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拍手と握手 7


   (こう)


 藤堂さんは俺と握手をしたいのか?

 あの列に並んでいたのだからそう考えるのが普通だけど、でも様子というか表情から察するにそんなことをしたとは思っていないような気が。

 けど、これはあくまで俺の推論。

 本当に望んでいるのならばそれに応えないと。

 このまま屈んだままするのはなんだか変だな。

 この姿勢は小さい子と目線を合わせるためにしているものだから。俺よりも身長の高い藤堂さんとこの態勢でするのはなんか変だよな。

 じゃあ、握手をする前に立たないと。

 立ち上がろうとするけど、なんだかおかしい。

 身体が急に重たくなったというか。

 藤堂さんが来る前まではふわふわしたような感じだったけど、今度は突然重力が二倍になったかのように全身に負荷のようなものが。

 立ち上がる。

 それだけの動作のはずなのに、やけに時間がかかる。

 関節の全てが油切れを起こしたみたいに動かない。

 多分、これは俺の幻聴だろうけどギシギシと軋んだ音が関節から出ているような気が。

 ようやく立ち上がることに成功。

 けど、なんか呼吸がしにくいような気が。さっきまでは上手くできていたのに。

 浅い呼吸に。

 藤堂さんの顔を見ると緊張してくる。

 身体がもっと重たくなってくる。

 これまでの人生で女子の手を握ったことがないということはないが、まあ数は少ないけど、それでもその時はこんなにも変な緊張感なかったのに。

 握手をするためには手を出さないと。

 あれ?

 ……どっちの手で握手するんだ。右か? それとも左か?

 ……利き手だよな、普通は。俺の利き手は……ああ、右だ。箸を持つのだって字を書くのだって右でするよな。

 当たり前のことなのに緊張のせいでちょっと考えないと判らない。

 立ち上がった時以上にギクシャクとしている動きで右手を出すが、即座に引っ込める。

 いつの間には手のひらには尋常じゃないくらいの汗が。

 こんな手で握手なんかしたら藤堂さんに迷惑だ。



   (みなと)


 結城くんの右手が少し動いたけど、すぐに元にあった位置へと。

 やっぱりわたしと握手をするが恥ずかしいのかな。

 どうしよう?

 このまま握手はしないで解散したほうがいいのか。

 無理にしても。

 けど……。

 どうしていいのか分からずに固まってしまう。

 結城くんも動かないまま。

 うん、このまま握手せずに離れようとしたとき、わたしも右手が結城くんのほうへと伸びていく。

 無意識化で結城くんと握手したと思い、それで勝手に手が動いたというわけではなくて、信くんがわたしの腕を持って動かしていた。

 全然握手をしようとしないわたしに業を煮やしたのだろう。

 ごめんなさい。

 握手をしないと弟は納得してくれそうにないの。

 だから、恥ずかしいかもしれないけど、もしかしたら嫌かもしれないけど、結城くん、わたしと握手をしてください。

 自分の意思で結城くんの前へと右手を差し出した。

 


   航


 藤堂さんの右手が俺の前へと。

 これは握手をしてもいいってことの表れだよな。

 ……じゃあ。

 さっきまでよりもギクシャクした動きで右手を。


 

   湊


 結城くんの手が動く。

 わたしの方へと伸ばしてくるのではなくて、自分のズボンのお尻というか腰の辺りをゴシゴシと。

 どうしてそんなことをしているのかとちょっと疑問。

 すぐに理解した。多分汗を拭ってくれているんだ。

 もう何人もの子たちと握手やハイタッチをしていたんだし、それにその前には紙芝居を上演していたんだから。

 そうだよね、汗くらいはかくよね。

 あ。

 わたしの手はどうだろう?

 恥ずかしくて変なところに汗をかいているけど、手のひらまでは意識していなかった。

 わたしも拭いたほうがいいのかな。

 けど、今からハンカチを出して拭うのもなんか変だし、結城くんみたいにズボン、というか私が今穿いているスカートで拭くのは。

 結城くんの右手はいつの間にか私の右手に触れるような位置にまで。

 きっと、多分、大丈夫なはず。

 変な汗はかいたけど、手のひらは汗でびしょびしょになっているというようなことにはなっていないはず……おそらく……もしなっていたらごめんなさい。

 


   航


 柔らかい。

 でも、その感触を感じられたのはほんの一瞬だった。



   湊


 握手した瞬間結城くんの手の大きさにちょっとビックリした。

 わたしよりも背は低いけど、手はわたしよりも大きい。

 男なんだなと思った多端、心臓がさっきまでとは全然違う速度で動き出す。

 なんでいきなり。

 もしかしたら手のひらを通じて結城くんにもこの以上に速い鼓動が伝わってしまうんじゃないかと思ってしまうくらいに。

 そんなことはないと思うけれど、もしかしたらと思って、結城くんにわたしの心臓の音が聞こえてしまわないうちに、手を放してしまう。

 急激に顔が赤くなっていく。

 なんで?



   航


 藤堂さんとの握手はほんの一瞬。

 でも、それでもなんだかうれしかった。

 あの時、藤堂さんに言われなかったらこんなことには絶対になっていないはず。

 あのまま止めていたら、こんな体験はできなかった。

「……ありがとう」



   湊


 紙芝居の時とは違う小さな声だったけど、お礼を言われたような気が。

 どうして?

 なんで結城くんがわたしに、ありがとう、なんて言うの。

 お礼を言うのはわたしの方なのに。

 訊かないと。

 そう思って声を出そうとした瞬間、信くんがわたしの手を引っ張る。

「かえろ」

 もう握手は済んだのだから帰ろうと言う。

 お母さんを待たせるのはなんだけど、その前に結城くんに訊きたいことがあるのに。

 そんな私の気なんか知らないで信くんは強くわたしの手を引っ張って歩き出そうとする。

 それに着いていきながらも顔だけは結城くんの方を見て、

「あの……明日も屋上に行っていい?」

 訊きたいこととは違う言葉が。

 そんなわたしの声に結城くんは頷いてくれた。



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