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屋上タイム 3


   (こう)


 昨日もまた時間切れだったので、今日は俺のほうから話しかけてみることに。

 藤堂さんが屋上へと来て、昨日よりも俺に近い場所に、腰を下ろしたのを見計らって、

「それで訊きたいことって」

 俺から訊かれるなんていう想像もしていなかったのか藤堂さんの口からは文字化するのは不可能な、意味不明な、驚きと焦りと他のも色んな感情を混ぜたような音が。

 しまった。

 良かれと思っての行動だったけどびっくりさせてしまった、逆効果だったか。

 待ったほうが良かったか、彼女のタイミングで話しかけてくれるのを。

 しかしもう話しかけてしまったからな。

 どうしようかと思いながら藤堂さんを見ていたら、思った以上に早い回復を。

「……うん、あのね……」



   (みなと)


 突然結城くんが話しかけてきたのでビックリしてしまって変な音を出してしまった。

 ……はずかしい。

 ……でも、これはチャンスという良いきっかけになるんじゃ。

 訊きたいことがあると言って屋上に来ているけど二日間その成果はなし。

 時間切れで訊けないで屋上から出ることに。

 けど、この流れならば訊けるはず。

 今日は持ってきていないけどちょっと勇気が出てきたような気が。

 結城くんの顔を見る。

 ……あれ? なんだか紙芝居の時と印象が違うな。ああ、そうか。

「……結城くんはどうして紙芝居の時には眼鏡を外しているの?」

 ……ああー。

 違う、そうじゃないの。

 質問しようとしていたのはそれとは違うの。

 全然違うわけじゃないけど、紙芝居のことという点ではそうだけど、そうじゃなくてもっと他の、根本的な質問から始めようと思っていたのに。

 それなのにどうして。

 撤回して、考えてきた質問を。……でも、言葉が出てこない。



   航


 訊きたいことはおそらく紙芝居についてだとは想像していたけど、これはちょっと予想外である。

 眼鏡を外している理由。

「上演中は外せと教わったから」

 この上演中は紙芝居ではなく舞台のこと。板の上では照明を使用するのでレンズのある眼鏡を着用すると変な反射をして観客の集中を阻害することになると、昔あの人から教えてもらった。紙芝居では照明なんて言う上等なものは使用していないから別に外す必要なんかまったくない、現に舞華さんなんかは偶に眼鏡を着けたままでしているし、のだが何となくあの人の真似をして外していた。

「見えるの?」

 藤堂さんの言う、見えるというのはおそらく紙芝居の裏側に書かれている文字のことだろう。まあ視力が低いとはいえ、書かれている文字の大きさは昔の岩波文庫のような小ささではないので、かろうじてだが裸眼でも見えることは見える。けど……。

「一応、()る作品のものは憶えているから」

 ちょっと見得みたいなものをはる。

 たしかに憶えているのは憶えてはいるけど、完璧に暗記しているわけではない。時には内容を忘れてしまうようなこともある。そんな時に確認のために見る、まあオーケストラのスコアーのように。あると安心。

 それに某有名な女性テレビ脚本家のように書かれている文字を一字一句間違わないで言わないといけないというルールはヤスコたちの劇団内にはない。主人公の名前を途中から間違っていたのに最後までそれで上演し、大盛り上がりだったという逸話も耳にしたことある。

 話が大きく逸れてしまったような気が。



   湊


「すごい」

 わたしが観たのは全部で八本。

 その全てが違う紙芝居。

 それを全部憶えているなんて。それもただ暗記しているだけじゃなくて、流暢に、それこそ会話しているかのように話すことができるなんて。

 本当にすごい。

 一体どれだけ練習をしたらあんなにすごい紙芝居ができるんだろうか。

 多分、わたしが観たの以外にもあるはずだし。

「訊きたかったのはそれなの?」

 感心しているわたしの耳に結城くんの声が、

「えっと、それもあるけど……」

 本当は予定外、咄嗟に出てしまった質問だけど聞けてよかった。けど、訊きたいと用意してきた質問はちょっと違う。

 


   航


「……結城くんはどうしてあそこで紙芝居をするようになったの?」

 藤堂さんの質問。

 これに答えることは可能だけど、

「それを説明すると長くなるし、それにあんまり面白くないと思うけど。……それでもいい?」

 日陰にいるとはいえまあ暑い。

 そんな中でつまらないとまではいかなくても、対して面白いと思えない、壮大な落ちが付くような話じゃない。だからちょっと気が引けてしまうけど、それでも構わないと言ってくれる。

 なら、

「あのショッピングセンターで紙芝居をするようになったのはまだヤスコたちが学生の頃で……」

「ヤスコさん?」

 ああ、そうか。

 会ってはいるけど名前は判らないか。

「ヤスコというのは俺の従姉で、こないだの紙芝居を一緒にしていたの。そんでももって劇団の主催者」

「劇団?」

 紙芝居をする経緯を話すにはまずは劇団の話からしたほうがいいか。

「えっと……さっき言ったヤスコはここのOGで、そんでこの高校で仲間を集めてアマチュア劇団を設立したんだ。けど、作ったのはいいけど舞台を上演するにはまあ結構お金がかかるらしい。それで資金集めにフリマなんかで物を売るついでに紙芝居を上演したりしていたら、それをあのショッピングセンターの人が偶々観てくれて、それで毎週日曜日にあそこで上演するようになったらしい。定期的に収入を得られて、その上広い場所での不特定の観客に向けて上演ということで良い稽古になる、一石二鳥ってあの人は言っていたな。それから毎週日曜日に、劇団員が交代しながらずっと上演を続けているんだ」

 思った以上に簡潔にかつ短く説明することができた。

「結城くんも劇団に所属しているの?」

 まあ、今の説明だとそう思うのは当然だよな。

 そのこともちゃんと説明しておいたほうがいいよな。

「いや、俺は所属はしていない」

「だったら、どうして紙芝居をしているの? あ、従姉のお姉さんがしているからそれで」

「まあ、当たらずも遠からずかな。さっきの説明で劇団の人間が交代で紙芝居をしていたって言ったよね」

 返事の声の代わりに藤堂さんは大きく、そして何回も首を縦に降る。

 なんか可愛いな。

 見惚れていないで説明をしないと。藤堂さんが見ている。

「学生時代はまだ時間に余裕があったらしいんだけど、その内メンバーの大半が社会人になってそれで仕事に時間をとられて紙芝居に来るような暇はなくなった。それでもヤスコを中心にしてなんとかやり繰りしながらローテンションをして上演を続けていたんだ」

「そうなの」

「それで去年の春にそれも難しいような状態に陥って、そこで俺に助っ人の白羽の矢が立ったんだ。舞台に立った経験もあるし、それに紙芝居の練習を遊びだけどしていたからできるはずって」

 まあ、俺も少し思うところがあったからこの無茶振りを受けた。

 一応受験生で忙しかったけど。

「そうなんだ。それで結城くんは紙芝居をしているんだ」



   湊


 結城くんは長くて面白くないと言って説明を始めてくれたけど、簡潔で解りやすかった。

 なるほど。そういう理由ならショッピングセンターという紙芝居と接点のないような場所での上演でしていることがよく分かった。

 劇団か。

 普通に考えればそうかもしれない。

 あ、というとはもしかしたら結城くんもその劇団に入っているのかな。そのことを質問すると、違う、という答えが。

 でも、劇団の仕事としてあのショッピングセンターで紙芝居をしているのならどうして結城くんはしているのか?

それも訊くと、ちゃんと答えてくれた。

 劇団には所属していないけど、人手不足でしているんだ。

 すごく上手だもんね、手伝ってくれと言われて当然なくらいに。

 え?

 今、結城くんは舞台にも立ったって言ったよね。

 すごい。

 舞台に出てお芝居の経験もあるんだ。

「それってどんなお芝居だったの?」

 興味本位で思わず訊いてしまった。



   航


 興味津々といった感じで藤堂さんが訊いてくる。

 ちょっと誇張した表現を用いるのなら、身を乗り出してといった感じ。まあ実際にはそんなことないけど。

 正直、あの時の舞台の内容はよく憶えていない、というか意図的に記憶から除去している。というのも、ある意味忌まわしい過去だから。

 それを話すわけにはいかない。だから、

「出たといってもちょい役。子役が必要だったから出ただけで、セリフもなかった」

 脚本というか演出上の都合上で急遽子役が必要なり、そこで俺が板の上に立つことに。

 まあ、これはいい。

 けど、さっき言ったように記憶から消してしまいたいようなことが。

 それは少女の役だったということ。

 まだ小学生低学年。女の子の格好を、スカートを穿くというのはかなり恥ずかしかった。

 そんな過去を藤堂さんに告白するのは。

 ……しかし、藤堂さんに見つめられて追及をされたら吐露してしまうかもしれない。

 が、幸いにしてそんなことはなった。

 秘密は、黒歴史は、守られた。



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