創作タイム 5
湊
ヤスコさんの紙芝居が終了、まだ時間があるから今度は多分結城くんの番のはず。
そう思っていたら結城くんがまた台座の横に。
今度の作品は小さい子供向け。主人公の怪盗が観ている子供達を手下にして、四択のクイズ形式、色んなものを盗んでいくお話。
最初の紙芝居も面白かったけど、子ども受けは今一だったみたいだけど、今度は大盛り上がり。
GWのヒーローショーの時みたいに、観ている子たちは参加をしようと手を挙げている。
ベンチの上は笑顔と笑いであふれている。
ちょっと参加してみたいような気もするけど、それをする勇気は流石にない。それに小さい子の邪魔をするのも。
そんなこと考えている間にも紙芝居は進行。
盛り上がりは継続、どころか向上している。
そしてそのまま終了。
これで三本の紙芝居を上演したことに。
時間的に考えてこれでこの時間の上演は終了だろうか?
正解だった。結城くんが終わりを宣言。そして、この後二時、三時、再び上演すると告知。
大きな音で拍手を。ここからでも結城くんに届くように。
面白くて、楽しい時間を本当にありがとう。
ついさっきまで座る場所がなかったベンチには今は誰もいない。結城くんとヤスコさんが準備、多分次の上演のだと思うけど、をしている。
どうしよう? このままここで次の上演まで待っていようか? それとも今のうちに次の上演のための場所取りを、ベンチに座って待っていようか?
ああ、そうだ。何か差し入れを持っていたら。あんなに声を出していたんだから潤すための飲み物なんかどうだろう。
考える。
うーん、どうしようかな?
「藤堂さん、また観に来てくれたんだ」
ビックリした。と、同時に鼓動が突然速くなる。
考え事に夢中になっていたら突然結城くんの声が。
いつの間に横に来ていたんだろう、全然気が付かなかった。
額に汗が浮かんでいる。さっきまでの上演、熱演の証拠だ。
でも、男の人の汗にはあまり良い印象がない。先輩の汗なんかは不快に感じるし。
この距離だと気なる、嫌な臭いがするかもしれない。
反射的に、一歩後退りそうに。
なったけど、思いとどまる。
さっきまで結城くんはわたし、というよりも紙芝居を観ている子どもたちを楽しませてくれていた。この汗はその証拠。
それなのにそんなことしてしまったら失礼になってしまうのでは。
結城くんの汗のにおいが鼻腔に。
嫌じゃない、なんだか甘いような、むしろ好きかもしれないような。
「……うん……こないだ、いいって言ってくれたから」
なんだか頭がボーとなりそうだったけど、動かしてさっきの結城くんの言葉に答える。
「ありがとう。観てくれて」
お礼を言うのはわたしの方だ。
「あ、そうだ。そういえば先週はジャージだったよね」
「……先週は練習をサボったから」
理由は分からいけど、ちょっとムっとしてしまう。
サボったのも、ジャージだったのも事実だけど、そんなことよりも今着ている服を見てほしいな、それに結構髪を丁寧に結ってきたのに。それからメイクもしてきたんだから。いつもとは、教室とは違うわたしに気付いてほしいのに。
「サボったんだ?」
そんなわたしの気も知らないで結城くんは。
「……うん……あんまり楽しくないから」
最初は、始めた頃は楽しかった。
けど、最近はなんか色んなことやものが重なってあんまり楽しめていない。
「そうなんだ」
なんだか屋上で話していた時と同じよう。
同じように思っていたけど、あれっ、なにかがちょっと違うような。
心なしか心臓がいつもよりも早く動いているような気が。
「……うん」
そっちに気をとられて変な返事を。
それにしても一体どうしたんだろう? 屋上では普通に話せてし、それこそ先週も最後のほうは楽しく会話できていた。
それなのにすごく緊張しているような感じになってしまう。
「だったら辞めればいいのに」
これまで経験したことがないような変なものに戸惑っているわたしの耳に結城くんの声が。
「そんなのできないよ」
変な感覚が消える。大きな声で言ってしまう。
そんなことできない。
期待してもらっているのに。だからこそ厳しいのに。
それに辞めてしまったら、メンバーに選ばれなかった恵美ちゃんに申し訳ないような気が。
「そうなんだ」
横にいる結城くんが私の顔を不思議そうに見ている。
目が合う。
またあの感覚が。
心臓がさっきのビックリした時よりも速くなる。
それだけじゃない、顔が急速に赤くなっていく、自分でも分かるくらいに体内の血液が顔へと流れ込んでくる、熱くなってくる。
それに顔だけが熱くなったわけじゃない……別の場所も。
目を逸らす、顔を背ける。このままずっと見つめていたら心臓が爆発しそうになるから。
「この後のも観ていくの」
恥ずかしくなって背中を向けているわたしに結城くんの声が。
全部観るつもりだったけど。……こんなんじゃ……ずっと結城くんを見ていたらおかしくなってしまいそうな気が。
「ごめんなさい」
一言言うのが精一杯だった。
結城くんの顔を見ないまま、その場から走り去ってしまった。
家に帰っても治まらなかった。
結城くんの顔が脳裏から離れずに、ずっと心臓が早鐘のように鳴り響く。
……あっ、紙芝居の制作はどうなっているのかを聞くのを忘れていた。
あ、もう一つ。せっかくあの子を持っていたのに一緒に観ることを忘れていた。
今度観に行く時も絶対に持って行こう。
でも出したり仕舞ったりしていたらまたなくしてしまいそうな気も……。
そうだ、このままバッグの中に入れておこうかな。
最近はこの子の力を借りなくても大丈夫になってきているから。




