拍手と握手 6
湊
ああ、そうか。
信くんが結城くんに握手を求めた理由が分かったような気が。
幼い弟にとって結城くんはヒーローと=なんだ。
あの時、こどもの日に観た結城くんの紙芝居に信くんはすごく影響を受けていた、大きくなったら自分もするなんてことを後日言っていたりするぐらいに。だから、あの日結城くんがいなかった時は家に帰ってからわたし同様に残念がっていた。
そしてあの時結城くんの紙芝居を観る前に観たヒーローショーで、ヒーローと握手していた。
だから、信くんが結城くんに握手を求めるのは、幼い弟の中では至極当然のこと。……でもこれはわたしの推論でこれが正解かどうかは分からないけれど、なんとなく合っているような気がした。
突然のこと、そんなことを言われるなんて多分想像もしていなかったはずの結城くん。
まだ固まったまま。
教室や屋上とは違う一面を見た。なんだかかわいいような気が。
そんな彼が再び動き出したのはお姉さんの声があって。
その声に促されるように結城くんは自分の右手を信くんのほうへと出しかけるけど、それを一旦止めて、それから身を屈めて信くんと目線を合わせて握手する手を差し出す。
紙芝居をしているからなのかな。小さい子の扱いが上手だな。
あ、握手をしている。
うわー、あのうれしそう顔。
ヒーローショーの時と一緒くらいに、もしかしたらそれ以上の笑顔。
満面の笑みを浮かべたままで、さっき結城くんと握手した右手をわたしに見せつけるように高々と掲げて信くんはわたしの所へと走ってきた。
航
藤堂さんの弟の握手が呼び水になったのか、俺の周りにチビッ子たちが集まってくる。
即席の握手会が突如として開かれてしまう。
といってもあの時のヒーローショーのように大勢ではなくほんの数人程度だけど。
まあ、それでも正直少しうれしいような気分もするけどやはり照れ臭いような気持ちも。
握手だけではなくハイタッチも。こちらの方が多い。
それらに一人ずつ対応。
屈んだことでやや中腰になり、腰に負担があったけど我慢。
多分、あと数人で終わるはず。せっかく俺みたいなのに来てくれたんだから。
頭の上がなんか暗くなったような気が。
即席の握手会に大人も参戦か。
いや、もしかしたらヤスコが悪ノリで列に並んでいるのかもしれない。
顔を上げる。
そこには藤堂さんが立っていた。
なんで?
どうして藤堂さんがそこに立っているの?
湊
わたしは結城くんの前へと。
これは紙芝居が終わった後でちょっと迷っていたこと、お礼を言いに行ったほうがいいのかそれとも後で学校でしたほうが良いのか、それにようやく結論が出たからではなく、そしてわたしの意思でもなく、ちょっと強引にここへと引っ張られて来てしまったから。
結城くんと握手をして満面の笑みでわたしの所へと戻ってきた信くん。この幼い弟はわたしの手を掴んで、「おねえちゃんもしよ」。とんでもないことを突然言い出した。
握手を求められて結城くんのようにわたしも固まってしまう。
そんなわたしを信くん強引に引っ張ろうと。
まだ小学校にも上がっていないような体格だから、抵抗すれば簡単に防ぐことは可能だけど、それをすると駄々をこねそうだしそうなると後が大変になるかもしれないし、一度言いだしたら聞かないような性格だから、仕方がなく信くんの後をついていく。
即席の握手会の最後尾に並ばされてしまう。
恥ずかしいな。
並んでいるのはわたし以外はみんな小さい子ばかり。
やっぱり止めようとしたけど、信くんが手を放してくれずにそのまま列の一番後ろに。
駄目、やっぱり無理。まあ、握手位ならすぐに終わるから大丈夫と思っていたけど、こんなにも多くの人のいる前で結城くんと握手をするなんて。
……でも、誰も見ていないような場所だったら。
想像をしてみる。
ムリムリ、そんなことできない。
これは結城くんと握手をするのが嫌とかそういう失礼な理由なんかじゃなくて、同い年の男の子とそんなことをしたことないから。恥ずかしくてそんなことできない。
なんとかこの列から抜け出す作戦を思いつかないと。
信くんが納得するような言い訳を考えないと。
そんなことを考えている間に前に並んでいる子たちの数がどんどんと減っていく。
そしてとうとう私の番になってしまった。
小さい子の目線に合わせていた結城くんの視線が上がる。
目が合ってしまう。
結城くんが固まった。
距離が近いからそう感じるのか、それとも本当にそうなのか分からないけど、結城くんさっき信くんに突然握手を求められた時よりも驚いた表情を浮かべている。
ビックリするよね、こんな大きなのが並んでいたら。
わたしが握手の列にいるなんて絶対に想像もしていなかったはず。
驚いてそんな顔になって固まってしまうのも当然だよね。
わたしだってこんなことになるなんて思ってもいなかった。
ごめんなさい、こんなことになってしまって。




