「そのまま」
???A「わたしたち三人は、いつも一緒」
???B「そうよ、だからあの子も仲間に入れてあげないとね」
―――――――――――――――――――
八月某日、学生は夏休みの期間。
ある事件が起こった。
いじめを苦に一人の高校生が自殺した。
数日後、虐めの中心だった者も自殺した。
ただ、後者は、その死にざまが凄まじかった。
登校日、いじめに加担していたと思われる者達を隠し持っていた包丁で切り付けて大怪我をさせ、周囲の者が止めに入ろうとした瞬間に自らの喉を突いたのだ。
実は虐めの中心人物が判明したのは、その自殺の後にスマホの内容を警察が調べたからだった。
いじめの被害者が死の直前に送信した履歴があったのだ。
「――――
わたしはこれから死にます。
そして、明日の夜、あなたの枕元に立ちます。
もしも、反省しているのなら、
わたしの気配を感じたら、目を開けなくていいので、こう言ってください。
”ごめんなさい”、
”はんせいしています”、
”そのまま”、
”おかえりください”、
それぞれの間を五秒くらい置いてわかりやすくしてください。
それでは、明日の夜にお会いしましょう。
さようなら
――――」
警察は、この内容については、当事者達の特定をした以上はあまり調べることは無かった。
翌日学校に届いた、謝罪と反省といじめの詳細が記された本人からの手紙にて概ね把握できたのもあるが、
前日、全く別の高校の生徒三人が、不慮の事故で亡くなりそちらの件で忙しかったのもある。小さい街なのだ。
―――――――――――――――――――
私A子は高校三年生。
八月最終週。
深夜、ふいに目が覚めてしまった。
何かの気配を感じた。
だから、昼に喫茶店で聞いた、なぜか大声で話す怖い系の話を思い出して、
興味本位で「そのまま」と言ってから目を開いた。
何かが居た。
九月初週某日の昼休み。
私は、いつもの様に教室でB子、C子とお昼を食べながら話をしている。
「A子、なんか顔色悪くない?」
B子が、心配そうに聞く。
「わたしもそう思ってたよ~」
C子が追随する。
「え、そうなの?
自覚無いけど、二人がそう言うならそうなのかな~。
ところで、あの噂知ってる?」
私は、心配してくれる二人に適当に答えてから、無難な感じで本題を切り出していた。
「あの噂って?」
B子が、食いつく。噂話が好きなのだ。
「寝てるときにさ、目を開けたら、目の前に何か居るんじゃ無いかって思うとき無い?」
「ある……かな」
B子は、会話に合わせる様に答える。
「わたしはあるよ~」
C子は、少し嬉しそうに答えた。身近な内容に興味が湧いたのかもしれない。
「何々、怖い話?」
近くにいたD子が会話に入って来た。
「たぶん怖い話」
私は、平静を装って応じる。
「じゃ、あたしも聞きたい」
D子は、興味ありありな感じだ。
「寝てるときに、ああ、眠ろうとしてる時か、で、その時に目を開けたら目の前に何か居るんじゃ無いかって思っちゃったときってね」
「まわりくど」
B子が、ちゃちゃを入れる。
「その時って実際何かいるらしいんだけど、目を開けると消えるんだって」
「それじゃ、わからんじゃん、居ないのと同じやもん」
「うん。 でもね、目を開ける前に”そのまま”と言ってから、ぱって目を開けると、……居るんだって、
目の前に、おぞましい顔が……」
「なんじゃ、そりゃ」
D子は、内容が薄くてがっかりした様だ。
「たぶんね、話を聞いただけだとそんな感じだけど、試してみるとね、怖さがわかるよ。
だって、私は、試す前に想像したら、それだけでビビっちゃって、なんか居そうな感じだと、目を開けることもできないもん」
「わたしは、何か居そうって感じるとこからだな」
C子の言う事は理にかなっているかもしれない。
「C子は鈍感だもんね」
B子が、すかさずツッコむ。
「ちなみに、その話には、まだ続きがあるのよ」
「ほう、オチみたいな?」
「ええと、見ちゃった後のこと」
「ほう?」
「それから一週間以内に五人の人にこの話を聞かせないと、体を乗っ取られちゃうんだって」
「五人に話したら?」
「五人目に聞いた人に乗り移るって」
「いっぺんに大勢の人に聞かせたらどうなるんだろうね」
「それはわかんないけど、近かった人とかかな?」
「音速だもんね」
B子らしい分析だけど、声の伝わる速度がマッハのイメージ無いなぁ。
「何じゃそれ」
C子には通じなかったらしい。
四人は適当に笑うと次の話題に移っていた。
その日、私は「”ごめんなさい”」と心で何度もくり返しながら帰った。
明日、ちゃんと話して、その後も協力するから、どうかゆるしてください。
その夜……、
洗面所に行く、おそるおそる鏡を見てみた。
「あれ、なんで?」
まだ、居る?
あの日から、夜に鏡を見ると、人の影のような物が映ってるのに気付いた。
それが、日に日に近づいてくるので、そういう事だと理解した。
すぐに、恐怖よりもこの状況をなんとかすることで頭がいっぱいになった。
パニックから戻れば、意外と冷静になれるものなんだと不思議ではありましたけど。
だから、
今日、朝食の時にお父さんとお母さんと弟に聞かせた。
みんな朝からそんな話をするなって嫌そうだった。
そして、絶対にマネしないでって冗談交じりだったけど伝えた。
昼には、あの三人に聞かせた。これで六人。
だから、
三人のうちの誰かに乗り移ったんじゃ?
きっちり五日とか、日付が変わるときとか、期限が過ぎたタイミングで対象者の元に行くのかな?
……まさか、伝える人数五人が嘘?
今更、誰に話せば……どこか人がたくさん居るところに行って大声で話せばいいのかな? あ、話を聞いた時、あの喫茶店で話してた人って……。
「時間切れです」
わたしの口から出たその言葉はわたしでは無い者の言葉でした。
―――――――――――――――――――
???A「A子も見たんだね」
???B「わたしが話そうと思ってたのに」
???A「でも、ちゃんと五人に話せたのかな。
わたし達も数えちゃってたらある意味申し訳無いけど……ふふ」
???B「わたし達を巻き込もうとしたA子にはあまり同情しないよ。
さて、今夜くらいかな、個人のいろいろな事情もだいたい理解できただろうから」
???A「これで、また三人で仲良くできるね……ふふ」
???B「ええ、楽しみだわ」
―――――――――――――――――――
こんな噂話がある
寝てるとき、顔の前に何かの気配を感じることはありませんか?
その時、確かに何か居るのです。
ですが、目を開けてみると何もいません。
ただ、目を開ける前に”そのまま”と言ってから目を開けると、一瞬だけ見えるそうです。
一瞬だけですので何かの見間違いだと思ってしまいますが、残念ながら、それ以降、鏡を見るとそれの影が映りこむ様になるのです。
さらに、映りこむそれは、日を追うごとに近づいてきます。
それを消す方法は一つ……、
一週間以内に五人にこの話を聞かせること……、
そうしない場合、最終的に体を乗っ取られてしまうのです。
五人に話を聞かせたら、五人目に聞いた人に乗り移って、めでたしめでたし……
ちなみに……既に魂を乗っ取られた者は人数に含みません。
この、噂の最後の一文は、噂としての意味が無いためか語られない事が多いみたいです
いや、そもそも、全文に関して真偽を確認した者が居るのかどうか……
発生させてしまったら誰かに乗り移るまで消えないこの呪いは、この噂話が語られる限り興味本位で発生します。
それに、そもそも気配を感じられないなら、五人目にならないかぎりはなんの影響も無いのですから、面白半分に広められているかもしれません。
ただ、本当に噂通りなら意図的な悪用ができるはずで、それは世界レベルでの問題に発展していたでしょう。
だから、虐めの子の件も、A子達の件も、他の何かの条件をたまたま満たしていただけで、この噂に埋もれていくのでしょうね。
さて、既に、どれほどの人間が乗り移られた者なのでしょうか。
書いてみたけど怖くないなぁ。
これでホラーになるのだろうか……。
駆け込みだし、見逃してもらおう。