屋上タイム 13
航
昨日はあれから二人なんか無言になってしまい、そのまま屋上から出た。
だからちょっと不安が。
もしかしたら今度こそ愛想をつかされてしまったのでは。
けど、そんなのはまたも杞憂であった。
屋上へと着くはるか前、渡り廊下を渡りきったところで藤堂さんの姿を前方に確認。
安心、ホッとして胸を撫でおろす。
さあ、しかしどうする?
このままの距離を保ったままで屋上へと向かうか、それとも追いついて一緒に行くか。
思案のしどころ。
屋上で一緒に過ごす仲、まあ親しい関係とも言えないでもけれど、これはあくまで俺の勝手な認識であって、藤堂さんからしたら単なるクラスメイトで、紙芝居をしているからほんの少しだけ興味があるだけだから、一知人でしかないかもしれない。
だとしたら、走って追いついて背中越しに声をかけたりなんかしたら、変な奴と思われてしまうかもしれない。
ならば、このままの距離を保って歩いたほうが。
一気に距離を詰めたりなんかしたら、意識をしていると思われてしまうかもしれないし。
湊
後ろから小さな足音が。
多分、結城くんだ。
どうしようかな? 待とうかな?
でも、結城くんじゃなかったら。
ちょっとだけゆっくり歩こう。もし結城くんだったら追いつてくるはずだから。
そう思って、ほんの少しだけいつもよりも階段を上る速度を遅くする。
けど、屋上へと到着してしまう。
結城くんじゃなかったのかな。振り返ってみると、やっぱり結城くんだった。
追いついてきてくれてもいいのに、そんなことを思いながら待つことに。
ゆっくりとやって来た結城くんは屋上のドアを開けてくれる。
二人で屋上へと無断侵入。
……けど、昨日の変な空気がまだあるような感じで何を話していいのか。
「あ、昨日のことなんだけど」
そんなことを考えていると結城くんから。
「……うん」
「帰ってからちょっと考えてみたんだけど。誰に向けて、対象を決めてそこに向けて声を発することを意識すれば、そんなに大きな音じゃなくても届くから」
「そうなの?」
「なんとか効果とか言うらしい」
「……そうなんだ」
「それと、腹式の練習はすぐに効果はでないというか、成果は出ないかもしれないけど、地道に、夏休み 毎日意識しながら五分くらい練習をしていたらできるようになるはず」
そうか。継続した練習って大事だもんね。バドミントンも入部した当初は全然駄目だったけど、ここ最近はまだまだ一番下手だけど、それでもみんなについていけるようになってきた。
……うん。
それよりもさっき結城くんはなんて言ってかな。
ああ、そうだ夏休みだ。
結城くんに訊かないといけないことが。
「ねえ、夏休みはどうするの?」
航
突然夏休みの予定を訊かれた。
計画通りに赤点を無事回避できたから、補修を受けるために学校に来る必要はない。だから……。
「屋上は来ないよ。夏休みは多分、自転車で走り回るはず」
といっても、昼の日差しの強い、危ない時間帯にフラットバーロードでの走行を堪能したりはしない。走る時間帯はまあこれはあくまで予定だけど午前中、まだ気温の上がりきっていない頃合いに走るつもり。だから、休みだけど夜更かしをするような生活は送らない……はず。
「もしかして結城くん、自転車が趣味なの?」
この言葉に一瞬、もしかして同じ趣味を持っているかと思い、藤堂さんくらいに身長と手足の長さがあれば俺には乗れないアレで走ることも十分に可能だよな、女子に対してこんなことはもしかしたら失礼になるかもしれないけど、正直うらやましいなと想起したところで、いやいやさっきの口調からしてそうではないはず、自転車が趣味というのが以外といった感じだった。
そういえば、この屋上で藤堂さんと話すようになって大分と経つけど趣味の話とかはしたことなかったよな。
「うん、そう。貰い物のフラットバー……クロスバイクでポタリングをするのが好きで」
フラットバーロードとクロスバイクは厳密にいえば異なるけど、特に興味のない人に説明をするのは少しややこしいのでクロスバイクということに。
「クロスバイク? ポタリング?」
ああやっぱり、駄目だったか。
湊
「クロスバイクというか、正確にはフラットバーロードで、ロードバイクはわかる?」
頷く。
クロスバイクもフラットバーロードも分からないけど、ロードバイクは知っている。
変なハンドルが付いていて、細くて、速い自転車だよね。
「細かく説明するのは難しいけど、簡単に言うと、フラットバーロードというのはドロップハンドルじゃなくて、横一文字のハンドルを着けた自転車」
ああ、なんとなくだけど理解できた。
そういえば中学の時、男の子がそういう自転車に乗っているのを見たことある。
「それでポタリングというのは自転車で散歩すること」
ああ、ポタリングって前に何処かで聞いたような記憶が微かにあったけど、結城くんが自己紹介で言っていたのだ。全然何のことかその時も分からなかったけど、そういうことだったんだ。
結城くんはそんな趣味を持っていたんだ。
意外な一面を見たような感じだ。
紙芝居と教室での姿、そしてこの屋上でしか知らないから。
わたしと一緒でインドアのような印象があったけど、思いのほかアクティブだ。
あ、そういえばたまに一緒になる体育の授業で、恵美ちゃんが言っていたけど結城くん体の使い方が結構上手だって。
そういえば折り曲げているズボンから出ている脚と脹脛もすごく引き締まっている。
いつも陰に居たから気付き難かったけど、よく見ると結城くんは結構日焼けしているし、指にも変な日焼けの跡が。
新しい結城くんを知れたような気がして少しうれしいような気が。
……あ、そうじゃない。
良かったことは良かったけど、わたしが知りたいのはそういうことじゃなくて、
「……夏休みは紙芝居があるのかを知りたかったの」
これは重要なこと。
航
ああ、勘違いをした。
そうか俺の夏休みの予定ではなく、夏止み期間中の紙芝居の上演についてか。
「夏休みだからといって特別に上演する予定は今のところはないはず。けど、普段通りに毎週日曜日にはするから」
今のところそんな話は出ていないし、聞いていない。
まあ、GWにあんなことがあったから前田さんも臨時の上演を頼むなんてことはしないだろう。
湊
そうか、残念だな。
もしかしたら夏休みだからこどもの日みたいに日曜日以外の上演もあるんじゃないかとちょっと期待したんだけど。
「どうしてそんなこと聞くの?」
結城くんの質問は当然だ。
「えっとね、……夏休み中はバドミントン部の活動が大変そうだから、もし日曜日以外にもあるんだったら観に行く機会が増えるかなって」
まだ正式な予定は決まっていないけど、先輩たちの話によれば夏休み中の練習は結構大変らしい。
これは想像だけど、日曜日にはなかなか観に行けないよう気が。
だから、それ以外にも上演があったら良いのに思ったんだけど。
あの日以降観ていないからまた観たい、結城くんの紙芝居を楽しみたい。
航
藤堂さんから出た言葉はうれしいものだった。
また観に来て欲しいというのは俺も同じ。
希望の添うように夏休み期間の上演日を日曜以外にも増やすというのは良い案だとは思うが、しかしながらそれは俺の一存で決まるようなことじゃない。
前にも言ったけど、俺はヤスコたちの劇団の紙芝居助っ人要員。
勝手に上演を増やすなんていう権限なんか無い。
それに仮にそんな権限があったとしても、依頼が無ければ上演することはできない。
「……ごめん」
「うん?」
藤堂さんが小さく首を傾げながら。
「いや、日曜日以外にもできなくて」
謝罪の理由を。
「そんな。それはわたしの勝手な願望だから。結城くんが謝るようなことじゃないよ」
「……うーん」
そう言ってくれるけど、なんだか。
「なんとか日曜日に時間を見つけて観に行くから」
「……来てくれるの?」
これまたうれしい言葉を。けど、練習が大変なんじゃ。
「うん、行くから」




