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拍手と握手 8


   (こう)

  

「で、航、アンタはこれからどうするの? また続けるの?」

 紙芝居帰りの帰りの車中でヤスコが不意に。

 紙芝居には復帰したがそれは継続的にという意味合いではない。

 今回だけ。

 藤堂さんに観てもらえればそれでよかった。

 だけど、あの後の上演は、藤堂さんが観ていないにもかかわらず、全て好調、そして好評であった。

 そのまま調子に乗って上演時間を少し延長するくらいに。

 そのことはヤスコも承知していた。

 だからこそのさっきの言葉である。

 またしてもいいかもとは正直思っている。それに続けていくとことはあの人の遺志を継ぐ、そんな大層なことじゃないかもしれないけど、ということにもなる。

 けど、すぐに返事をするのはちょっと癪な気が。

「まあ、考えておく」

「いい返事を待っているから。ああ、そうだ」

「なんだ?」

「あの子をさ、花火に誘ったら」

 突然変なことを言い出す。

 噴き出してしまう。何を言っているんだいきなり。

「汚いな」

「ヤスコは変なことを言うからだろ」

「航がさ、また紙芝居をしたかった理由はあの子でしょ」

 復帰したという理由は語ってはいなかったが、どうやらバレていたみたいだ。

「……まあ、そうだけど……」

 小さな声で。

「だったらさお礼をしないと。夏だからね。夏といったら花火じゃない、そこに遊びに誘ってさ、そんで告白したら」

「はあああー」

 思わず大きな声が出てしまう。

 俺の声に驚いたのか、ヤスコの運転する車が左右に揺れる。

「うるさいなー。事故しちゃうでしょ」

「ゴメン。というか、ヤスコがおかしなことを言うからだろ」

「でもさ、好きなんでしょあの子のこと」

 ヤスコの言葉を聞いた瞬間、握手した時の感触が俺の中に一気に蘇ってくる。

 好きかどうかと問われたら、やはり好きだとは思うが、それがライクなのかラブなのかは我がことながらよく判らない。

 ……けど、なんとなくだけど少しは意識しているかもという自覚のようなものは。

 でも、それをヤスコに指摘されるのはちょっと、いやかなりムカつく。

「ほらほら、誘っちゃえよ。そんで告白しちゃいなよ」

 そう言いながら左肘で俺の脇腹を突いてくる。

 運転に集中しろよ、また蛇行するようなハメになるぞ。

 無視をしようとも思ったが、ヤスコはしつこい。

 ウザイ。

「告白したとしても上手くいくとは限らないだろ」

 正直、俺が告白をしても藤堂さんがそれを受けてくれるような可能性はゼロということはないだろうけど、そう思いたい、けど限りなく低いと思う。

 俺は藤堂さんよりも背が低い。これだけでもう恋愛の対象から大きく外れているはず。

 それに以前「好き」とは言われたけど、それは俺のする紙芝居に対しての言葉。多分、俺は藤堂さんの中の恋愛の対象の範疇には属していないはず。

「……無理だよ」

 どうせ断られてしまうのがオチだ。

「告白もしないで諦めてどうするの?」

「……俺はそんな対象じゃないはず」

 自分で言って、ちょっと虚しくなってしまう。

「何言ってるよ。チャンスの女神は前髪しかないんだから。しないで諦めてどうするの。当たって砕けろの精神よ」

 当たって砕けるのはなんか嫌だ。

 なら、何もしないで傷付かないほうがまだ良いような気も。

「嫌だ」

「誘いなって、断られるの怖がってどうするのよ? 人生何事もチャレンジよ」

 まあそれは一理あるかもしれないけど、玉砕覚悟で特攻をかけるようなことはしたくない。傷付きたくない。

「無理」

「行きなって、可能性はあるんだから」

「ないってそんなの」

 

 こんな具合の押し問答というかなんかよく判らないやり取りは家に着くまでずっと続いた。



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