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停学期間

閲覧注意


   (みなと)


 わたしが結城くんのことを知ったのは翌日のこと。

 最初、教室の一番前の真ん中の席、そこが一学期からずっと結城くんの席、に見慣れている背中が見えなかったのは、もしかしたら風邪かな、でも昨日はそんな様子は全然なかったのに、と呑気にそんなことを思っていた。

 それがお昼ごろになると停学になったという噂が回ってきた。

 結城くんと停学、この二つの言葉が頭の中で上手く結びつかない。

 紙芝居をしている時と、屋上で話している時の印象しかないから、結城くんの全部は流石に分からないけど、それでも喧嘩をするとか万引きをするという悪さをするような感じは全然ないのに。

 一体どんな理由で結城くんは停学になったのだろう?

 それが分かったのは放課後のこと。

「湊ちゃん、結城の停学の理由分かったよ」

 部活に向かう前に恵美ちゃんが何処へと行って、そして走って戻ってきて。

 けど、どうして恵美ちゃんが結城くんの停学の理由を知りたかったのだろう? そのことを訊くと、

「えっ、だって湊ちゃんが知りたそうにしてたから」

 気になるけど、そのことを恵美ちゃんには言っていないのに。

「……そんな風に見えた?」

「うん、なんか今日はずっと結城の席を見てたような気がしたから。それで気になってんのかなと思って」

 そんな風に見えていたのか、気をつけないと。でも、さすが恵美ちゃん。観察眼がスルドイな。

「……それで?」

 知っていいのかどうか少し迷ったけど好奇心が勝ってしまう。

「アイツさ、見かけによらず結構大胆なことをやったみたい。あのね、なんでも合鍵をコッソリ造って別館の屋上に無断で侵入してたんだって。それも一回だけじゃなく何回も。そういえばアイツよく教室からいなくなってたけど、それってずっと屋上に行ってたのかな」

 恵美ちゃんの声はなんだか楽しそうな感じ。

 でも、わたしは全然楽しくなんかない。

 知らなければよかった。

 頭から血の気が一気に引いてく、ザーという音と一緒に。

 視界が狭くなっていく、目の前が暗くなっていく、

「どうしたの湊ちゃん? 急に顔色悪くなったよ」

 恵美ちゃんの心配そうな声が。

 ああ、わたしは今そんな風に見えているんだ。

 けど、大丈夫。ちょっとふらつくような感覚はあるけど平気、大丈夫。

 そう言おうとしたけど声が出ない。

「もしかして急に始まったの。大丈夫? ある?」

 心配そうな声は続く。急に生理が始まったんじゃと心配してくれている。たしかにあんまり安定していない、不定期だけどそんなに重たくはない。

 生理が原因でこうなっているんじゃない、別の理由。

 屋上に無断で侵入していたのが停学の理由ならば、それなら同じのはず。それなのに、どうして結城くん一人だけが停学という処分を受けたのか。

 それが理由なら、わたしも一緒に停学処分を言い渡されているはずなのに。

 それなのに、わたしには何もない。今日もなにも知らずにのん気に学校に。

 もしかしたらこの後、先生から呼び出されて停学処分を言い渡されるのだろうか。

 そう考えると、急に怖くなって体が震えてくる。

 みんなに迷惑をかけてしまう。まだまだ下手くそだけど、左利きで長身ということで最近ではメンバーに抜擢されているのに。

 こんなことをしてしまって、お父さんに怒られるかもしれない、お母さんを悲しませてしまうかもしれない。

 暗くなっていた視界が、またより一層暗くなっていく。そして、落ちていくような感覚に。

「ほんとに大丈夫?」

 暗く落ちていきそうな感覚にストップをかけてくれたのは恵美ちゃんの声。

 これ以上はあんまり心配をかけたくない。大丈夫、そう言いたいのに声がまだ出ない。かろうじて動く首を小さく上下に動かす。大丈夫という意思をなんとか示す。

 ちょっと待てば元に戻るはず、きっと……多分。

 それに、わたしが呼び出しを受けていないのはきっと結城くんが庇ってくれたからだ。

 それならば、大丈夫なはず。

 そう、思い込もうとした。でも、思い込めない。

 お守り代わり、勇気をくれるクマのマスコットも今は手元にはない。

「部活休む?」 

 首を横に振る。本音を言うと、休みたい、行きたくない。

 けど、そんなことをしたら怪しまれてしまうんじゃ。

 結城くんのことを心配しないといけないはずなのに、自分のことを考えてしまう。


 こんな精神状態でまともに練習ができるはずもない。

 ミスばかりしてみんなに迷惑をかけてしまう、練習の邪魔になってしまう。

 結局、練習を早退することに。

「よう、一緒に帰ろうぜ」

 一人で駅に向かうわたしの背中に声が。

 声の主は男子バスケ部の先輩でわたしの付き合っている人。初めてデートした人。初めてキスをした人。

 そして……。

「……はい」

 本音を言えば一人でいたかった。けど、そんなこと言ったら先輩は気を悪くしてしまうかもしれない。それに誰かと話をしていればもしかしたら気が紛れるかもしれない。

「そういえばさ、お前のクラスのヤツが停学になったんだってな」

 二人で一緒に下校する。その間横にいる先輩はずっと黙ったままだった。いつもは必要以上にしゃべるのに。そんな先輩が駅まであと少しの所で口を開いた。

 返事の代わりに小さく肯く。

「そいつさ、屋上に侵入していたんだよな」

 学年が違う人にまで知れ渡っているんだ。

「一人だったのかな?」

 違う、屋上にはわたしもいた。

 なのに停学になったのは結城くんだけ。

「一人の訳ないよな。絶対に誰か他にいたはずだよな」

 先輩がニヤニヤした目をしながら言う。

「例えば、お前とかさ」

「……えっ?」

 先輩が何を言っているのか理解できなかった。

「俺、見たんだよな。お前が屋上からアイツと出てくるところを」

 見られていたんだ。それなら、もしかしたら……。

「だからさ、俺が学校にチクったんだ」

 もしかしてと思ったことに先輩は答えを。

 けど、どうして結城くんだけが停学に。

「どうしてアイツだけが停学になったんだと思っているんだろ?」

 心の中を見透かされているみたい。

 答えられない。

「俺の女にチョッカイを出したから。その報いを受けてもらったんだよ」

 そう言いながら、先輩はわたしの体を強引に引き寄せる。

 先輩が想像しているようなやましいことなんかしていないのに。屋上では紙芝居の話をしていただけなのに。

「俺がいるのになんで他の男とあんな場所に行ってんだよ。お前は俺の彼女だろ。今からそれを解らせるからな」

 先輩がわたしに何をしようとするのかは言っていない。けど、何をしたいのか理解できてしまう。

「また、するからな」

 当たってほしくなかったのに予想は的中してしまう。

 したくない。

 あの時、もう無理やりはしないと約束してくれたはずなのに。

 拒否したい、けど先輩の目が怖い。

「もし嫌だというならさ、お前のことも学校に報告しないとな」

 犯したことに対しての罰は受けないといけない。けど……。

 けど、そうなれば多くの人に迷惑をかけてしまう。それから、お父さんとお母さんを怒らせ、悲しませてしまう。

 わたしが我慢することで、それが回避できるのであれば。

「……分かりました。……お願いします」

 なんとか声を絞り出す。

 心とは裏腹の言葉を。


 先輩の部屋でまた抱かれた。

 もう初めてじゃないから痛みはないと思っていたのに、また痛かった。

 経験したのに気持ち良くもならない。

 その反対にずっと気持ち悪かった。

 それから結城くんと二度と校内で話すなと約束させられてしまう。

 お前のしたことは、浮気、だと強くののしられた。

 そして最後に、事後の、裸の写真を撮られた。



これからしばらく暗く、重たい内容が続きますが最後にはちゃんと晴れますのでお楽しみください。

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