拍手と握手 2
航
劇団の稽古日が、俺の紙芝居のテストの日だった。
学校帰りに久し振りに、ゆにさんの家にあるアトリエ兼稽古場へと。
ヤスコと舞華さんが来るまで最後の足搔きを。
いざ、テスト。
三人の目を一身に受けるとものすごく緊張してくる。
けど、今回はちゃんと足の裏の感覚を感じ取れているし、何処に体重がかかっているかもしっかり把握できている。
それに、呼吸も浅くない、身体の隅々にまで空気が入って、そしてその大半を出し切ることができるのも確認済み。
久しぶりの紙芝居を。
本当は藤堂さんの前でしたかったが、この三人から合格をもらわないと。
まあ、この三人から合格をもらうということはある意味お墨付きをもらうと同義であるから、藤堂さんの前で上演する時の保証になるかもしれないけど、それでもやはり……。
三人の目が俺に。
特にヤスコの視線が鋭いというか、ちょっと怖い。
それに負けないようにヤスコを睨みつけて上演したいような心境に少し駆られてしまうが、そんなことはできない。観ているのは三人。一人にだけに向けて上演するなんていう演り方は教わっていないし、そんな紙芝居をしたら絶対に合格点なんかもらえないだろう。
それに藤堂さんが観たいと望んでいるのは楽しい紙芝居のはず。
滑舌、アクセント、エロキューション、その他諸々に気を配り、細心の注意を払い、そして三人の様子を注視しながら上演を。
これまでの紙芝居の中で一番精神的に疲れる。
それでも何とか最後までやり遂げる。
後は、結果待つだけの身に。
待たない方が良かったかもという後悔が。
ヤスコからダメ出しの嵐。
暴風雨に晒されながらひたすら耐える。反論したいことは山ほどあるけど、そんなことをしたら永久に許可を得ることができないかもしれない。
それでは藤堂さんの願いを叶えることはできない。
我慢して耐え続けている俺に救いの手、というか口というか声が。
「まあまあヤっちゃん、それくらいにしたら。航くんの紙芝居はそんなにダメを出すほどひどくなかったと思うけどな。前よりもよくなっているところも多かったし」
と、ゆにさんが。
「ああ、私もゆにの同意だな。これならしても問題ないだろ」
今度は舞華さん。
「二人とも何言ってるのよ。航がまた失敗したらウチの信頼問題にもなるんだから。それに稽古がいくら上手くても本番で下手な人間なんてそれこそ山のように見てきているでしょ。だから、もっと上手くないと認められないから」
……ヤスコの言う通り。
稽古でいくら完璧にできていても、いざ本番となるとその力の十分の一、百分の一も発揮できないことなんて多々あること。
「ヤっちゃんが航くんのこと心配しているのはよく判るけどねー」
「ああ、また失敗して再起不能になるのを防ぎたいんだろ」
「そんなこと考えてないから」
「まあまあ、ヤっちゃんはそういうところあるからね」
「ああ、高校時代から変わらないからな」
「……ふ、二人ともー……」
「あのね、航くん。今週は私も舞華ちゃんも行けないから紙芝居よろしくねー」
「あれくらいできたら大丈夫だ。それにもし上手くいかなかったとしてもヤスコがいるからな」
「ちょっと……」
ヤスコが何か言いたそうだったが、二人に発言を遮られる。
というわけで無事? テスト、試験に合格できた。
しかし、俺は別に復帰するようなつもりはないのに、一度だけ、藤堂さんの前で紙芝居を上演できればいいだけなのに。
湊
「今度の日曜日にするから」
お昼休み、いつものように屋上のドアを潜ると結城くんが。
入ってすぐに言われたから、最初は何を言っているのか理解できなくて、ちょっと戸惑ってしまったけど、回転のあんまりよくないわたしの脳ミソの中で、言葉の音と意味が重なり合うまでに少々時間が必要で、やっと分かった時、また結城くんの声が。
「次の日曜に、あのショッピングセンターで紙芝居をするから」
今度はちゃんと分かった。
と、同時に心の中で結城くんに謝罪を。ごめんね、鈍くさい子で。言い直させてしまって、一回で理解できていればよかったのに。部活でも先輩からもたまに指摘されてしまうことがあるから。
紙芝居をしてくれるんだ。
え……ええ……えええー?
もうしてくれるの?
だって、何時になるか分からないって言っていたからもっとずっと先のことだとばかり思っていたのに、それがこんなにもすぐなんて。
観に行く。
絶対に観に行く。
あ……でも、わたしが毎日のように屋上へと押しかけてきているからそれで無理にしようとしているんじゃ。ここの所なんだか落ち込んだような様子だったから。
結城くんの顔を見る。
その顔は、落ち込んで沈んだようなようもじゃない。けど、晴れやかな表情でもない。なんだか複雑な顔色。
「……えっと……あの……平気?」
無理にしなくてもいいことを伝えるつもりだったのに、なんだかおかしな質問をしてしまう。
「うん、大丈夫」
結城くんの言葉にはほんの少しだけ自信のようなものが感じられた。




