表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/113

屋上タイム 12


   (こう)

 

 声というのは肉体を使った楽器、ということ昔あの人やヤスコから言われた。

 だから身体が不安定だと声にも影響が。

 それでこのGW、ものすごいスランプに陥ってしまった。もっともヤスコと舞華さんに単なる下手であってスランプなんかじゃないと言われてしまったけど。

 少し話が逸れてしまった。まあ声を実際に出さなくとも改善することも可能……なはず。

 それを藤堂さんに指導すれば。

 まあ最初から色んなことを言っても理解なんかされないだろうから、まずは基本的なこと。

 ならば、定番の腹式呼吸。

 腹から声を出すと誤解されているけど、そうではなく胸辺りまでの浅い呼吸ではなく、お腹はもちろん、極端な言い方をすれば全身に空気を取り込む呼吸。

 これによって格段に声の出が違う。

 藤堂さんの要望にもかなうはず。

 しかしながら一朝一夕にできる人もいるけど、なかなかできない人もいる。特に女性はその身体の構造上、腹部に空気を送り込みにくい。というのもそこに男にはない内臓器官が、子宮というものが存在するから。

 そういう説明をまずはしようとしたけど、思いとどまる。

 以前、オナニーとセックスという単語を用いてしまい場の空気をおかしくしてしまった。

 同じようなことが起きてしまう懸念が。

 さて、どうやって説明しようか。

 教わる一方だったからそんなことを今までの人生で考えたことがない。

 あ、そうだ。

 言葉にして説明するのがあれだったら、実践してみればいいのか。



   (みなと)


 結城くんが突然立ち上がって、

「触ってみて」

 と言いながら制服をめくりあげた。



   航


 俺の言葉に藤堂さんが躊躇、戸惑った顔を。

 俺に触れてもらうのだけど……もしかしたらこれもセクハラに該当するのか。

 しかし今からすることは実際に触ってもらったほうが解りやすいからな。

 どうしようか?



   湊


 どうしよう?

 触ったほうがいいのかな? 結城くんが言っているんだから。

 でも……触れるのは恥ずかしい。

 前の握手の時だって結構恥ずかしかったのに。

 けど……。

 ……結城くんはわたしに教えてくれるために触れろと言っているんだから、恥ずかしがっていたら。

 勇気を出して触ってみる。

 左手をお腹に、右手を背中にほんの少し当てる。



   航


 躊躇しながらだけど藤堂さんの手が俺に身体に。

 けど、それだとまだ。

「もう少し。手のひら全体で感じ取れるようにして。あ、あとコッチも」



   湊


 結城くんから要求が追加されてしまった。

 まだ恥ずかしい気持ちは消えていないけど、両手で結城くんに。

 え、柔らかい。

 もっと硬いと思っていたけど、思いのほかぷにぷにしている。

 と、思っていたら、

「それじゃいくから」

 そう結城くんが言うと、柔らかい部分が突然膨らみだした。

 わたしの触っている手を押し返そうとするくらいに強く硬くなっていく。

 知らなかった。

 お腹と背中ってこんなに膨らむんだ。

 そう思っていたら、

「今度はへこますから」

 結城くんの口から息を吐く「シュー」という音。

 あんなに膨らんでいたお腹と、それから背中があっという間に萎んでいって細くなる。

 ……なんか、ズルい。

 これ絶対にわたしよりもウエストの数字より小さい。

 



   航


「腹式呼吸を意識して声を出せば、希望通りに声というか音が出せるはずだから」

 すぐにするのは難しいかもしれないけど、毎日暇を見つけて継続的に行っていればできるはず。

 けどまあ、藤堂さんは今の声のままでもいいような気もする。

 というのも、藤堂さんの声は俺が絶対に出せないようなウィスパーボイス。その良さを腹式の発声でなくしてしまうのは勿体ないような気も。しかし、声優さんなんかでもいるから案外腹式でも出せるのかもしれない。

 そんなことを考えている俺の耳に藤堂さんの声が、

「ねえ、結城くん。背中触ってみてくれないかな」



   湊


 結城くんの真似をして早速してみる。

 お腹を膨らませることがなんとかできたけれど、背中はよく分からない。がんばって空気を送り込んでいるつもりだけど、全然入っていないような気もする。

 だったら分かる人に触って確認してもらえばいいんだ。



   航


 これまでの人生で異性の身体に触れたことは、数はそんなに多くはないけど、それでもないわけではない。例えば小学生の時の運動会のフォークダンス、中学の時の体育祭でも

二人三脚をしたし、それに近況でも劇団の稽古でお姉さま方の身体に触れている。

 だから、藤堂さん本人が触れることを許可しているのだから問題なく触れるはず。

 なのにすごくドギマギしてしまう。

 そういえばこないだの握手もそうだった。

 好きな子かもしれない人の身体を触ることはそれだけで幸せない気分になれそうだけど。けど……なんというか……。言葉ではうまく言えないような複雑な、入り乱れた感情が俺の中で。

「……ああ、そうだ。今日は暑いから明日にしよう」


 

   湊


 結城くんが突然。

 確かに結城くんが言うように今日も暑いけど、それでも確認するくらいのことはできるはずなのに。

 なんか変な感じ。

 ……。

 ……あっ。

 わたしなんてことを結城くんにお願いしたんだろう。

 こないだの握手の時も恥ずかしかったし、さっきのだってちょっと……という気持ちがあった。

 それなのに今度はわたしから触ってってお願いしてしまうなんて。

 やらしい気持ちはもちろん、疚しい気持ちも全然ないのに。

 ああ、けど……。

 急激に顔が熱くなってくる。

 大胆なことを言ってしまったかも。

 ……あ、だから結城くんはなかなか触れようとしなかったんだ。

 ……すごいな。

 ……ちゃんと考えてくれているんだ、配慮してくれているんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ