表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/113

秘密の場所


    (みなと)


 結城くんの姿がまた教室で見られるようになったのは、こどもの日から三日後のこと。

 良かったと安堵。

 もしかしたら、大病を患ってしまったのではと内心心配をしていた。

 さあ、これでようやく話すことができる。

 でも、何から話そうか?

 やっぱりまずはあの件についての謝罪からだろうか、そしてその流れでお礼を言って、それから最後にこどもの日の紙芝居の感想を告げよう。

 結城くんの背中を見ながら、頭の中で何回かシミュレーション。

 休み時間になる、さあ実行という時にもう一度結城くんを見ると、なんだかその背中が小さく見えたような気がした。

 病み上がりかもしれないから、そう見えてしまうのはある意味しょうがないのかもしれないけど、それでもやっぱり小さく、そして暗く映る。

 気のせいかもしれないけれど、なんだか落ち込んでいるような。

 こどもの日はあんなに大きく、輝いて見えていたのに。

 休んでいる間に何かあったのだろうか。

 だとしたら、そんなタイミングでよく知らない人間から話しかけられたりなんかしたら鬱陶しい、煩わしいと思われてしまうかもしれない。

 どうしよう。

 ……これまでだってずっと結城くんに話しかけることができなかった。それなら数日位に伸びてしまっても……。

 それにしても結城くんは一体どうしたんだろう? そんなことを考えながら、彼のなんだか小さく、そして曲がっているように映る背中を見ている。

「藤堂さん、もしかしたら結城のことが気になるの?」

 休み時間に仲の良くなった子からそんなこと言われてしまう。

 誤解だ。

 気にはなっているのは確かだけど、それはこの子の言っている気になるとは別の意味。この子が言っているのは、恋愛の気がある、という意味。そういう感情は結城くんにはない、というかそもそもわたしはまだ初恋というものを経験したことがない。家族とか友だちのことが好きというのは分かるけど、恋というものがどういうものなのか分からない。マンガやドラマで恋愛ものを観てそういうのにちょっと憧れてしまうこともあるけど、でもよく分からない。

 それを告げて誤解を解こうとしたけど、止めた。

 それをするには結城くんが紙芝居をしていることを説明しないといけない。本人の承諾なく、それを周りの人の話してしまうのは。それに、わたしがその結城くんのする紙芝居が好きというのを言うこともなんだか恥ずかしいから。

「誤解だよ。結城くんの席は自然の視線に入るだけ」

 GWゴールデンウィーク前のあった席替えで、結城くんの席は一番前の真ん中に。

 それも結城くん自身で、誰もが敬遠しそうな、その席を選んでいた。

「まあ、そうかもね。勝手に目に入るよねー」

 と、恵美ちゃんがわたしの言葉に同意を。

「でもさ、結城って意外と声良いんだよね」

「ああ、それ分かる。こないだの現国の朗読めっちゃ上手かったもんね」

「声フェチじゃないけどさ、良い声って好きになる条件になるんじゃない」

 そこから話はちょっと別の方向へと逸れてくれた。

 けどそれだったらあの時拍手をしてくれれば。そうすればわたしもできたのに。

 そんなことを考えながら、結城くんの背中をチラリと。

 また大きく、とまではいかなくても普段通りの大きさに見えるようになったら、その時は勇気を出して、そしてなるべく他の人に見られないようにしながら、話しかけに行ってみよう。

 そんな小さな決意のようなものを。


 結城くんの背中は全然大きくならなかった。 

 それどころか日を追うごとにもっと小さくなっているような気が。

 何が原因でそうなっているのだろう?

 もしかしたら落ち込んでしまうようなことがあったのか、それとも悩みみたいなものがあるのだろうか。

 どうしよう。思い切って話しかけてみようかな。

 前々からできないことをしたいというのもあるけど、それ以上にずっと小さく見える結城くんを見ていると胸がちょっと苦しい。悩みとか嫌なこととか、そういうのは誰かに話すと軽減する。友だちとかそんな関係じゃ全然ない、ただのクラスメイト、それと紙芝居を上演する人とそれを隠れて観ているような間柄だけど、それでも話を聞くくらいのことはわたしにもできるはず。

 そう考えてはみたけど、実行するのは難しい。

 前にからかわれてしまったから教室で話しかけるのは変な注目みたいなものを浴びそうだし。

 そうだ。なら、教室以外の場所でだったらどうだろうか。

 ここ最近結城くんは休み時間になると教室から姿を消している。

 連休前には自分の席で本を読んでいたのに。

 でも、何処に行っているのかは分からない。

 こっそりと後をつける、尾行を試みてみようかな。そして静かな、誰も見ていないような場所にいたのなら、そこで勇気を出して。

 ああ、でもなんだかストーカーみたいだ。

 それに無駄に大きなわたしの体じゃ目立っちゃうし、それに隠れるという行為じたい小さい頃からあんまり得意じゃない。かくれんぼなんかでもすぐに見つかっていたくらいに鈍くさいし。

 それと誰もいないところで突然話しかけられたりしたら、困惑してしまう、というよりも恐怖を感じてしまうかもしれない。

 この案は駄目だ。

 前にお母さんが言っていたように、今でもクラス名簿に住所と電話番号が記載されていたら、こんな風にあれこれと悩む必要なんかなかったのに。家に行く、もしくは電話をかければ。

 無理だ、男の子の家に押し掛けるなんていう絶対にできないし、それに初めての相手にケータイをかけるのでさえすごく緊張するのに、家に電話をするなんて。出るのが結城くんとは限らない。

 どうしよう?

 考え過ぎて、一寸だけパニックを起こしそうなわたしの頭の中に突如名案が浮かんできた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ