かみしばい 2
湊
結城くんが来た。
早くここからいなくならないと。
じゃないと、紙芝居を楽しみにしている人たちの迷惑になってしまう。
わたしは紙芝居を観ちゃいけない人間。
そんなのがいたら結城くんの上演のパフォーマンスを著しく減退させてしまう。
いかないと。
そう思っているのに全然体は動かない。
結城くんがものすごいスピードでわたしへと迫ってくる。
邪魔だと文句を言いに来るんだ。
……でも、言われても仕方がないことをわたしはした。
けど……。
結城くんがわたしの横を駆け抜けていく。
……わたしに文句を言うために走って来たんじゃないんだ。
でも……一体どこに行ったんだろう?
もうすぐ上演時間になるのに。
それよりもいなくならないと。
ここに大きな体とバッグをベンチの一部を占拠していたら邪魔になってしまう。
エレベーターのドアが開くのが目に入る。ヤスコさんが重たそうに荷物を抱えて降りてくる。
なんだか辛そうに顔。紙芝居の荷物が重たいかたといった感じじゃない。
それよりも早くいかないと。
もうすぐ紙芝居が始まってしまう。
変な音、ちょっと不快な、タイヤが軋むような音が背後から聞こえた。
振り向くと結城くんが何かを押していた。
……紙芝居の台の下に置くものだ。
前に屋上で説明してくれた。
さっきよりも速いスピードでわたしの横を。
ベンチ前で台と一緒に急停止。素早く、そして手際よく結城くんが紙芝居の準備を行う。その横でヤスコさんはぐったりとしている。
開始一分前。いなくならないと。
それなのにわたしはまだ座ったまま。
結城くんがヤスコさんと何かを話している。この場所からは会話の内容なんか聞こえない。けど多分、こんなことを言っているのだろうと想像してしまう。約束を守らない、一人だけ難を逃れてズルイやつが来ている、と。
いつまでもここに座っていたら駄目だ。
それなのに動けない。
時間になる。いつもとは違って眼鏡をかけたままの結城くんが扉を開く。
紙芝居が始まる。
わたしは観てはいけない大人。この場にいてはいけない人間。
最初の紙芝居は『シナプスマン』。幼児向けの作品。
これは暗にわたしに紙芝居を観せたくないと言っているのだろうか。これは子供が観るもの、大人であるわたしはとっとと立ち去れという結城くんから無言のメッセージなのだろうか。
従うしかない。いてはいけない人間だから。
大人は紙芝居なんて観ないのだから。
いてはいけない人間がいつまでも居座っていたら結城くんも気分が悪くなるだろう。そうなると紙芝居がつまらなくなってしまうかも。楽しみに観ている子供達に申し訳ない。
申し訳ないはずなのに、この場から動けない。
ただ、結城くんのする紙芝居を観ているだけだった。
子供向けだけど、面白い。
面白いはずなのに、楽しい気持ちになってこない。
反対に辛い気持ちになってくる。
行かないと、そんな気持ちで紙芝居を観ていても結城くんには迷惑だろう。
それなのにわたしはまだ紙芝居を観ていた。
航
一応は観てくれていた。
けど、手応えがない、反応が今一どころか全然だ、暖簾の腕押しといった感じ。
やはり幼児向けだから俺と同い年である藤堂さんが観ても面白くはないのか。
藤堂さんの周りにいる子供達、およびその保護者の方々には受けているけど。
けど、席を立っていないのは不幸中の幸い。
面白くないからという理由で途中でも席を立ってしまう、帰ってしまう人も多い。
でも、藤堂さんはまだベンチに座ったまま。ならば挽回のチャンスはあるはず。
今度は藤堂さんも楽しめる紙芝居を選択しないと。
この時間は全部俺がすることになっている。ヤスコはとてもできる状態じゃないから。
まだこの紙芝居は終わっていないけど、もう頭の中で次の作品の算段をする。そうしないと、次の作品をゆっくりと選んでいる時間はないから。
何をしようか?
ああ、あれにしよう。あれならきっと藤堂さんも楽しんでくれるはず。あれならきっと間違いはないはず。




