秘密の場所 7
航
無言で、藤堂さんを置き去りにして教室へと早足で戻った。
告白と勘違いとしてしまったのはそれはそれでいいけど、紙芝居のことを言われるとは思わなかった。
俺のする紙芝居を好きと言ってくれたのは以前ならうれしく思えたであろうが、でも今はそうじゃない。
だから、何も言わずに無言で立ち去った。
あんな態度を示したんだ、もう二度と藤堂さんは屋上には来ないはず。
少し寂しいような気もするが。
けどまあ、一人に戻っただけ。
そう思って文庫本に目を落とし、本を読もうと努力している俺の耳にドアの開く音が聞こえた。
湊
怒らせてしまうかもしれないけれど、わたしは性懲りもなくまた屋上へと。
わたしが来るとなんて想像もしていなかったのだろうか、結城くんの少し驚いた顔が。
来たのはいいけど、どうしよう?
何も考えずにここまで来た。
いつものように結城くんの横、といっても少し離れているけど、腰を下ろすことさえちょっと躊躇してしまう。
そんなわたしの耳に結城くんの声が。
航
ドアを開けたのは藤堂さんだった。
まさか今日も来るなんて思わなかった。
だが、今日は様子が。いつもは俺の横、と言って距離があるけど、に座るのに。
所在ないといった感じでドアの前突っ立ったまま。
「昨日はゴメン。……でももう紙芝居はしないから……」
以前藤堂さんは俺の紙芝居を観たことがある、隠れながらだったけど。
どうやら気に入ってくれたみたいだった。
それを伝えようと連日屋上へと来ていたのか。
けど、俺はもう二度と紙芝居をしない。
その前に昨日の非礼のようなこと、腹が立ったのは事実だけど無言で置き去りにするように行ってしまったのは流石に悪いことをしたと反省、謝罪。
そしてそのまま続けて紙芝居はもうしないことを告げる。
湊
謝らないといけないのはわたしの方なのに。
それなのに結城くんは。
そして続けて……。
訊こうとしたことだけど、聞きたくない言葉が。
「……どうして?」
訊いたらもしかしたらまた怒らせてしまうんじゃ、そんなことを想像したけれど、でももう二度と紙芝居をしない、その真相のほうが気になった。
航
藤堂さんしてみたら、その疑問を口にするのは至極当然であろう。
だけど、俺としてはあの事を言いたくない以前に、思い出したくもない、記憶の中から抹消してしまいたいくらいの忌まわしき過去。
あの日からずっと俺の中から消えてなくなってくれることを願い続けてきたけど、そんな願いは叶わない、反対に日ごとにどんどんと鮮やかに鮮明に、そして深く脳裏に刻まれていく。
正直、この屋上へと逃げてこなかったらあのままずっと俺の中で肥大化していき、そして最後には爆発して、もしかたら最悪の事態になっていたかもしれない。
だが、ここに来たことで、被害妄想だけど、教室内の喧騒、俺を嘲笑しているように聞こえる症状が少しずつだけど緩和を。
完全に消えてなくなったわけではないけど、それでもあの酷かった状態から脱したことだけは確かなことだ。
それなのに……。
理由を藤堂さんに告げるということは、あの時のことを嫌でも思い出すということに。
そんなことは正直したくない。
せっかく薄れかけてきているのに、それをまた俺の中で濃くするのは嫌だ。
だが……。
湊
やっぱり訊いちゃいけないことだったんだ。
結城くんは何も言わないけど、その表情が雄弁に物語っている。
さっきの言葉をなかったことにしないと。
それも早急に。
じゃないと結城くんを苦しめてしまう。
わたしがそれを告げようとするよりも先に結城くんの口が動いた。
航
「……あの日……こどもの日にした紙芝居で大きな失敗をした……」
あの時に味わった辛い感情のようなものが俺の中で突如として形成される。
話すことを正直躊躇ってしまう。
しかし、言わないと藤堂さんは理解してくれないだろう。
所詮は他人事であるから判ってくれなくても別に構わないのだが、こう連日ずっと離れた屋上にまで足を運ばせるのは。
絶対に言わないと宣言して、それで藤堂さんが納得してくれるのならそれでもいいのかもしれないが、これまでの行動では多分そうはならないだろう。
だから言いたくないけど、言わないと。
湊
えっ?
あの日の紙芝居は観ていたし、すごく楽しんだ。
結城くんの言うような大きな失敗をした様子なんか見ている限りでは、遠くからだったけど、微塵もなかったはずなのに。
どういうことだろう?
「……わたしあの日、観てた……」
疑問が声になって勝手に外へと出てしまう。
航
あの日藤堂さんはあそこにいたのか。
そういえば、最前列に彼女の弟がいたような記憶が。
たしかにあの時の上演は自分で言うのもなんだが大成功、完璧であった。
だけど……。
「……二回目の上演は……」




