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停学期間 2


   (みなと)


 その後のことはあんまり憶えていなかった。

 途中の駅で降りてドラッグストアにいたことだけは憶えていた。

 なんとか家へと帰り着く、いつもはわたしよりも遅いお父さんがもう帰っていた。

「どうしたんだ、遅かったじゃないか?」

 心配そうに声をかけてくれる。

「……気分が悪くなったから。……ちょっと駅で休んでいたの……」

 噓は言っていない。少し気持ち悪かったのは事実だ。

 だけど本当に理由は先輩の家でセックスしていた。それから帰りに今後の避妊のためのコンドームを買うためにドラッグストアに立ち寄っていたから。けど、結局買えなかった。

 そんなことはとてもじゃないけど言えない。

 事実をありのまま話したら、お父さんは、お母さんはどんな顔をするか。

「それなら連絡くれればよかったのに。駅まで迎えに行ったのに。ねえ」

 晩御飯の用意をしてくれているお母さんが。

「ああ、車出して行ったのに」

「……ありがとう……。でも、大丈夫だから」

 そんな迷惑はかけられない。

「大丈夫そうに見えないけど。顔、真っ青よ」

 自分では分からない。けど、多分そうなんだろう。

「……平気だから。寝れば大丈夫だから」

「じゃあ、ご飯はどうする?」

「……いらない」

 せっかく作ってくれたご飯だけど、今はとても胃が受け付けそうにない。食べたら絶対にまた吐いてしまう。そうなれば余計な心配をかけてしまう。

 なんとか自分の部屋へと。

 そしてそのままベッドの上に倒れこむ。

 このままじゃ駄目だ。着替えないと皺だらけになっちゃう。でも、乱暴に扱われたからもう皺はたくさんできているかも。……そうだ、シャワーを浴びないと、お風呂に入らないと。あの後何もしないで先輩の家を出た。体中にまだ先輩の手と舌とアレの感覚が残っている。急いで洗い流さないといけない、きれいな体にならないと。そうは思っているのに体が動かない。痛みが出てくる。

 何をする気力もなく、そのまま眠ってしまう。

 全部夢だったら良かったのに、起きたらなかったことになっていればいいのに。

 そんなことを考えながら……。


 目が覚めてもまだ痛みと違和感がわたしの中に。

 昨日のことは、その前のことも含めて全部夢であってほしいと願いながら眠りについたのに。だけど、夢にはならない。現実のまま。肌にまだ残る気持ち悪さと不快感が教えて

くれる。

 そんなことを教えてくれなくてもいいのに。思い出させてくれなくていいのに。

 とにかく気持ち悪いまま。

 気持ち悪さの原因は精神的な理由だけじゃない、物理的な理由もある。思い返してみれば、わたしは昨日あのまま眠ってしまった。

 お風呂にも入らず、シャワーも浴びず、先輩の手の感触と汗にまみれたまま、汚れたままで眠りについてしまった。

 早く洗い流したい。この肌にこびりついているような気持ち悪さをシャワーによって流し落とし、きれいになりたい。

 ベッドの中からもぞもぞと起きる。またあの感覚、股の間に異物感みたいなものがあって歩き難い。

 それでも這いだし部屋から出る、壁に手をつきながら階段を一段ずつゆっくりと下りる。

 脱衣所で服を脱ぐ。やっぱりスカートが皺だらけになっている。

 シャワーヘッドから勢いよくお湯が。体に当たる。いつもなら身も心もきれいになっていくにつれて気持ち良いようなきぶんになってくるのに、でも、今は違う。どんなにお湯を浴びても全然気持ちいい、良い気分にはなってこない。

 それどころか、今までは寝起きで正常に動いていない頭が活動を始め、落ち込んでしまう。 

 さっぱりしたはずなのに、気分はさっぱりのまま。

 落ち込んだままで浴室、脱衣所から出る。

「あら、シャワーを浴びてたの。でも、大丈夫なの?」

 リビングでお弁当の準備をしてくれているお母さんが言う。

 大丈夫。それより学校に行かないと。

「顔青いままよ。無理しなくていいんだから。学校休んでもいいのよ」

 さっきまで鏡の前にいたはずなのに全然気が付かなかった。指摘されるようにそんなに真っ青なのだろうか。

 お母さんの言うとおり学校を休みたい。でも、休んだりしたら……。

「……大丈夫だから」

 小さな声で言う。本当は大丈夫じゃない。けど、心配をかけたくないから。


 恵美ちゃんとの待ち合わせの時間ギリギリだった。スポーツバッグの中に持っていく物を放りこむ。髪の毛もいつもみたいに丁寧に纏める時間がない。急いで家を出る。

 急いでいるはずなのに自転車は全然前に進まない。

ペダルがすごく重たい、足の裏が痛くなってくる。

 それでもガムシャラに漕ぎ続けてなんとか待ち合わせの時間に間に合うことが。

「すごく顔色悪いよ」

 恵美ちゃんにも心配される。大丈夫と言わなくちゃ。

「昨日ゆっくり休めなかったの?」

 わたしが言う前に恵美ちゃんが言葉を続ける。

 そんなことできなかった。昨日はあれから……。

 だけど、先輩の家であったことは恵美ちゃんには絶対に言えない。

「無理しないで、今日は休んだら」

 恵美ちゃんの言葉に素直に従いたい。

 でも、休むわけには。


 授業中、見ないようにしていても勝手に結城くんのいない席が目に入ってくる。

 わたしのせいだ。あの席に今誰も座っていないのは。

 ただでさえあまり良くない具合がもっと悪くなっていく。

 罪悪感で潰れそうに。

 見ないようにしようとしても視界の中に。

 だから、机の上をずっと見ていた。

 長かったけどようやく全部の授業が終わった。

 もう教室にいる必要はない。

 でも、これで休めるわけじゃない。まだ部活もある。それにおそらくだけど、その後にも……。

 重たい体で恵美ちゃんたちの後を。

 休んだらと言われたけど、一番下手な人間がそんなことをしたら。

 部室棟の近くで先輩と遭遇。

 先輩はわたしに近付いて、 

「今日もするからな」

 そう小さくわたしの耳元で言う。多分、この声は恵美ちゃん達には聞こえていないはず。

 それから先輩はわたしの肩を抱きしめ、

「今日コイツ休むから。言っといて」

 そう言って強引に手を引っ張って歩き出す。

 行きたくない。けど、行かなくちゃ。でもその前に、

「……ゴメンね。……先輩達と先生に言っておいて」


 二日連続で先輩とした。

 痛みがより強くなっていく。

 先輩の動きが乱暴になっていく。

 三日連続で。

 三日目は学校の中で。



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