創作タイム 2
湊
わたしの目はずっと結城くんへと釘付けに。
授業中だから、後のテストで困るから、先生の話をちゃんと聞いてそれから黒板にビッシリとかかれている板書をノートに書き写さないといけないのに、一日中ずっと結城くんの背中を見てしまっている。
見ているだけなのになんだか楽しかった。
背中で語るという表現があるけど、それは今までずっと比喩のようなものだと思っていたけど、今日一日結城くんの背中を見ていたらちょっと理解できたような気が。
ああ、こういうことなんだ。
悩んでいるように見えていたら、それが消えて、なんだか楽しそうな感じになったと思ったら、また元に戻る。
そんな背中を見ていたらあっという間に放課後に。
荷物を持って教室から出ていく結城くんの背中はなんだか軽やかなものに。
何か良いことでも思いついたのかな、そんなことを考えていたら、
「湊ちゃん、部活行ける? 今日も休んどく?」
恵美ちゃんが部活に誘いにくる。
大丈夫。今日は行ける、練習できる。
お弁当も美味しく全部食べられたし。
それに、昨日の結城くんの紙芝居で元気をもらったから。
いつも練習に行くのが億劫だった。周りから、とくに先生から出ている期待という名のプレッシャーを感じながらの部活は辛かった。
だけど、今日は大丈夫。
やっぱり練習はきつかった。けど、なんとか終了。
辛い時の結城くんに紙芝居のことを考えていた。そうしたら、乗り越えることができた。
部活は終わったけど、わたしはまだ帰れなかった。
先輩がわたしに家に来いと。
昨日、それから一昨日としてない。
先輩はわたしの体を求めてくる。
それを拒否できない。
拒否したら何をされるか。
だから、従うことに。
結城くんの紙芝居のことを考えながら、先輩に抱かれた。
航
いつもは学校帰りには稽古場に寄って自主練をするのだが、本日は直帰を。
家まで自転車を走らせる。
ペダルがくるくると軽く回転する、自然速度も上がっていく。
こんな風に脳みそも軽やかに、かつスムーズに回転してくれていれば、おそらくだけど今頃は紙芝居のアイデアの一つや二つは簡単にできていただろう。
しかしながら、未だに何にも浮かんでこない。
だが、それに悲観するようなことはなかった。
学校でも思ったことだが、俺はこの手のことを未経験。
慣れた人間のようにポンポンとは出てこない。まあ、上手くいかなくて当たり前だ。
それでもまあ考える。
藤堂さんに喜んで観てもらうような紙芝居を。
ああ、そうだ。
一つ思いついたことが。
これは紙芝居のアイデアではないのだがまあ関連すること。
せっかく藤堂さんが観てくれるのだから、大人が観ても楽しめるような紙芝居を創ろう、というある意味決意のようなものを。
昨日の言葉を思い出す。「大人は紙芝居を観ちゃいけないの?」。
観ていい。だけど、現状は大人向けの、高校生が楽しめる紙芝居なんかあまりないよな。
だったら、いっそのこと俺が創ってみようか。
まだ何一つ具体的なアイデアが浮かんでいないのに、そんな大きなことを考えながら自転車を走らせていたら、いつの間にか家に着いていた。
「おーい、できたかー」
自室で、大人のための紙芝居を創作するための資料として、パソコンにインストールしてもらっている子どもがしてはいけないゲームをプレイ中に、ヤスコが突然ドアを開けて侵入してくる。
そんなに簡単に書けるわけないだろ。
お前みたいな経験者なら兎も角、こちとら素人なんだ。
無視してゲームを再開。
「書けたかどうかきいているだろー」
ウザがらみをしてきやがる。
「そんなに簡単に書けるわけないだろ」
アイデアすら浮かんでこない。だからこそ現在そのアイデアを出す前にネタを色々とインプット中だ。
これはけっして遊んでいるわけじゃない。これが抜きゲーなら遊んでいる、というか別のことをしていると思われても仕方がないけど、これは泣きゲーと呼ばれる名作。コンシュマーにも移植されている。これを参考にして大人の鑑賞にも堪えるような紙芝居を創るという大義名分が。
「えー、まだなの?」
可愛い声と科を作っていう。
「えー、まだなのじゃない」
そう簡単に書けるのならゲームなんかしていないでとっくに執筆にとりかかっている。
「甘いな。人間死ぬ気でやれば案外何とかなるもんよ。アタシなんか昔普通に仕事しながらも徹夜して三日で紙芝居を創ったもんね」
何でそんなこと自慢げに言うんだ。
「慣れている人間と一緒にするな。俺は紙芝居を創るのなんて初めてなんだから」
初めてという言葉にヤスコは反応した。いやらしい笑みをコッチに向けてくる。
「そうだよね。航にとっては大事な処女作だもんねー。創作なんて経験したことない童貞くんだってのをすっかり忘れてたー」
『処女』と『童貞』を強調して言う。
「まったく。どこの親父だよ」
「失礼ね。この身体のどこがいやらしい親父なのよ」
無駄にデカい胸をさらに両手で押し上げて俺に迫ってくる。
「身体じゃないよ、中身だよ。外見は女かもしれないけど、ヤスコの中身は親父だ」
こんなセクハラ行為をするのは親父そのものじゃないか。
「まあ、冗談はこれくらいにして。進捗状況はどんくらいなの?」
さっきまでの顔とは一転して真面目な表情を浮かべてヤスコが言う。
「全然、全く。アイデアのアの字も出てきていない」
コチラも真面目に対応する。こんなところで見栄を張ってもしかたがないので正直に報告を。
「そんなに気負わなくて平気よ。とにかく、何でもいいの。難しく考える必要なんかないから。その辺にある昔話でもいいし、ありきたりの童話だって構わないから」
たしかにそれくらいなら簡単に書けそうな気もする。けど、せっかく書くのなら、やっぱり自分で物語を創作してみたいという欲みたいなものがあるのもまた事実。
「けど、それじゃ面白くないだろ」
そう、既存の物語じゃ藤堂さんを満足、楽しませることができないかもしれない。
「もしかして昨日の彼女のことを考えている」
「そんなんじゃない」
図星をつかれる。
けど、それを素直に認めるのはなんだか癪に障るからあえて否定を。
「そうだよね。せっかくかわいい女子高生が観てくれるんだから」
「だから、そんなんじゃないから」
「そうやって真っ赤になって否定するのが、まだまだ童貞だね」
「うっせー」
本当に赤くなってしまっているのか、それともからかわれているだけなのか。
「けどさ、あの子なら航がどんな紙芝居を創っても喜んで観てくれると思うけどな」
そうかもしれない。
「……けどさ……」
「まあ、そこまで言うんなら精々気張りなさい。彼女を楽しませるような物語を書きなさい」
「だから別に藤堂さんのためとか、そんなんじゃなくて……」
「けどまあ、好きな子のために詩や歌を作るって話は聞くけど、紙芝居とはね」
「だから、藤堂さんはそんなんじゃねーよ」
誤解してやがる。藤堂さんには……止めておこう。なんか黒い感情に押しつぶされてしまいそうな気がしたから。
「はいはい、そういうことにしとくわよ」
馬鹿にしたように言う。
「だから……」
上手い言葉が見つからないけど一応反論を試みようとする。その前にヤスコに遮られてしまう。
「そうやってすぐに否定するのは童貞みたい」
うっせい。どうせ俺はまだそんな経験をしたことのない童貞だよ。
「それじゃ、また様子を見に来るから。それまでにはアイデアの一つや二つひねり出しておきなさいよ」
そう言ってヤスコは部屋から出て行く。階段を下りて帰っていく。
ヤスコが俺の部屋にいた時間は五分もない。俺を馬鹿にするためだけにわざわざ来たのか。
一体何をしに来たんだ、アイツは。




