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かみしばい 6


   (みなと)


 こんなところで泣いていたら結城くんの迷惑になってしまう。

 泣き止まないと。

 それなのに涙は全然止まってくれない。

 滲んだ視界の向こうに結城くんの困っている顔が。

 止めないと。

 それなのにもっとあふれてくる。

 ヤスコさんの声がした。

 と思ったら手を引っ張られて、気が付くといつの間に喫茶店に。

 前には結城くんが座っている。

 さっきよりも良くなった視界には、またも結城くんの困った表情が。

 いいかげん泣き止まないと。

 必至に涙を我慢する。

 ……言わないと。観てもいいと言ってくれてあるがとう。

 それから……。

 やっと結城くんに謝ることができた。

 結城くんは、気にしなくていい、と言ってくれた。運が悪かっただけ、と。けど、あんなことになったのはわたしが原因だ。

 あまり話したくない、結城くんには聞かれたくないようなことだけど、それでも説明しないと納得してくれない。

 わたしの説明で結城くんは理解してくれた。けど、それでもわたしのせいじゃないと言ってくれる、謝る必要はないと言ってくれる。

 でも、それだけじゃない。

まだ、ある。

 屋上のドアの前で結城くんに近付くなと言われたのに、それなのに……。

 そのことも。

 誤解だった、勘違いだった。

 てっきり一人だけ罪を逃れたわたしに対しての恨みの言葉だと思っていたけど、そではなくて余計な火の粉が及ばないための発言だった。

 今までずっと勘違いをしていたんだ。結城くんはわたしのことを嫌ってなんかいなかったんだ。

 それにしても、どうしてこんな勘違いをしてしまったんだろう。

 考える。結果、黙ってしまう。結城くんも話してこない。二人の間には沈黙が。

 遠くからヤスコさんの声が聞こえる。そうだ、今は紙芝居の時間だ。

 結城くんをわたしなんかのために付き合わせてしまって申し訳ない。

 わたしのことはもういいから。紙芝居をしてきて。そう言わないと、と思っていたら、

「藤堂さんまだ時間ある?」

 先に結城くんが。

「えっ……うん」

 時間はたっぷりある、することがないから。

「だったら紙芝居を観ていってほしいな。さっきは楽しませることができなかったから」

 結城くんの口から出てきたのはうれしい言葉。

 うん。観たい。

 さっきはあんまり楽しめなかったから。

「うん、観たい。結城くんのする紙芝居をもっと観たい」

 結城くんがちょっと驚くくらいに食い気味に返事を。

 そのまま二人で喫茶店を出て、神芝居の観える場所へと。

 

 素人のわたしでも分かるくらいにヤスコさんの声はもうガラガラ、限界だった。

 結城くんと交代。

 本当は結城くんの近くで紙芝居をするのを観ていたかったけど、ベンチはもう一杯で座る場所がなかったので、わたしは柱の横に。

 そう、最初に観た時と同じ場所。

 でも、あの時のように顔を出したり引っ込めたりといったような、隠れて観ないで、体を全部柱の外に出して堂々と観覧。

 面白くて、楽しいな。

 結城くんもなんだか楽しそうに上演している。

 けど、楽しい時間はあっという間に終わりを向かえてしまう。

 結城くんの紙芝居は一本だけで終了。


「おお、泣き止んだね」

 ヤスコさんが。

 ガラガラの潰れたような声、いつもの声じゃない。

「……ごめんなさい」

 わたしのせいだ。あの時泣いたりなんかしなかったら結城くんと二人で紙芝居をしていたはずだから。こんな声にならなかったはず。

「いいよ、藤堂さんが謝る必要なんかないから。こんな声になったのは自業自得だから」

 後片付けをしていた結城くんがいつの間にか傍まで来ていた。

「それって……」

 どういうことなのだろう?

「二日酔いのせいだから。紙芝居の上演があることを忘れてしこたま呑んだ罰が当たったんだ」

「だから、二日酔いじゃない。車の運転で酔ったの」

「はいはい、そういうことにしてやるよ。だから、黙れ」

「黙らないから。このまましゃべり続けて、もっと酷い声にして三時台も全部航にしてもらうんだから」

「はあああ、何言ってんだ」

「だってさ、航はこの子に楽しい紙芝居を観せたいんでしょ。だったら」

「だから、何を言ってんだ」

 結城くんとヤスコさんの息の合ったやりとり、掛け合いがまるで漫才のよう。思わず笑ってしまう。

「おお、笑ったね。やっぱり女の子は笑っている顔が一番だね」

 言われていた気が付いた。

 わたし今笑っている。

「そんな君をもっと笑顔にするような情報を与えよう。あのね、実は、何と、航はね、自分で紙芝居を書いているの。できたら、絶対に観てあげてね」

 結城くんが創る紙芝居。すごく楽しみだ。

 結城くんがどんな紙芝居を創るのか、そればかりを考えてしまう。



   (こう)


 有耶無耶のまま放置しておいて、ヤスコも忘れ去ってくれることを内心期待していた。

 それなのに、しっかりと憶えていやがった。

 藤堂さんをチラリと見る。

 笑顔の花が咲き乱れているような感じ、破顔一笑という言葉がピッタリなくらいに。

 こんな顔をされたら。

 創らないわけにはいないよな。

 よしじゃあ、この笑顔をもっと喜ばせるようにいっちょ挑戦してみるとしますか。



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