屋上タイム 8
航
「……オナニーは自分一人だけが気持ちよくなる行為。そんな演技、紙芝居をしても観ている側はちっとも面白くないし、楽しくない。だから、観客を楽しませる、気持ち良くさせる。その為のセックス。そしてその時一緒に精子を放出して、観ている側の中何かと結合すれば、新しい演者が生まれるかもしれないし、そうでなくても別の新しい面白いものが生まれるかもしれない。だから、種を蒔き続けないといけないって。……セックスは演者も、観客も気持ち良くなることだって……」
これは別に紙芝居に限ったことではなく表現をするということ全般。
そんな話を何回もしてたよな。酔った時なんかはとくに。
…………。
…………。
…………。
ああ、俺はなんでこんな思い出を藤堂さんに話してしまったんだ。「オナニー」とか「セックス」とか、卑猥な単語を連発しまったんだ。
ヤバい、これ絶対に軽蔑されるはず。親しい間柄で、下ネタOKだったら問題はないだろうけど、藤堂さんは……まずい、なんか下を向いているし、顔も少し赤くなっているような気が。NGだったんだ、この手の話は。それなのに……。
なかったことにしないと。
リセットボタンを押そうとするけど、そんな都合の良いものがこの世の中に存在するはずもない、すなわち一度出してしまった言葉をなかったことにはできない。
どうしよう?
弁解をしたほうが。
けど、さっきの話でそういう行為自体を言っているのでは比喩であることは判ってもらえるかも。いや、それは安易な考えだ。インパクトが強すぎて全然聞いていないような可能性は大。
本当になんであんな事を話してしまったんだ。
まだまだ、あの人との紙芝居の思い出はあるのに。一人で一時間続けて上演した話とか、紙芝居を少し進化させて一人舞台にしたのとか。
それがよりによって下ネタの思い出を。
言っていることは、大事な、意味のあるものだけど。
それを女子高生に言ってしまうのは。
……しかも……多分、好きになっている女子に。
いや、それよりもさっきの発言で藤堂さんの中にある紙芝居への興味がなくなってしまったかもしれない。
となる、貴重な同年代の観客がいなくってしまう、俺の失態で離れてしまうことに。
なんとか汚名を挽回しないと。そんなことをしてどうする、反対だ反対。回復しないといけないのは名誉、まあそんなものはないけど、どうしようか? もう一度ちゃんと説明したほうがいいのかな。しかし藤堂さんの様子から察するにそれだと火に油を注ぐような気もするし。……ああ、こういう時は時間が解決するということを聞いたことがある。沈黙は金だ、余計な弁解は一切しないでおこう。そうすれば藤堂さんの記憶の中からいつの日か消えてくれるだろう。うん、そうしよう。
黙ったままで。
……けど、沈黙が段々と怖くなってくる。
前言を急ぎ撤回したほうが。けど、こういう場合、俺は上手くいかずに失敗する公算がたかいような。
だったら、このまま黙ったままでいるべきなのだろうか。
……こんな時に限ってチャイムの音は鳴り響かない。
湊
教室に戻ってからも、結城くんのあの言葉がずっと頭の中に残っていた。
もちろんその意味は両方とも知っている。
片方は……一応経験はあるけど、もう片方は……したことない。
そいうことをするのはまだ早い。
あ、でも私は一応結婚することが可能な年齢に達しているから、そういうことをするのが早すぎるということはないのかもしれない。
でも、やっぱりそういうことをするのはまだまだ早いような。
けど……。
結城くんはあの後で説明をしてくれた。
その説明でいくと、わたしと結城くんはそういうことをしたことになる。
頭の中に妄想が勝手に始まってしまう。
そういう行為をしているわたしと結城くん。
……むり。……恥ずかしい。
そういうことは……好きになった人とすること。
わたしは……結城くんのことは好きだとは思うけど、これは前にも言ったけど恋愛という意味合いでなくて友人としての好意。
それに……結城くんもわたしとそういうことをしたとは思っていないはず。
わたしは無駄に背が高い。それなのに肝心なところ、胸は全然大きくない。男の子は大きいほうが好きという話をよく聞くし。全然魅力的な体形をしていない。そんなとそういうことをしたいとは思わないはず。
そう考えているのに、頭の中の妄想は全然消えてくれない。
ドラマや映画、少女漫画のそういうシーンみたいのが、わたしと結城くんで。
こんなことを考えていないで授業に集中しないといけなのに。
もうすぐ期末テストだから。
それなのに……。
なんだかお腹の辺りが熱くなってくるような気が。
……あ。
……着けててよかった。




