表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/113

二学期 4


   (こう)


 さて放課後、いつものように屋上に行こうと教室を出た俺に背中に担任の声が。何事かと思っていたら神妙な顔で至急職員室へと向かうようにというお達しを。

 呼び出しを受けるような理由をとくに思いつかない。一応夏休みの課題は、成否は兎も角、一応全部提出したし、授業中の態度だって全然聞いてはいないけど真面目に受けているような演技をしている。

 どうせ、大した理由ではないだろう。そんなことを考えながら暢気に職員室へと。

 違った、ものすごく大した理由だった。

 呼び出されて理由はバレた。

 屋上への無断侵入が教師連中に知られてしまった。

 職員室からすぐに別室へ移送、生徒指導室へと連行される。イスに座る俺を、担任、学年主任、それから生徒指導の先生、三人が取り囲む。

 生徒指導の先生が俺を強い言葉で責めてくる。それを担任がほんの少しだけ庇う。学年主任は腕組みをして黙って俺を見ている。見事なまでの役割分担。まるで安手の警察コントのようだ。昔、あの人に教えてもらった尋問の仕方を思い出す。それと同じことが今、目の前で繰り広げられている。

 本来なら複数の大人に囲まれて萎縮すべき場面なのかもしれないけど、俺はそれどころではなかった。笑いをこらえるのに必死だった。ここで吹き出したりしたら火に油を注ぐのは必至。

「あんな場所に一人で何をしてたんだ? 何か悩みがあるのなら先生が相談に乗るぞ」 

 担任がなかなか口を割ろうとしない俺を宥めすかせようと優しい口調で言う。

 俺は何もしゃべらない。

 これは黙秘の権利を行使してからではなく、口を開けば笑ってしまいそうになるから。

 必死に笑いをこらえる。こらえながら、さっきの担任の言葉で一つ引っかかることが。

 どういう経緯で屋上への無断進入がバレたのか判らない。けど、先生方は俺が屋上に俺が一人で侵入していたと思い込んでいるようだ。

 あそこにはもう一人いた。だけど、もう一人の存在は知られてはいない。

「えっとですね、……俺が屋上に行くようになったのはあそこの鍵を貰ったからです。くれたのは従姉で、ここの卒業生です。最初はそんなもの貰っても行く気なんてなかったけど、五月にちょっと私事で嫌なことがあって。……教室の中はいつも煩いから静かな場所で一人になりたいと思ったんです。その時、鍵のことを思い出して……それで行くように。その後は一応嫌なことは解決したんですけど、一人でいるのがけっこう居心地が良くてずっと行っていました」

 吹き出しそうになるのがどうにか治まったので俺は自らの悪行の告白を、当の本人は悪いことと思っていないけど、そしてあくまで一人であったことを強調して。藤堂さんも一緒にいたことは絶対に秘密に。

 藤堂さんが屋上に来ることになったのは俺に要因がある。そんな藤堂さんを絶対に被害が及ばないようにしたかった。知られていないのなら死んでも隠し通すつもりだ。

 かっこつけるつもりはないけど、この罰は一人で受ける覚悟。

「その従姉って、もしかして伊藤ヤスコのことか?」

 今迄黙って座っているだけだった学年主任が静かに口を開く。

「はいっ」

 ヤスコはここの卒業生。知っている先生がいてもおかしくはない。

「そうか、やっぱりアイツら屋上の鍵の複製なんかコッソリ造っていやがったな。あの時なんか変だなって思ってたんだよな。ずっと鍵を借りに来ていた連中がいきなり来なくなったからなー」

 何かを思い出しながら、そして笑いながら学年主任が言う。

「知ってるんですか、ヤスコのこと?」

「知っているもなにも、俺はあの当時の演劇部の顧問だよ。まあ、知識も経験も無いから一応だったけどな。それにな、アイツらが劇団立ち上げたのも知っているし、観に行ったりもした。小さかった君のお芝居も観ているよ」

「……そうですか」

 向うは記憶があるみたいだけど、俺には全く憶えがない。

「それじゃ、もう一度聞くけど。屋上に合鍵で侵入していたことは認めるね?」

「はい」

 神妙に頭を垂れて言う。素直に認める。

「ずっと一人でいた? 他に誰か一緒だったということはないね?」

 隠し事をしていることをまるで見透かされているような気分に。

「……はい……俺一人です」

 虚勢を張って噓をつく。舞台上よりも、紙芝居よりも緊張しながら芝居をする。

「そうか、それじゃ結城の言葉を信じるか。それから鍵だけどな、学校側で一応回収するからな。伊藤からの入学祝みたいだけど、悪く思うなよ」

 別に悪いなんて思わない。ヤスコがこんな鍵なんか寄越すから、こんなことが起きたんだ。

 俺は財布の中から鍵を出し、先生方の前に、机の上に置いた。

 そして、停学一週間の処分を受けることに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ