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屋上タイム 9


   (こう)

 

 一晩経っても後悔の念というか自己嫌悪というか、とにかく負の感情が俺の中にずっと存在し続けていた。

 どうしてあんなことを言ってしまったのか、もっと考えてから言えばよかった、そんな今更どうすることもできないのに後悔が継続中。

 ……もしかしたら、もう藤堂さんは二度と屋上には来ないかも。

 あんなことを言ってしまったんだ、軽蔑、嫌悪されたとしてもおかしくはない。

 もっと親しい間柄ならともかく、いや女子にその手の話はNGのはず、紙芝居を通じてのただのクラスメイトにしか過ぎないのに。

 ああー、嫌われてしまった。

 溜息と一緒に後悔がまた。

 藤堂さんが屋上に来ないのならば、俺ももう屋上に来る必要はない。GWの失敗で落ち込んで、周囲の喧騒から逃げるようにここに来ていた。でももう、周りの音がうるさいとは感じなくなっていた。だからここにはもう来なくてもいい。なのに来ているのは、藤堂さんが来てくれるから、俺の紙芝居の話を聞いてくれるから。

 屋上いる必要はない。只でさえ暑いのに。

 教室に戻ろう。

 そう思って腰を上げた時ドアの向こうから足音が聞こえた。

 

 藤堂さんだ。

 来てくれたんだ。

 そしてまたいつものように俺の横に。

 良かったー。安堵を。

 安心しながら考える。

 あんなこと言ったのにもかかわらず今日もまた来てくれ、そして俺の横に、距離も開けずに座ってくれる。

 脈があるとまでは言わないまでも、俺同様に藤堂さんも俺のことを少しは意識をしてくれているんじゃ。

 いつかのヤスコの車中の言葉が脳裏にふと蘇ってくる。

「花火に誘ったら」

 もしかしたら俺の申し出を受け入れてくれるんじゃ。そしてそれをきっかけにして告白したら案外受け入れてくれるんじゃ。

 そうなったら楽しい青春が送ることができるかもしれない。

 ……いや、駄目だ。

 ……そんな誘いをしたら絶対に駄目だ。

 花火大会に藤堂さんを誘い、そこから発展して恋人同士になることができたならばそれは大変喜ばしいことであろう。しかし、付き合うようになってめでたし、めでたしではない。紙芝居や物語のようにそこで終わり、ハッピーエンドで幕が下りるのではなくその後続く。それが上手くいけばそれに越したことないのだが、世の中そう上手くはいかないことを知っている。ヤスコたちの劇団内でもこれまで何人かの男女がくっ付いたり離れたりしていた。そのまま劇団内に残っているのならばまあいいのかもしれないけど、大半離れて行ってしまった。つまり何が言いたいのかというと、言っとき幸せであってもそこからなんらかの原因で不幸になり別れてしまう、そして紙芝居に来てくれなくなる。同年代の貴重な紙芝居のファンを、軽率な行動で結果的に逃してしまうことにかもしれない。そして失敗した場合は言わずもがな。

 それでなくとも昨日しでかしてしまったんだ。

 ここは余計なことはしないほうが吉のはず。

 演者とファンの関係を継続したままのほうがいいはず。

 そうだ。

 これは一時の気の迷い。

 こんな想いは一刻も早く除去してしまおう。



   (みなと)


 昨日の今日。

 来たのはいいけど、ちょっとだけ気まずいような感じが。

 それは結城くんも。

 わたしもだけど、結城くんも一言も発していない。

 何か言わないと。

 そう思うけど、何を言っていいのか分からない。

 ……あ、そうだ。

「あの……結城くんの番号を教えてもらえないかな?」

 もうすぐ期末テストがある、ちょっと嫌な憂鬱なイベントが過ぎると授業は半日になって、そして夏休みに。

 半日の授業になると、お昼休みはなくなってしまう。

 ということは、ここに来る時間が無くなってしまうことに。

 それに暑くもなってくるし。

 でも、電話でだったらここに来る必要もないし、涼しい場所で話すこともできる。

 そう考えて提案したのだけど、結城くんは予想外の言葉が返ってきた。



   航


 藤堂さんからの提案は二つに意味でうれしかった。

 一つは言うまでもなく番号を聞かれたこと。

 嫌な人間にそんなことは言わないだろうから、そんなに軽蔑されていないんだと内心で胸をなでおろす。

 そしてもう一つ。

 それは藤堂さんが話しかけてくれたことで、昨日の俺の失態から生じてしてしまった、嫌な雰囲気というか、気まずい空気みたいなものを、撹拌してくれた。

 しかしながら……。

「……ゴメン。……携帯持ってない……」

 あると便利な機械であることは重々承知しているが、俺には不必要なものと判断して、周囲の人間が当然のように持っている中で、あえて持たないという選択をしていた。

あまり好きじゃない。電話には良い思い出がないから。

 しかしながら今は持っておけばよかったと後悔を。そうしたら藤堂さんの番号をゲットできたのに。

 いやいや、さっき決めたじゃないか。演者とファンの関係で行くって。だったら、教えてもらわないほうがいいはず。

 そう考えるのだが、やはり未練というかなんというか。

 あ、不味い。

 藤堂さんの表情が少し曇っていくような感じに。

 せっかく変なのを撹拌してくれたのに。俺のせいでまた。



    湊


 ゴメン、という結城の言葉を聞いた瞬間、もしかしたら結城くんには彼女がいて、その子がやきもち焼きで他の女子の番号なんかを入手したら怒られてしまうから、それで謝ったんじゃないだろうかという想像、というか妄想した。

 けど、それは全然見当違いであることがすぐに判明。

 意外というか予想外というか。

 持っていないなんてことは全く想像もしてなかった。小学生の頃はともかく、中学に上がってからはみんな持っていた。それにこの高校に来てかららも知り合いになって人は全員持っている。だから結城くんも当然所持しているものだとばかり思ったのに。

 良い考えだと思ったんだけどな。

 あ、でも自宅の番号を教えてもらうのは。そうすれば家の電話にかけたり……するのはちょっと無理かな、他の人が出たら恥ずかしいし。

 それじゃ、この先のテスト期間は屋上に来るのか訊かないと。

 来てみて、屋上のドアが開かなかったらさみしい。

 


   航


「……もうすぐテストだから……屋上に結城くんが行くのかどうか分からなくて。それでもし行かないのなら電話で話せたらいいかなと……」

 携帯の番号を聞いてきた理由を説明してくれる。

 本当に申し訳ない。

 今、すごく後悔をしている。

 けど、持っていないことを今更悔やんでも仕方がない。

「テスト期間もここには来ると思うから。だから、来たいと思ったら何時でも来ていいから」

 家にまっすぐ帰って試験勉強をする気分には到底なれないはず。だから、まあここに立ち寄っていこうかなと考えていた。

 だから、ちょっとした期待を込めた言葉を。

「うん」

 良い返事が返ってきた。

 さっきまでの暗くなりそうだった表情がまた明るいものに。



   湊


 ふーん、そっか。テスト期間も結城くんはここに来るんだ。

 あ、ということは。

 お昼休みの短い時間でなくて、長い時間話を聞くことができるかも。

 そう考えると、なんだかうれしく、そして楽しくなってきた。



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