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想い 4


   (みなと)


 生まれて初めて好きになった男の子に逢いに行くよりも大事な用事。それは、ママのお墓参り。

毎年命日には墓前で一年間にあったことの報告を。

今年は、高校に入学して新しい友だちができたこと、それから紙芝居のこと、そして結城くんのことを。

 終わった後は親戚のお家へ。

 そこで小さい従兄弟たちから本を読んでとせがまれる。

 お正月に読んであげたのがよっぽど気に入ってくれたみたいだった。

 でも、ちょっと待ってもらうことに。

 午後二時から。

 多分、というかおそらく、結城くんがあのショッピングセンターで紙芝居を上演しているはず。遠く離れた場所で、ちょっと違うけど、それでも同じ時間に、同じことをする。

 好きになった人と、なんだか繋がっているような気がして、それが少しうれしいような、くすぐったいような。

 喜んでもらえる。

 でも、ちょっと。

 最後まで楽しんで聴いてもらえたのはうれしいけど、結城くんのする紙芝居に比べたら全然だったし、それにわたしは読むよりも聴いているほうが。今日だって、ママにはちょっと悪いけど、本音を言えば生まれて初めて好きになって人の活躍する姿を見ていたい。

 ……あ。


 ……あれ。


 ……もしかしたら、わたし……。


 ……できちゃった……かもしれない。


 こういうと妊娠したかのように思えるけどそうじゃない。

 わたしの中でしたいことができた。

 これは結城くんがしてくれたからだ。

 でも、これをするためにはまずはしないといけないことが。

 それをクリアしないと。

 そのためには嫌でも行動をしないと。

 わたしには去年の夏から付き合っている先輩がいる。

 先輩にお別れを頼まないと。

 先輩と付き合ったままではしたいことができない。それにわたしの好きな人は先輩じゃない。

 けど、それを言ったらものすごく怒られてしまうかも。

 あの時の写真を拡散されてしまうかも。

 そう考えると、怖くて、尻込みしそうになってくる。

 でも、しないと前には進めない。

 結城くんが創った紙芝居の主人公のクマのヌイグルミの元になったかもしれない、お守り代わりのクマのマスコットを握りしめながら先輩に電話を。

 案ずるよりも産むが易しだった、

 あっさりと別れることができて、それからあの時のも消去してくれると約束してくれた。

 これは後で分かったことだけど、先輩は年末から二股をかけていた。別の子とそういうことをする間柄になっていた。

 普通だったら怒るようなことで、見知らぬ浮気相手に対して怒れるのかもしれないけど、むしろ感謝を。おかげで無事別れることができたから。


 しないといけないことはもう一つ。

 それは部活のこと。

 したいことをするためには部活を辞めないといけない。器用な人ならもしかしたら両立できるのかもしれないけど、わたしには無理、不可能。

 でも、勝手に辞めたりなんかしたら恵美ちゃんが怒るかもしれない。

 せっかく誘ってくれたのに。

「……あのね……大事な話があるの」

 朝の電車の中で恵美ちゃんに切り出す。

 怖いけど、そのままズルズルと先延ばししてもきっと良いことはないはず。

「何?」

 いつも通りの元気な声が返ってくる。

「……部活辞めようと思うんだ」

 短い言葉なのに言うのにすごく時間がかかったような気が。わたその言葉を聞いて恵美ちゃんの表情が一変する。少し険しいものに。

「……何で?」

「……他にしたいことができたから」

 もしかしたら恵美ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。目をかけてもらっているのに、期待をされているのに、それを全部捨てて自分勝手に辞めてしまうのだから。

 でも、したいことができた。やりたいことができた。

 わたしの中で日毎に大きく育っていくこの気持ちを消し去って、流してしまうことはできない。

 我侭のせいで、もうこれから友だちではなくなるかもしれない。

 一人でいたわたしに声をかけてくれた。バドミントンを一緒にしないかと誘ってくれた。そんな大切な、大事な友人を失ってしまうかもしれない。

 それでも……。

「そっか」

 険しい表情が消える。いつもの恵美ちゃんに。

「残念だけどさ、別にしたいことができたんなら仕方がないよね」

「……怒らないの」

「何で?」

「……ううん、別に」

「それでさ、したいことって何なの?」

「まだ、内緒。ちゃんと決まったら恵美ちゃんには絶対に報告するから」

 お腹に軽く手を触れながら言う。

「絶対だよ、約束だからね」

 二人で顔を見合わせる。目が合う。すると、自然に笑みがこぼれた。



   航


 まだ藤堂さんの顔が怖くて見れない。

 日曜日に、もしかして来てくれて、そして紙芝居の感想でも聞かせてもらえるかもしれない。そんな淡い希望は見事なまでに打ち砕かれてしまった。

 やはり、目を逸らされたのは、あの紙芝居で傷付けてしまったから、レイプになってしまったからだ。

 嘆息、溜め息が勝手に出てしまう。

 それから本当に何度目か判らないくらいの後悔をする。

 傷付けてしまったのなら、謝罪すべきだろうか。

 こんなことを後悔の合間に考える。が、そんな行動できない。

 できないままで、あっという間に一週間が過ぎてしまう。



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