かみしばい 3
湊
結城くんは紙芝居を開始する。
早くここから退かないと。
わたしはここにはいてはいけない人間。
紙芝居を観ちゃ駄目な大人。
それなのに結城くんの紙芝居を観ている。
やっぱり上手だ。
それに面白いと思う。観ている子どもたちに受けている。
それなのにあまり楽しくなってこない。
面白いはずなのに、楽しめない。
どうしてだろう?
やはりわたしが大人になってしまったから。もう紙芝居を楽しめなくなってしまったのだろうか。
楽しくないのなら、いつまでもここに座っていても仕方がない。
いなくならないと。
なのに、まだベンチの上から動けないまま。
紙芝居を終え一度引っ込んだ結城くんが、別の紙芝居を手にして再び。
また結城くんがするんだ。
今度こそ、行かないと。
さっきの上演で、お前には観る資格がない、という無言のメッセージを受け取ったばかりなのに。
それなのに、まだ動けない。
今度の作品は『ながぐつをはいた猫』。知っている物語、もう何回も観た紙芝居。
これも多分、さっきの作品と同じ。わたしに対してだ。ここにいるなという無言のメッセージ。
紙芝居が始まる。
ベンチに私は座ったまま。
以前に観た時よりももっと凄く、上手になっている。それなのに周りに反応と違って、わたしは全然面白く、楽しくなってこない。
……やっぱりもう紙芝居を観る資格がなくなってしまったのだろうか。
なりたかったわけじゃないのに、大人になってしまったせいだろうか。
航
これも駄目か。
藤堂さんばかりに目を向けて演じるわけにはいかないから、時折盗み見るように観察していたけど、あまり楽しそうに観ている感じがしない。
やはり、何度も上演した作品を選んでしまったのかも。
もっと新鮮な、藤堂さんが観たことのない紙芝居を選ぶべきだったのか。
ならば、今度はこれでどうだ。
湊
また結城くんが紙芝居をする。これで三本連続。
本当に、帰らないと、消えないと、立ち去らないと。
今のところはまだ悪影響は出ていないけど、このままわたしがここに居座っていたら結城くんのする紙芝居のできを悪くしてしまう。こんなに盛り上っているのに水を差してしまうことに。
三作目の作品は『七度狐』という落語の紙芝居。
初めて観る作品、聞いたことのないお話。
どんなお話なのかちょっと興味があるけど、今度こそ行かないと。
わたしは紙芝居を観てはいけない人間。
そんな人間がいつまでも居座っていたら、結城くんの気分を害してしまうかもしれない。そうなったら紙芝居の出来を悪くしてしまうかもしれない。
それなのに私の体は動かない。ベンチに座ったまま。まるでお尻から根っこが生えたみたいに。ここから離れられない。
落語だから大人にも受けている。
わたしは大人になってしまった。
だったらこの紙芝居を楽しめるはずなのに、全然楽しくなってこない。
航
これも駄目だ。
落語は女子高生には受けないのか。俺は小さい頃から一応慣れ親しんできたから楽しめるけど、そもそも普通の高校生は落語なんか全然興味がないのかもしれない。屋上で話していた時もそんな感じだったよな。なんでそれを今思い出したんだ、もう少し前の思い出しておけば別のにしたのに。
大人はもとより、小さい子供も笑っているのに、藤堂さんだけは一人笑顔なし。
ただ座って、俺を、紙芝居を虚ろな顔で観ているだけ。
以前は恥ずかしそうにしながらも、笑って観てくれていたのに。
力不足を痛感する。他の人は満足させることはできたかもしれないけど、肝心な人を満足させることができなかった。
何時来ても、何時観てくれてもいいように、精進したつもりだったけど、独りよがりだったのだろうか。
いや、もう一度挑戦だ。
と、意気込んでみたのはいいけど 時間切れに。この一時台の紙芝居はさっきの作品で終了だ。
せっかく観に来てくれたのに。藤堂さんを楽しませることができなかった。すごく残念であり、かつ申し訳ないような気分に。




