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秘密の場所 4


   (みなと)


 この声の主は分かっている。

 この人に会うためにここまで来たんだ。

 でも、見えるというのはどういう意味だろう?

 ああ、もしかしたら。わたしが今立っている場所はフェンスの傍、屋上の一番端ということなる。そんなところに無防備でいると下から覗かれてしまうかもしれない。

 スカートの下には部活をするからハーフパンツを穿いているけれど、それでも覗かれるのはあんまり心情的によろしくない、ちょっと、いやかなり嫌だ。

 スカートの裾を両手でしっかりと押さえながらフェンスから少し離れる。

 しかし結城くんすごいな。女子であるわたしが気を付けないといけないことなのに、そこに気が付いて注意してくれるなんて。

 お姉さんたちと一緒に紙芝居をしているからこんな気遣いというか、心配りができるのかな。

 そんなことを考えながら結城くんを見ていたら、

「違う、そうじゃない。そこにいると屋上にいることがバレてしまう危険性があるから」

 違った。

 ここは立ち位置禁止の場所だから。そんな場所にいる生徒がなったら大問題になってしまう。

 フェンスの傍、屋上の端からそっと移動。

 移動はしたものの、何処に行こうか?

 少し考えた結果、結城くんの横に。

 彼のいる場所はドアの横。ここなら下から見つかるようなことはない。

 それに日陰になっている。

 まだ五月だけど良い陽気でちょっと暑い。

 結城くんの隣に座るのはなんだか恥ずかしかったので。

 少し離れた位置に。スカートが汚れないようにお尻を少し浮かせてしゃがみ込んだ。

 バランスを崩しそうになったので踵も一緒に。

 


   (こう)


 俺の言葉を藤堂さんは勘違い。

 違う、そうじゃない。

 もしかしたら下からスカートの中身が見えてしまう可能性も無きにしも非ずだけど、俺が言いたいのはそこに立っていたら、本館の校舎から屋上にいることが見つかってしまうということだ。

 もう一度声掛けを。今度はキチンと理由も説明して。

 少し()があったけど藤堂さんは理解してくれた。

 これでまあ一安心である。

 と、同時に疑問が俺の中に生じる。

 何故、藤堂さんはこんな場所に来たのか?

 ここは滅多に人が来ない別館の校舎。そのうえこの屋上には鍵を持っていないと侵入できない。

 そんなところに目的もなく来るはずもない。

 最初、もしかしたら俺のことを尾けてきたのではという妄想が浮かんできたが、即座にこれを否定。

 というのも、藤堂さんは屋上に入って来るやいなやフェンスへと一直線に。これは推論だけど、景色に見とれて、もっと近くで、もっとよく見ようという心理があのような行動に繋がったのであろう。

 そう思っていたのだが、俺の言葉を聞き理解した後は何故だか俺の近くに腰を落とす。

 これはどういう意図なのだろうか?

 さっきの推論通りに景色目当てならば、フェンスから少し離れるだけでいい。

 それなのに陰に隠れている、周囲の様子があんまり見えないところに来るなんて。

 謎だ?

 やはり俺の用があるのだろうか?

 しかし、俺とは少し距離が空いた場所に腰を下ろしている。

 もし彼女が俺に話しかける意思があるのなら、もう少し近くに座るはずだし、それにもうとっくに話しかけてきているはず。

 疑問が頭の中でグルグルと。



   湊

 

 結城くんの横に座ったものの、距離があるけれど、どうしよう。

 ここに来たのは彼に会うため。

 そして、話を。

 あの時のことを謝って、お礼を言って、こどもの日の紙芝居の感想を伝える。

 それからあのお姉さんが言っていたように、もう二度と紙芝居をしないというのは本当なのか。それを確かめないと。

 ここはわたしと結城くんしかいない。

 誰にも見られることはない。

 今までずっと行えなかったことができる。

 それなのに、わたしは黙ったままで、視線も下へと落としたまま。

 そんなわたしのことが気になるのか、結城くんがこっちを見ているような気配みたいなものを感じるけど、ずっと下を向いたままで、黙ったまま。

 話しかけると決めていたのに。

 緊張しているのかどうか分からないけど、すごく心臓がどきどきと。口から飛び出してしまうんじゃないかと思うくらい動悸している。

 まずは落ち着かないと。

 大きく深呼吸をする。少しだけど、心臓の動きも遅くなったような気が。

 よし、話しかけるぞ。

 意気込んではみたけど、なかなか口が動いてくれない。

 スカートのポケットの中にいるクマのマスコットをギュッと握りしめる。

 本日二度目の勇気を注入。

「……あ、……あの……」

 意を決して結城くんのほうを見て話しかけた途端、チャイムの音が鳴り響いた。



   航 


 予鈴が鳴る、昼休みの終わりを告げる合図。

 授業をサボってこのまま屋上で過ごしてもいいのだが、そんなことをした場合後で教師連中に何をしていたのかと尋問され、その結果屋上のことを白状してしまうかもしれない。億劫であるが教室に戻らないと。

 いつものように立ち上がり、ドアの中、つまり校舎へと。

 いつもならここで施錠を済ませて終わりなのだが、今日はその前に、

「出て。鍵かけるから」

 藤堂さんを屋上に一人残して鍵をかけるわけにはいかない。

 そんなことをすれば屋上に閉じ込めることに。いや、これはちょっと変か。解放された空間だから閉じ込めるというのは。

 今度はちゃんと俺の言葉が伝わったみたいだった。藤堂さんは小走りで校舎の中へと。

 ドアがちゃんとしまったことを確認して階段を下りる。

 その後ろを藤堂さんが付いてくる。

 先に行ってもよかったのにな。

 なんで、俺が下りるのを待っていたのだろうか。

 それとさっきの疑問を頭の中にぶり返してくる。

 どうして彼女は屋上に来たのだろうか?

 後ろを向いて質問すればいいだけのことだけど、それができずに只黙々と廊下を歩くだけだった。



   湊


 結城くんに促されて屋上から校舎の中へと。

 今度はちゃんと彼の意図を汲み取れた。

 わたしが屋上から出るのと同時に屋上のドアを閉めて施錠を。

 それから何回かドアノブを回してちゃんと鍵がかかっているかどうか確認。

 わたしはそれを見ている。

 結城くんが階段を下りる、それに続く。

 先に教室に戻ってもよかったのかもしれないけど、なんとなく彼に後について歩く。

 前を歩く背中が何となく小さく見える。

 そんな背中に声をかけようと何度となく思い立つけど、結局できないまま。

 教室のある校舎へと続く渡り廊下に差し掛かった頃、わたしは結城くんからちょっと距離を空けた。

 というのは、一緒に歩いているところを、といっても前後でだけど、仲の良い子たちに目撃されたら、後で何か言われそうな気がしたから。



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