよいはずなのに、現実は非常に厳しい。

 それでも書くという行為を止めなかった。

 藤堂さんに観てもらうための紙芝居の創作を止めなかった。

 ノートの上に無理くりひねり出した文章を書いてみる。

 違う、頭の中にあるのとノートの認めた文章には大きな乖離が。

 こんなじゃ駄目だ。

 消す、考える、また書いてみる、しっくりこない、イメージと遠いような、また消す、そして悩む、書く、消す……書く、駄目、違う。また消す。

 白かったノートが何度も消しゴムをかけたことによって灰色に。

 まだ鮮明にあるアイデアを文字にするだけなのに。こう書くと簡単に作業のはずなのに。それなのに、書けない。

 あまりの書けなさに頭がおかしくなりそうになってくる。

 書けないのは自分の力不足ではなく、このアイデア、イメージ自体が俺の脳撫で発生した蜃気楼のようなものなんじゃないかという考えに捉われてしまう。近付こうともがけばもがくほど、努力するほど、遠ざかって行ってしまう。

 制作から距離をとってみることに。

 書くという気持ちが強すぎて、かえって書けなくなっている可能性もなきしもあらず。

 一時、書くことを停止することに。

 書くという行為から離れてみることに。

 無理に足掻くから余計に書けなくなるのではと考えてみた。

 気分転換をすることに。

 最近寒くなってきたこともあって乗っていないフラットバーロードで近所を軽くポタリングをすることに。ついでに神社で願掛けも。

 久し振りだったから全然走れなかったけど、それでも楽しかった。神社を参詣したこともあって帰った後はちょっとだけ清々しい気分に。

 けど、長く続かなかった。すぐに気分は反転を。もしかしたら走りに行った時間を執筆に充てていたら、もしかしたら今頃は書けていたかも。

 そんな後悔にも似たようなものが。

 それを振り払ってまた机の前に。灰色になっているノートに対峙。

 書けない。

 一応は書けた。けど、すぐに消す。これじゃない。

 こんな文章の紙芝居を上演しても藤堂さんを楽しませることはできないはず。

 もっと良いものを書かないと。

 そうじゃないと藤堂さんを喜ばすことができない、楽しませることなんかできない、笑顔にするなんて絶対に無理。

 情けない。不甲斐なくなってくる。

 泣きたいような気分に。

 気分どころじゃなく、実際に視界が勝手にあふれ出てくる涙で徐々に歪んでいく。

 このまま泣きわめきたいような心境に。

 が、耐える、我慢する。

 泣いてわめいてそれで創作が進展するのなら、ヤスコたちに鍛えられた演技力をフルに発揮して、ジタバタと手足を動かし、いくらでもするのに。

 でも、現実はそんなことをしても書けないことは判っている。優しい小人さんが出てきて代わりに執筆してくれるなんていうことはおきない。

 自分の無能さが嫌になってくる。

 こんなことになるのならもっとまじめに文章を書く練習をしておけばよかった。

 ……いや、練習していても多分書けないだろう。

 俺には多分、いや間違いなく文章を書く能力がない。

 そんな人間がいくら時間を費やし、努力を重ねても、結局は無駄だ。

 ……意欲がなくなっていく。

 ……なんかもう、どうでもよくなってくる。

 諦めて放棄してしまいたい。

 別に藤堂さんを紙芝居で元気づける必要はない。

 他にも手段はあるはず。

 あの時、藤堂さんは俺と話せてよかった、ちょっと元気になれたと言ってくれた。

 学校では話せないけど、あのショッピングセンターでならばいくらでも話ができるはず。彼女の力になれるはず。

 もう紙芝居に固執する必要なんかない。

 そんなことをしなくても藤堂さんを楽しませることができるはず。

 傍にいたら。

 ……そもそも、あの時あんな決断をしなかったら。

 ……もしあの時勇気を出していたら。ヤスコの言うように、チャンスの女神の前髪を掴みにいっていたら。

 藤堂さんと付き合えていたかもしれない。

 もし、そうなっていたら彼女を悲しませるようなことは、落ち込ませるようなことはなかったのに。

 なんで、俺は……。

 けど、現実は俺と藤堂さんはそんな関係じゃない。藤堂さんは別の男と付き合っている。そして俺はその男に逆恨みをされている。

 そんな男よりも俺のほうが……。そんな思いが。

 彼氏彼女の関係になりたい。

 妄想、現実逃避が始まる。

 藤堂さんと一緒に色んなことをしたかったな。

 一緒に下校して、デートをして、手を繋いで歩いて、そしてキスをする。

 それから……肉体的接触を……挿入を……つまりはエッチしたい。

 思春期ど真ん中だ。性欲だってある。まだ経験はないけど、したいという願望は常に終えに中にある。

 藤堂さんとそういうことをしたい。

 けど、そんなことは不可能。俺は藤堂さんの彼氏じゃなくて、付き合っている男は別に存在している。

 ……きっと、そういうこともしているんだろうな。

 妄想が加速する。

 裸の藤堂さんを想像してしまう。

 綺麗な背中、細い腰から魅惑的な曲線を描きながら大きく盛り上がっているお尻。昔はそこに性的なものを感じなかったけど、理解できなかったけど、今なら判る。その魅惑的なお尻に触れてみたい、揉んでみたい、堪能してみたい。

 前へと。

 小さいけど形の良い胸。その上にツンと勃っている、ちょっと黒目のエロスを感じる乳首。視線を下へと。お臍、そしてその下辺りにまで黒く茂っている(にこ)()

 手を伸ばして触れてみる。柔らかな感触。

 手のひらで、指でまだ本物を見たことがない秘所を刺激する。

 俺の妄想なのに藤堂さんの息遣いのようなものが。

 濡れてきた。

 俺のものを迎え入れる準備ができてきた合図。

 自分のものを取り出してそこの挿入しようとした。けど、そこには先客が。俺とは違う誰かが藤堂さんの身体の覆いかぶさり腰を激しく振っている。

 屋上では聞いたことがないような嬌声が。

 妄想を強制終了。

 虚しくなってくる。

 けど、したかったな、繋がりたかったな、藤堂さんとセックス。

 ……セックスか。

 頭の中で藤堂さんと屋上で話していた時の記憶が一気に蘇る。

 そうだ、紙芝居でセックスをすれば。

 現実にはセックスできない、藤堂さんと繋がれないのであれば、紙芝居で繋がればいい。

 紙芝居を創らないと。

 折れてしまった創作への意欲が復活する。

 文才がないと諦めかけていたけど、ついさっき妄想を文章化することができていた。

 書けるはず。

 俺は紙芝居で藤堂さんとセックスする、俺の創った紙芝居で彼女を喜ばせる……いやセックスなのだから悦ばせる、こっちの文字の方が相応しいか。

 まだノートは白、灰色のままで、一文字も書けていない

 それでもようやくトンネルを抜けた、生み出すのだから産道を抜けたのか、いやこれはまだ早いか、とにかく前進できたような気分だった。



   みなと


 小さく映っていた結城くんの背中がある日を境にまた大きく。

 悩んでいたことが解決したのかな。

 良かった。



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