こどもの日 4
湊
再び姿を見せた結城くんは何故か舞台の下に。
どうしてかなと疑問に思ったけれど、すぐにその理由を思いつく。
ブルーシートの上に座って観るから、舞台の上だと紙芝居が観難くなるんだ。
そしてその前に思っていた疑問もすぐに氷解。
結城くんが司会のお姉さんからマイクを受け取る。
そうだよね。普通に考えればこんな広い場所で生の声というは流石に無理がある。
でも、もしかしたら結城くんなら機械を使わずとも紙芝居ができるような気が。
スピーカーから結城くんの声が。
ああ、もうすぐ始まるんだ。
どうしよう。
お父さんとお母さん、それから信くんのそばで一緒に観ようかな。
けど、三人がいるのは結城くんの目の前。
観るのはいいけど、見られるのはちょっと恥ずかしい。
丁度いい具合に防火シャッターのようなものが後方に。
そこの後ろに隠れるようにして結城くんの紙芝居が始まるのを今か今かと楽しみにしながら待つことに。
航
マイクを使用しての記念すべき? 紙芝居の一本目が「まぬけなオオカミ」という作品。これはアメリカの昔話をベースにしてあるもの。腹をすかした狼が得物を探して歩き回るものをアレンジしたもの。
主役の狼を筆頭に多くの動物が登場。
多彩な声で上演をする。
いつもの上演でもできないことはないが、いろんな種類の声を出すので喉の負担が大きい。だからする時は最後の辺りに。けど、今日はマイクを使用するから負担の半減以下。
楽に上演できるはず。
あ、その前に、
「いつもは二階の南エレベーター前で紙芝居の上演を行っていますが、今日はこどもの日ということで中央広場に出張してきました」
と、さっきのショーみたいにMCの真似事を。
いつもはこんなことしないですぐに上演を開始するけど。まあ宣伝というか告知みたいなことを。
こんなことをしてももしかしたら無駄なのかもしれないけど、こういう地道な営業が後々のお客さんを増やすことになるはず……おそらく……。
よく判らないけど、多分。
さあ、いざ上演。
いや、その前にしないと、というか確認をしておかないといけないことが。
これを疎かにしてしまうとまた前のような失敗をしでかしてしまうかもしれない。
足の裏の神経を。
足の裏で自分の体重を感じ取れているか。
よし、できている。これなら問題なく上演できるはず。
湊
前に観た時のような台座の横でのお芝居はあまりなかったけど、色んな種類の結城くんの声がスピーカーから聞こえてくる。
こんな声も、あんな声も出せるんだ。
ちょっと間の抜けた感じの狼の声はもちろんのこと、ガチョウのガラガラ声、犬の鳴き方なんかは本物みたい。
馬に蹴られてしまって、最後まで餌にありつけない狼。
大盛り上がり。
あの時はできなかった拍手を。
さて、今回は何本上演するのかな?
次の上演を待っていると結城くんはいきなり台座にマイクを置いてさっきまでの上演していた紙芝居を持って猛ダッシュでいなくなったかと思っていたら、すぐに再登場。
前も思ったけど、脚早いな。
ああ、そうか。一度いなくなったのは新しい紙芝居を用意するためか。
今度はどんな紙芝居を上演するのだろう。
楽しみに待っているわたしの耳に、
「名探偵ホースケの活躍」
という結城くんの題名を告げる声が。
何かどこかで聞いたことがあるような名前。
もしかしたらあの名探偵と関係のあるような紙芝居だろうか。
結城くんの開いた台座の向こうの絵には、わたしが想像したような服を着ている犬が。
航
これもあの人が得意にしていた作品。
観せるための紙芝居ではなく、観客も一緒になって楽しむような作品。
つまり、冷めたお客さんばかりだと成立しない。けど、これだけの人がいて、そしてそれなりに楽しんでくれているようなのでそんな心配は杞憂。
これは名探偵が助手と一緒に様々な選択問題を解いていくもの。
その助手は観ている子どもたち。
さっきのヒーローショーのテクニックを丸パクリという程の技巧は流石にないけど、それをちょっと拝借、応用してみる。
手伝ってくれる子を挙手でも募集して、台座の横に並んでもらうことに。
湊
あ、これは参加型の紙芝居なんだ。
結城くんが探偵助手を集めている。
絶対に信くんも手を挙げるだろうなって見ていると、やっぱり勢いよく手を挙げている。当たると良いなって思っていたら残念、外れちゃった。
選ばれた小さい子たちが結城くんの横に整列。小さい子から小学生中学年くらいの子まで様々。
上手だな。
読むのも上手だけど、小さい子たちの相手というか、なんというのか、時には正解に導くようなしたり、反対にこれで良いのか問うたりと、兎に角彼のまた新しい一面を見たような気が。
大盛り上がりのままで二本目の紙芝居が終了。
一本目の時以上の拍手の音が。
航
予想以上に盛り上がった、このまま三本目に突入。
三本目は「ながぐつをはいた猫」
ああ、今日はこれまで全部動物が主役だな。そんなこと全然意図してなかったけど。
まあ、いいか。楽しんで観てもらえているのなら。
湊
三本目の紙芝居は「ながぐつをはいた猫」。
主人公の猫は、コミカルな感じの声で、その主人となる青年はやや朴訥な感じ、王様の威厳にはちょっと足りないような気もするけどそれでも感じは出ている。
そして驚きなのは王女様。
まるで本当の女の子のような声。わたしと同い年のはずなのに。
目を閉じて聞いていれば、年下の女の子が話しているみたい。
なんだか、ちょっとだけズルいような気が。
航
主人公の猫は飄々で軽い感じの演技で、そのご主人の若者はやや気弱さを意識しながら間抜けな芝居にならないように注意、そして王様は威厳を出すつもりでは演じるけど、流石に俺のような若造にはそれは難しく、かといってそれを放置するようなことはせずに他の台詞よりも若干ゆっくりめで、かつ低い音を意識しながら。そして王女様、これは良いことなのか悪いことなのかは定かではないが俺の高めの声が功を奏する。だが、それでも普段の機械を使用しない紙芝居では出せない声を。いつもの場所での上演ではこの王女様の声は周囲の音にかき消されてしまうくらいの音量しか出せない。けど、今日はこれで大丈夫、増幅された音がスピーカーから流れるから。そしてそこにとある人の真似というわけではないけど、少しだけ意識してウィスパーボイスで可憐さのようなものを加味して。
まあここまでは問題は多少あるけど、それでもできているはず。
問題はここから。
紙芝居、「ながぐつをはいた猫」のクライマックス。
ラスボス、悪の魔法使い、大魔王の登場。
この声は低い、怖い音で。観っている子たちを怖いと感じるように演じたい。
しかしながら何度も言っているけど、俺の声は同年代に比べても高め。そんな声ではどんなに頑張っても、マイクの力を借りても、頭の中で描いている、あれこの表現は少しおかしいような気もするけどまあいいか、声には程遠い、全然違う、迫力不足の音になってしまう。
それでも一応は演ってみる。
目の前の座っている子たちはあまり怖がっていないな。
失敗とまでいかないけど、それでも今後の課題かもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながらも紙芝居を進行。
最後は猫の知恵で大魔王を退治し、若者はお姫様と結婚し、めでたしめでたし、大団円で終了。
そして、これで本日の紙芝居は終了。
まあ、色々と課題のようなものも見つかったけど、一人でなんとか紙芝居の舞台をやり遂げた。
湊
結城くんの紙芝居が終了する。
面白かったし、楽しかった。もっと観ていたいような気が。
そんなことを頭を下げて紙芝居の台を押しながら舞台の前から去っていく結城くんの背中を見ながら思う。
そんなわたしの気持ちが他の人にも伝染したのか、それとも結城くんの紙芝居がそう思わせたのか、絶対後者のはず、拍手の音とともに「アンコール」の声が沸き上がる。
わたしもその声に便乗を。
大きな声で言うのは恥ずかしかったから、小さな声で。
その声に応えてくれたのか、結城くんが再び紙芝居の台座を持って舞台の前に登場。
航
アンコールの声に応えてというか、前田さんからの要請で、予定時間を超えていたけどもう一本上演することに。
何をしようかと考えながら観客のほうを見ると、子どもが多いのはもちろんだけどその親御さん、おじいちゃんおばちゃん、まあ保護者の方々も多いことが見てとれる。なら、アンコールの作品はこれにしてみるか。




