かんせい? 6
湊
いつもとは違う環境。
乗り換えをしているこの市の一番大きな駅の近くにある、と言っても歩くと十分位かかるけど、市の体育館での合同練習。
オリンピックにも出たことのある、経験のなかった頃のわたしでもテレビで名前を聞いたことがあるくらい有名な元選手が来て、この辺りの出身って前に恵美ちゃんに教えてもらった、周辺中高のバドミント部が集まっての合同練習。
もう引退されているとはいえ、世界で活躍した選手。
みんな真剣な表情で練習をしている。
それなのにわたしは今一、集中できないというか、心此処にあらずというか。
こんな貴重な機会はめったにないのだから、指導の一言も聞き漏らさず、一挙手一投足たりとも見逃さずにいないと、それで上手くならないといけないのに。
それなのに集中できない。
気がそぞろに。
そうなってしまう理由は分かっている。
気持ちがバドミントンにではなく、結城くんの紙芝居にいっているから。
今どんな紙芝居を上演しているんだろうか? 自作の紙芝居は、完成を報告してくれた作品はもうしたのだろうか?
すごく気になってしまう。
そして自問してしまう。
どうして今バドミントンをしているのだろう?
そんな浮かんできた自問を慌てて振り払う。
わたしが今ここにいるのは、わたし自身の意思……のはず、多分、ううん間違いなく。この機会に色んなことを吸収して、上手く、強くならなくちゃいけない。
下手くそなのに、無駄に高い身長と左利きという理由だけでメンバーに選出してもらっているのだから。
それなのに……。
それなのに、気が付くといつの間にか結城くんの紙芝居のことを考えてしまっている。
そうなると観たいという欲求がどんどんとわたしの中で大きくなっていく。
結果、集中しないといけないのに全然集中できない。
そんなわたしとは正反対なのが、バドミントン大好きな恵美ちゃん。
「楽しいよ、それにすごく勉強になる。動画とか本で知っているつもりだったけど、実際に上手い人の動きを生で見ると全然違う」
と、本当に楽しそう。
こんな熱心な姿を見ていると、少しだけ申し訳のないような気分に。わたしは恵美ちゃんほどじゃない。それどころか、もしかしたらこの体育館の中で一番不真面目なのかもしれない。
そんなのがここにいていいのだろうか。
短い時間とはいえ、参加者全員が指導してもらえることなっている。
それなのに、気がそぞろなのがいたら、その貴重な時間を潰してしまうことに。
いることが申し訳なくなってくる。
と、同時に結城くんの紙芝居を観たいという想いが強くなってくる。
でも、今更。
そう思いながら、集中しないと、と思いながら想いを押さえこもうとする。
わたしは、上手く、強くならないと。
それなのに、わたしの中の観たいという願望はどんどん大きく、膨れ上がっていく。
そしてとうとう破裂してしまう。
「……ごめんなさい。わたしここにいられない。」
「えっ? ちょっと湊ちゃん」
「行かないといけないから、大事な約束があるから。先生に言っといて」
やや早口で恵美ちゃんに。
恵美ちゃんのビックリしてちょっと裏返っている声が背中に聞こえたけど、それには答えずに走り出した。
航
二時台の紙芝居が終了。
ここまで藤堂さんの姿はなし。
やはり聞こえていなかったのか。それとも理解してもらえなかったのか。
「何、落ち込んでんのよ? あっ、もしかして彼女が観に来てくれないからかー」
ヤスコが言う。図星だ。
「アンタ、まさかまだ報告していないとか。言わなくても判ってくれるなんていう虫の良いこと考えているんじゃないでしょうね」
図星をつかれて言葉に窮したから黙ってしまったというわけではなく、それに返答する気力がなかったから。思った以上に落胆してしまっている。
「……言った」
言うのは言った。けど、俺の声は藤堂さんを素通りしてしまったか、聞こえるのは聞こえたけど判ってもらえなかったみたいだ。
「それなら、そんなに気落ちしないの。ちゃんと報告したのなら、そのうち観に来てくれるでしょ。彼女だって楽しみにしてくれていたんだから」
「…………」
「言ったからってすぐに来るとは限らないでしょ。彼女にも、彼女の事情というのがあるんだし。航はどんと構えて待っていなさい。それに来ないのなら、もう一週稽古ができる、より良いものが上演できるチャンスとポジティブに捉えなさい」
……そうか。
たしかにヤスコの言うように藤堂さんには藤堂さんの都合がある。来てほしいと思っていても彼女のスケジュールが合わなければ来ることは不可能。
それに稽古の時間が増えれば、もっと藤堂さんを悦ばせることができるかもしれない。
なんか吹っ切れた、グダグダと悩んでいたことが馬鹿らしくなってくる。
完成の報が伝わっていないのなら、もう一度すればいいだけのこと。
今回は問題なかったみたいだけど、学校で直接言うのは迷惑をかけてしまうかもしれないし、それにあれをもう一度するのは滅茶苦茶恥ずかしい。
なら、古典的な手法は。
朝早く学校へと行き、藤堂さんの机の中に手紙を忍ばせておく。手紙の内容はもちろん、紙芝居が完成したこと、それから観に来て欲しいという願望。まあ、名前は別に書かなくても大丈夫だろう。紙芝居と書いてあれば誰からかはすぐに判るはず。
考える。
一瞬の思考と思っていたけど、現実の時間では結構な長考だったみたいだった。
いつの間にか三時前に。
次の上演のための準備をしないと。
あの紙芝居は藤堂さんに観てもらうために、悦んでもらうために、楽しんでもらうために、俺が紙芝居で彼女とセックスをしたいという願望のために、創った。だから、いないと上演はしない。
だけど、それはそれ。
今は次の上演を楽しみに待っている人達を楽しませることに集中しないと。




