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秘密の場所 6


   こう


 背中に聞こえていた足音がしなくなった。

 どうしたんだと階段を下りる足を停止。そして様子を見ようと振り返る。

 藤堂さんの口が動くのが見えた。

 小さい音だったので、正直何を言っているのはハッキリとは聞こえなかったが、俺のことを呼んだのは伝わってきた。

 なんでこんな階段の途中で俺の名前を呼んだのか?

 屋上でいくらでも言えたはずなのに。

 もしかしたら、階段を下りている俺の背中に見て、ゴミが付いている、もしくは汚れを発見して、それを教えようとしてくれているのか、と一瞬そんなことを考えたけど、それは違うとすぐに悟った。

 その理由は、藤堂さんの表情。

 階段を俺のほうが先に下りているから見上げるようなかっこうになるけど、まあ普通に並んでいても俺のほうが背が低いから見上げることになるんだが、その表情は俺に何かを訴えかけたいというような感じに見えた。

 藤堂さんは俺に何を言いたいのか?

 まだ閉じ切っていない口を凝視。

 そして耳に神経を集中。

 今度はちゃんと聞かないと。

 藤堂さんの声が。

「……好きなの」

 予想も想像もしていない言葉が聞こえてきた。



   (みなと)

   

 やっと言えた。

 これまでずっと言えないでいた。

 本当はもっと違う言葉を、謝罪とお礼と、それから紙芝居の感想を伝えるつもりでいたけれど、わたしの口からそのどれとも異なるもの。

 でも、これもわたしの本心。

 恥ずかしいけど、結城くんに伝えたい言葉。

 結城くんの顔を見る、というか失礼だけど見下ろす。

 あれ?

 なんだか結城くんは困惑しているというか、茫然としているというか、固まっているような気が。

 気持ちを伝えただけなのにどうして?

 ……。

 ……。

 ……。

 ……あれ?

 わたし、もしかしたら変なことを言ってしまったかも、というか肝心なことを言わなかったような気がしてきた。

 好き、と言ったけどわたしが好きなのは結城くんのする紙芝居。

 けど、その肝心の紙芝居の言葉を言っていないような気が。

 だとしたら、結城くんが固まってしまったのも理解できる、

 突然告白なんかされたら誰だって驚くと思う。

 そんな経験ないけれど、わたしも多分そうなると思うし。

 勘違いをさせてしまったんだ。

 急いで誤解を解かないと。



   航


 好き、という言葉を聞いた瞬間ものすごく戸惑ってしまった、困惑してしまった、というのも告白されるという経験をほとんどしたことがないから、どういう風に対応すればいいのか全然判らない、それにしても藤堂さんはなんで俺のことを好きになってくれたのだろう? 俺は彼女よりも背が低い、一般的に女性は自分よりも身長が低い男は恋愛の対象外なのでは、大昔、初恋の人に私の背を追い越したらね、と言われて失恋した経験が、まあ世の中変わった趣味の持ち主というのが存在していことは判っているけど、もしかしたら藤堂さん自分の身長が高いから男にそれを求めないのか、しかし彼女が俺のことを好きになるような理由が思いつかない、紙芝居の時に助けるようなことをしたけど、それで好きになってくれるなんていう少女漫画のようなことなんかあるわけないし、ああ、もしかした悪戯か、昔まだガキの頃女子に告白ゲームのターゲットにされたことがある、それを仲間内でしていた、だがそれだともっと早く告白をして俺を嘲り笑っていたはず、毎日教室からこんなにも離れた屋上になんか来るはずないよな、面倒臭いのに、だとしたら俺のことを好きというのは悪戯とかではなく本心なのだろうか、だとしたらそれはうれしいことだけど、でもどうすればいいのかさっぱり判らない、お礼を言えばいいのだろうか、しかしそれはそれで変なような気が、ならば俺も好きと言えばいいのだろうか、好きかとどうか判らない、というか藤堂さんのことはあまりよく知らないけど、それでも付き合えるかどうか問われたら付き合えると言える、藤堂さんと彼氏彼女の関係になれるのであればそれはまあ喜ばしいことのように思える、しかしどうして俺のことを……。

 と、色々と頭の中でも妄想と錯綜を。

 そんな妄想と錯綜を止めたのは藤堂さんの言葉。



   湊 


「あの……紙芝居……結城くんのする紙芝居が好きなの」

 足りなかった言葉を。

 その言葉がわたしの口から出た瞬間、結城くんの表情が一変する。

 困惑した顔から一気に影が落ちたというか、冷めたというか、無表情というか。

 やっぱり勘違いさせてしまったんだ。

 告白と思われて、糠喜びさせてしまったんだ。

 最初はそう思ったけど、なんだか違うような気が。

 怒らせてしまったような気がする。

 それを物語るように、結城くんは何も言わずに背中を向けて歩き出した。

 そんな少しずつ遠くなっていく背中を見ながら、あっ、と後悔を。

 あの時お姉さんは言っていた、結城くんはもう二度と紙芝居をしないかも、って。

 それなのに結城くんのする紙芝居が好きと言ってしまった。

 言わなければよかったと二度目の後悔を。


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