すれちがい
湊
この一週間ずっと空席だった席に結城くんの姿が。
久し振りの登校だからか、普段はあまりクラスの人と話しているところを見なかったのに、今は結城くんの周りには大勢の男子が。
何か楽しそうに談笑している。
停学になったことをそんなに気にしていないのかな?
以前、落ち込んだ小さくなっている背中を見ていたからまた今回もそんな背中を見なくちゃいけないのか、わたしが原因で、と思うと心苦しかったけど、そんな心配は杞憂だったみたい。
一人だけ罰を免れたという罪悪感がちょっとだけ軽く。
と、同時に謝りに行かないと、と思う。
……けど……。
わたしは学校では結城くんに近付けない。
あの日先輩に言われた。学校で二度と結城くんに近付くな、と。
けど、結城くんに一言伝えたい、いや二言。
あの日と同じように謝って、それからお礼を。
でも、……。
そうだ、だったら紙芝居の場所で。
あそこなら先輩は来ないはず。絶対に見つからないはず。
結城くんと逢っていても怒られないはず。
そう思っていたのに、放課後結城くんが教室から出るとその背中を見ていたら、
「ゴメンね恵美ちゃん、さっきに行っていて」
そう言って結城くんを追いかけてしまう。
結城くんは昇降口に行かずに渡り廊下へと。
屋上に行くんだ。きっと。
だったら、そこでなら結城くんと話ができるかも、謝ってそれからお礼が言えるかもしれない。それに今なら先輩に見られないかもしれない。
結城くんは意外と歩くのが早かった。
全然追いつかない。屋上に続く最後の階段を上る。
上から足音が。
結城くんが下りてきた。
結城くんはわたしの顔を見るとなんだか驚いたような表情を。
「……藤堂さん?」
でも、すぐに表情が消える。
何も言わずに結城くんはゆっくりと下りてくる、わたしへと近付いてくる。
言わないと。謝って、それからお礼を言わないと。
そう思って結城くんを追いかけて来たはずなのにそれがなかなか言えない。
結城くんはわたしの横を。
「学校では近付かないで」
すれ違いざまに結城くんの声が。
え?
言葉は耳に入ってきたけど理解できない。
混乱した脳内でようやく理解。
あれ、もしかしたら聞き間違えたんじゃ。
「近付かないでほしい」
聞き間違いなんかじゃなかった。結城くんの声はいつものように優しい音だったのにその内容はわたしへの拒絶の言葉。
二度と自分に近付くなという非常な宣告。
結城くんの階段を下りる音が。
階段を下りる音が静かに響く。その音は段々小さくなっていく。
拒絶された言葉が頭の中で何度もリフレインされる。目の前が真っ暗になっていく。下には固い床があるはずなのに落ちていくような感覚に。
……。
……でも、そうだよね。
さっきの結城くんの驚いた顔はきっと……。一人だけ罪を、罰を逃れた人間がのこのこと顔を出したんだ。その無神経さにビックリし、それから呆れてしまった。だからこそ表情が消えてしまったんだ。
今度こそ本当に愛想をつかされてしまったんだ。
結城くんのお腹の中にはわたしの侮蔑軽蔑恨みつらみの言葉が沢山あるはず。
それなのにそれをぶつけてこなかった。
……面と向かって罵倒をされてしまったほうがかえって良かったかも。
それをしなかったのは結城くんの優しさだ。
……大人だな。
……反対にわたしは子どもだ。
自分のことしか考えていない。結城くんがどんな気持ちでいるのか全然想像しないで、自分の都合だけで行動を。
……。
……あ、わたしはまだ子どもということは紙芝居を観に行っても。
前にお母さんに紙芝居は子どもの観るものと言われた。
……。
駄目だ、結城くんに拒絶されたんだ。観に行ったりなんかしたら今度こそ完全に怒らせてしまうかもしれない。
…………。
階段の途中で立ち尽くしたまま。
哀しいのに涙も出てこない。
わたしはもう二度と結城くんのする紙芝居を観られないんだ。




