屋上タイム 4
湊
舞台にも立ったことあるんだ。すごい。
どんな役で出たのかちょっと興味があったけど、結城くんの表情を見ていると何となくこれ以上先には踏み込んではいけない、訊いちゃ駄目なような気がして、でもやっぱり気になるし、どうしようかと悩んでいる間にチャイムの音が。
翌日、わたしはまた屋上へと足を運んで、結城くんに質問を。
けど、これは昨日訊こうかどうか悩んだことではなくて、
「紙芝居はどうしてるの?」
「どうって?」
訊き返されてしまった。
この質問じゃ何を訊いているのかよく分からないな。
「あのね、結城くんのした紙芝居もそうだけど、ヤスコさんの上演した作品で観たことないというか、全然知らないようなお話があったから。それで紙芝居はどうやって入手しているのかなって思って」
言ったとおり、知っているお話もあったけど、これまで聞いたこともないようなお話もあった。だから、どうやって紙芝居を入手しているのかちょっと気になっていた。
「ああ、それは自分たちで創っているらしい」
「自分たちで?」
想像していなかった答えが結城くんから返ってきた。
「昔は、在りものの作品を買ってきたりなんかして上演していたらしいけど、紙芝居って買うと結構高いから。何度もするような作品だったら元はとれるけど、一回だけしかしないなんていうのもあって、それじゃ本末転倒ということになって、だったら自分たちで創っちゃえってことになって制作しているらしい」
「すごい」
この世の中の創作物は誰かの手によって生み出されていることは理解していたけど、こんな身近な、といっても少し話したくらいだけど、ところでそれを行っている人がいるなんて。
わたしには到底できない、無理なことだ。
「そんなにすごくないよ。この辺の昔話というか民話をベースにしたり、後はグレーゾーンギリギリのも結構あるし」
結城くんの言うグレーゾーンというのがよく分からないけど、これはなんとなく深堀しないほうがいいような気が。
けど、民話とか昔ばなしでもちゃんと形にしていてそれを人に観てもらっているなんて本当にすごい。
「あ、結城くんは創っているの?」
助っ人として手伝っているのは上演だけでなく制作もかも。そう思って質問を。
「俺は演るだけ。創ってない。話は考えられるかもしれないけど、画は全然駄目だから」
あ、わたしも絵は苦手。
なんだか共通点みたいなものがあってちょっとうれしいかも。
航
紙芝居はヤスコたちが自分らで創っている。
昔は画を描くのが結構大変だったらしいが、今はPCで制作できる、色を失敗しても何度でもやり直しが可能なのですごく楽とかいっていたな。
だから、そんなにすごくない……はず。
ああ、そういえばあの人も創っていたな。
ヤスコがPCで描くようになってからも、直筆に拘っていたっけ。
湊
昨日までで、紙芝居がどうしてショッピングセンターで行われているのか。それから紙芝居はどうしているのか。という疑問は氷解した。
でも、わたしが知りたいことはもっとたくさんある。
今日はこれまでよりも早めに屋上に来ることができた。
すなわち、結城くんに質問できる時間が増えたというわけだ。
「それで今日は何を訊きたいの?」
結城くんのほうから。
連日のように屋上に来て質問しているのだから、今日もまたそうだと思われてしょうがない。まあ、訊きたいことがあるのは事実だから。
「……えっと……結城くんの紙芝居のしかたはちょっと……変わっている……」
わたしが観た結城くんの紙芝居は独特だった。
台座の横で一緒にお芝居をしている。
他にも観た人のは読み聞かせのようなスタイル。
だから、どうして結城くんはそんな風に紙芝居をしているのか興味が。
あ、変わっているというのは不味い表現だったかも、もっと他の言い回しで訊けばよかったかも。
どうしよう結城くんは気を悪くしていないかな。
もしかしたら質問には答えてくれないかも。
「ああ、俺の演り方はある人の影響を受けてちょっと……いや大分と特殊だから」
それはもしかしたら……。
「ヤスコさんの?」
と、訊いたら結城くんはすごく嫌そうな顔を。
しまった。
ヤスコさんの紙芝居は観ている。結城くんのとは全然違う読み聞かせのようなのだったのに。
全然違うのに。
もっと考えてから訊けばよかった。
航
藤堂さんが酷い誤解を。
俺がヤスコの影響を受けてあんな上演をしていると思っている。
憤慨するよう表情を作ってみる。
まあ、実を言うとそんなには怒っていないけど。
そんなに紙芝居を観ているわけじゃないから誤解をしてしまうのはある意味仕方がないかもしれない。
それを解いておかないと。誤解されたままなのは。
「違うから、あんな奴の影響なんか受けていないから」
あの紙芝居の演り方は小さい頃から観ていたもの。そして同時にすごく憧れていた上演方法。
その域にまではまだまだ全然届いてなんかいないけど、そこに到達できるように、そして超えることができるように一応努力しているつもりだが。
湊
「ごめんなさい」
謝罪を。
気分を悪くしたようだったら本当にごめんなさい。
「そんなに気にしなくていいから」
結城くんは優しく言ってくれる。
「うん。……それでさっきの続きだけど誰の影響を受けたの? それとその人の紙芝居は観ることできるの?」
結城くんが影響を受けた人の紙芝居を観てみたい。
何気ない、純粋な好奇心から出て言葉だったけど、またしても結城くんの表情を変えてしまった。
訊いちゃいけないことだったのかな。
結城くんは何も答えない。
答えないでわたしを見たまま。
さっきの質問はやっぱりなし、そう言おうとした瞬間、わたしの口よりも先に結城くんの口が動いた。
「……観れない。……もう観ることはできない」
そうだ、前に結城くんが説明してくれた。学生時代は問題なかったけど、劇団の人が社会人になると仕事に追われて紙芝居に参加できなくなっていった、と。影響を受けた人も仕事が忙しくて紙芝居を辞めてしまったのだろうか。
……でも、それじゃないような気が。
そんな気がするのは結城くんの表情とさっきの声。
なんだか重たく苦しいような雰囲気が。
気軽に訊いてはいけないようなことだったんだ。
「どうして?」
そう思っているはずなのに勝手に口が動いてしまう。
「……もういない。……去年の春、突然彼岸に渡ったから……」
直接的な言葉じゃないけど、悲しいことが起きたことは理解できた。
大事な人がいなくなる悲しみはわたしも知っている。
「……ごめんなさい」
「ううん……いいよ、別に。忘れかけていたけど思い出すことができたから……」
そう言った結城くんの瞳から涙が零れ落ちた。




