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秘密の場所 9


   (こう)


 紙芝居を二度としない理由を、と言っても断片だが、藤堂さんに語った。

 だからもう、彼女は屋上に来ないと思っていた。

 来る理由がなくなったのだから。

 藤堂さんが屋上に来たからといって何かあったわけではない。彼女はいつも昼休みの終わり位に静かにやって来て、そして静かに座っているだけ。

 俺との会話なんかは当然なし。

まあ、話をするような間柄になっていたらもっと早くこうなっていただろうけど。

 それでも少し離れて座る、というか腰を下ろしている姿がないと、何となくだが妙にさみしいというか、物足りないような気が。

 この屋上には一人になるために来ているのに、何故だかそんな気分になってしまう。

 まあ、でもそれは一時の気の迷いのようなものだろう。

 そんなことを考えながら本を読もうとしたけど、文字が目には入ってくるけど内容が脳には入ってこず、読書をすることを諦め、遠くの景色をぼーっと眺めていたら、突然ドアの開く音が。

 もしかしたら教師連中に屋上に侵入していることがバレてしまったかと身構えていると、屋上に入ってきたのは知っている姿だった。



   (みなと)


 すべてを語ってくれたわけじゃないけれど、結城くんがどうして紙芝居をもう二度としないのか、その理由は分かった。

 もう、屋上に行く必要はない。

 それなのに気が付いたら、わたしはいつの間にか屋上のドアの前に。

 このところずっとここへと通っていたから半ば習慣になってしまったというか、それをするのがいつの間にかわたしの中で当たり前のことになってしまっていたのだろうか。

 自分のことだけどよく分からない。

 けど、分かっていることもある。

 わたしはもうこのドアを潜って屋上に出なくてもいい。

 それなのに、わたしは屋上へと。

 わたしが来るなんて想像していなかったのか、ドアを開けるといつもの場所に座っている結城くんが驚いた顔を。

 わたしも自分がここに来ていることを驚いている。

 来たのはいいけど、何をすれば?

 


   航


 藤堂さんはいつものように俺の横に、といっても距離があるけど、ああこの距離もちょっと遠くなったような気が、スカートを押さえながらしゃがみ込む。

 何をしに来たんだ?

 言葉数は少なかったけどあの説明で一応伝わったはず。

 それなのに。

 もしかしたら俺のことを説得に来たのではと一瞬考えたが、そんな素振りを見せない、というか、何も話しかけてこない。

 なら、何の目的上がってこんな場所にまでわざわざ足を運んでいるんだ。少ない休み時間の浪費に他ならないのに。

 推理を。

 クラスの中で俺同様に所在がないから。これは違うような気がする。

 教室から離れるとき、グループで話をしている姿を見たから。

 その集団から離れてここに来る理由とは一体。



   湊


 結城くんはもう二度と紙芝居をしないって言ったのに。

 わたしがここに来る意味なんてもうないのに。

 来る必要なんかないのに。

 どうしてここに来てしまうんだろう。



   航


 あれからずっと藤堂さんは屋上へと。

 何も話さないし、そして前よりも距離のある場所に。

 何も話さないけど、ここに来ている理由は何となく察してしまう、本当は判りたくはないけど。

 俺に紙芝居をまたしてほしいという要請。

 それを声に出して伝えてくるようなことは彼女はしないけど、それでもそれ以外にここに来る理由なんてないはず。

 だからこそ、遠慮がちというのか、前よりも少し離れた位置に。

 少し申し訳ないような気持ちに。

 あんなことがなければ、藤堂さんの想いに応えることはできたけど、俺にはもうそれをすることが不可能。

 この不可能は二つの意味合いで。

 一つは、紙芝居をするのが怖い。あんな状況は多分、前田さんの言うようにタイミングが悪かったから起きたこと、レアケースであるとは俺も思うものの、あの時の記憶がまだ中に消えることなくこびりついている。

 藤堂さんの要請に応えるのだから、あの時と同じようなことはない、つまり誰もいない中での上演、はずだが正直人の前で紙芝居をするのが怖い。

 そしてもう一つ。それは俺がヤスコから戦力外通告を受けていること。

 あのショッピングセンターでの紙芝居はもうできない。

 だから来てももう無駄だ、そう藤堂さんに言うべきなのだろうが、それができなかった。

 というもの、会話のない、変な距離感のある空間であるが、妙に居心地が良いような、一人でいる時とは違うような気持ちになれるというか、階下から足音が聞こえてくるとなんとなくうれしいような気分に。

 けど、それは俺のこと。

 藤堂さんにしてみれば、何度もここに来るのは億劫なはず。

 今はまだ大丈夫であるが、そのうちに梅雨に入るし、雨が降らなくとも暑くなってくる。

 そんな場所に毎日のように無駄足をさせてしまうのは。

 なら、来ないようすればいいだけ。

 その方法はすごく簡単。

 もう一度、二度としない、と言うこと。

 けど、それを告げてもなんとなくだけど藤堂さんは屋上に来るような気が。

 だったら、もう一回だけ紙芝居をする。

 ……けど、怖い。

 だが、このまま藤堂さんを振り回し続けてしまうのは。この表現は少しおかしいかもしれないけど、何となくそんな風に感じてしまう。

 どうすれば?

 強制しているわけではない、藤堂さんが屋上へと来るのは彼女の自由意思である。だから、暑くなっても、寒くなったとしても、それは自己責任。

 と、割り切れたら楽なんだが、責任を感じてしまう。

 なら、すべきなのだろう。

 しかし、怖さを払しょくできない、また失敗をしてしまうのではと悪い妄想をしてしまう。

 そして、藤堂さんを失望をさせてしまうかもしれない。

 …………。

 しかしこのままにしておくのも。

 考えるけど、結論が出ない。

 それでも考える。屋上にいるとき、藤堂さんの姿が目に映る時は当然、それ以外にも授業中、家に帰ってからも、風呂でも、トイレでも、ベッドの中でも考え続ける。

 続けた結果、結論がでた。



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