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想い


   (みなと)


 あれ……。

 こんなのだったかな。

 最後にしたのはたしか……クリスマスの時だから、一月以上はしていないことに。

 気持ち良くなったことなんか一度もないはずなのに、快感というのとは違うけど、触れられているのが心地良いような感じだ。

 いつまでもこのままでいたい。

 と、思っていたけど、そのうちわたしの中での欲求が強くなってくる。

 もっとしてほしい。

 もっと他の場所も触れてほしい。

 わたしの中に入ってきて欲しい。

 こんなこといままで一度も思ったことないのに。

 もしかしたら気が付かないうちに欲求が溜まっていたのだろうか。

 焦らされる。

 早く欲しいのに。

 ちょっとはしたないと思いつつも、懇願を。

 それでもまだ焦らされる。

 焦れながら、いつの間にこんなに上手になったんだろう、とちょっと感心を。これまではずっと強くて、早くて、痛かったのに。

 まだ焦らされて、刺激されて、それからようやく。

 待望の、待ち望んだ瞬間に、わたしは思わず達してしまった。今まで一度も経験したことないのに。

 快感と、どうして? という疑問が。

 目を開ける。

 目の前には裸の結城くんが。

 えっ? なんで? どうして? もしかしてわたしは浮気の真っ最中なの?

…………。

…………。

…………。

…………。

 あ、これは夢だ。

 夢だったら、浮気にはならない……よね。

 でも、あまり良いことじゃないような気も。

 起きないと、と思うけど結城くんのしてくれる行為に抗えない。

 実際のエッチ、セックスとは全然違う気持ち良さと快感。

 わたしの感じる場所を絶妙な力加減で触れてくる。

 このまま目を覚ますのはもったいない。本当のセックスでは感じられないことだから。

 夢なのになんかすごくリアル。

 わたしの息は乱れているし、結城くんの肌から熱が。

 その熱がわたしの伝わってきて、体が火照ってくる。

 そして、汗の甘い香りが。

 これ本当に夢なのだろうか?

 頭の中が少しずつ真っ白に。

 結城くんの動きが速くなっていく。

 いきそうなになった瞬間、目が覚めた。

 あ、……夢の影響なのか、ちょっと大変なことに……。

 急いで着替えないと。

 ああ、時間もない。早くしないと恵美ちゃんが待っている。

 けど、どうしてあんな夢を見てしまったのか?

 それについて考えている余裕はない。

 急がないと。


 あ、そうか。

 恵美ちゃんとの待ち合わせの時間に間に合わせるために自転車を必死に漕いでいたら、あんな夢を見てしまった理由が分かったかもしれない。

 昨日、わたしは結城くんの紙芝居を観た。

 彼が自分で創って、わたしに観てほしいと伝えてくれた紙芝居。

 それなのにわたしはグズグズとしていて間に合わないという失態を。

 それなのに結城くんは、遅れて来たわたしに上演をしてくれた。

 普段の上演に加えて、追加の紙芝居だったから、結城くんの声はもうボロボロだった。

 いつもの良く通る優しい音とは全然違うガラガラの聴きづらい声。

 観ているのが、聴いているのが、居たたまれなって何度かベンチから離れようとした。わたしがいなくなればもう上演する必要はないはず、と思って。

 だけど、わたしはベンチに腰を下ろしたままで結城くんの紙芝居を。

 物語が進行するにつれて結城くんの声に変化が。

 ガラガラの声なのは変わらないけど、聴きづらさが消えていく。

 わたしも徐々に紙芝居に集中を。

 結城くんの声とお芝居がわたしの五感を。

 柔らかく触れているような感じに。

結城くんは紙芝居で、わたしを楽しませてくれていた。

 この時間がすごく幸せなような。

 このままずっと観ていたい。

 けど、結城くんの声はもう限界。

 これ以上は……。

 気が付くと、泣いていた。

 楽しかったのに、面白かったのに、バッドエンドじゃなかったのに、それなのに涙が勝手に落ちてきた。

 紙芝居に感動したからなのか、それとも遅れて来たこと、あんな声で上演させてしまったことへの後悔からなのか、自分のことなのによく分かなかった。

 分からないけど、涙は流れ続けて止まらなかった。

 最後のあいさつでお辞儀をしている結城くんが顔を上げる。

 泣いている顔を見られた。

 泣いているところを見られた。

 そう思った瞬間、涙は引っ込んで代わりに羞恥心がわたしの中に一気に広がっていった。

 恥ずかしくなってそのまま結城くんには感想も何も告げずに帰ってしまった。

 恥ずかしと一緒に帰宅中に気付いたことが。

 もしかしたらあのクマのヌイグルミはわたしだったんじゃないのかと。お守り代わりのクマのマスコットにちょっと似ていたし。

 前に、色んなことで悩んでいて、それを結城くんに聞いてもらったことがあった。

 その時話を聞いてもらってちょっと楽になれた。

 けど、その時解決まではしなかった。

 それで結城くんは、わたしをあの主人公のクマのヌイグルミに見立ててくれて「大丈夫」というをメッセージをおくってくれたんじゃ。

 もしかしたら考え過ぎかな?

 でも、結城くんはわたしのことをよく見てくれているから。

 そういえば前に結城くんは紙芝居をセックスに例えていたな。

 去年の夏、経験したくないのに経験した、それから何回も。

 何度もしたけど一度も気持ち良くなったことがない。それなのに、結城くんのしてくれた紙芝居のセックスはすごく気持ち良かった。

 また、したい。何度もしてほしいと思うくらいに。

 そんなことを考えていたらいつの間に眠ってしまった。

 

 だからあんな夢を見ちゃったんだ。



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