第7話 死を司る鳥
私が作ろうとしている複合魔法、それは無属性魔法と猛毒魔法を使った魔法だ。
理論上では無属性魔法に猛毒魔法を【属性付与】を使ってその毒性を付与して、純粋な猛毒が含まれた無属性の魔力ができ上がる予定だ。
ただ、残念なことに一度も実践をすることが出来ていない。成功してほしい。本当に成功してほしい!じゃないと私がこの魔法を作るためにやってきた半年と少しの頑張りがパーになってしまう。それだけはどうかご勘弁を!!ご勘弁を!!
毒魔法を極めることで頭が一杯で、そこのところ全く考えてなかった。すっかりぽっかり抜けていた。
突然の危機感に襲われた私は早速いつもお世話になっている修行場にきた。
私が作りたい複合魔法の名前は【死を司る鳥】だ。名前にはこの魔法でできた鳥をくらっただけで相手に毒で戦闘不能になってほしいという私の切実な願いから、死と言う言葉をいれてみた。
いつか名前の通りの魔法にもできたらいいな。一撃で敵を屠れることに越したことはないからね。
なぜ鳥の形にするのかというと、鳥は機動力に優れているし、空を飛ぶ敵にも攻撃が可能なこと。それから鳥の数を増やすことができれば、広範囲にいる複数人の敵にも有効だと考えたから。
まぁ本音を言うと、毒の鳥を魔法として放つ自分の姿を想像してみたら、かっこよくていいなと思ったからだ。
とにかく形から作っていこう。
私は自分の手を真っ直ぐ前に伸ばして、無属性魔法を発動させる。私の手から出た半透明な魔力の塊を、私がイメージした鳥の姿に変えていく。
「やっぱりまだ形を自由自在に変えることは難しいな。」
時間をかければしっかりとした鳥の姿を作ることができるけれど、戦闘の時に使えるほどには魔力を操作することに慣れていない。これからは魔法だけじゃなく魔力の操作にも力をいれたいな。
それから何回か鳥の形を魔力で作る練習をした後、私は次の段階である毒の属性付与を私の作った鳥に行ってみることにした。
「【属性付与】毒」
鳥の色が半透明のものからうっすらとした薄い紫のものに変わった。どうやら属性を付与するとその属性を付与した色が付くらしい。
ここまでは今のところ順調。
私はその後も魔力で作った鳥。名付けて魔力鳥を飛ばしてみたり、同時に作ってみたりと思い付く限りのことを試した。その結果、幾つか分かったことがある。
一つ目に今の私の魔力と魔法の腕では、同時に六羽を飛ばすことが限界であること。
二つ目に魔力鳥を飛ばせる飛距離が20メートルと私の理想の最大飛距離よりも少ないこと。20メートルしか飛ばない理由は20メートルを超えると鳥がなぜか消えてしまうからだ。
三つ目に真っ直ぐにしか飛ばせないこと。これが一番ショックだった。私はてっきりイメージで自由に動かせると考えていたからだ。真っ直ぐといったけれど正確に言うと上下左右に動かすことはできる。ただし一度飛ばした鳥の方向を後から変えることがどうしてもできない。この方向の修正ができないのは本当に戦闘において、致命的すぎる。何より追尾機能つきの鳥を作ることができないのが残念すぎる。でも諦めることはしない。何か良い手がないか考えておこう。
四つ目に魔力鳥の飛ぶ速さを、速くすることがうまくできないこと。魔法はイメージだと思っている私としては魔力鳥の速さを自在に変えることができないことが分かったのもショックだった。なんとなくだけど方向を変えられないのが分かったあたりからもしかしたらとは思ってはいた。でもあんまりすぎる。どうやら私は盛大な勘違いをしていたらしい。私は前世では異世界モノの小説をよく読んでいた。その小説たちの世界では主人公が新しい自分だけのオリジナルな魔法を作り出しているものかいくつもあった。私はその経験から案外楽に魔法は作れるんだと勝手に解釈していた。でもそんなにうまくいくことはない。私はこの瞬間、小説の中の主人公たちも何度も失敗を繰り返しながら魔法を作ったという当たり前のことを悟ったのだ。それならば私だって負けているわけにはいかない。偉大なる魔法を作った先人の方々に感謝と敬意を持ってどれだけ時間がかかろうとも、妥協はしない。私が思い描いた最高の【死を司る鳥】を作ることを固く決心した。
決心した私はまず今の段階でできることとできないことをまとめてみた。
<できること>
無属性魔法に毒魔法の毒を付与することは可能。
鳥の形にすることも飛ばすことも可能。
六羽まで同時に作り操作することが可能。
同時に飛ばすことと、同時に複数の魔力鳥を上下左右に一羽一羽違う動きで動かすことは可能。
魔力鳥の翼を羽ばたかせることは可能。
他にも実際にゴブリンに【死を司る鳥】を当てたところ毒の効果もしっかりと反映されていたこと。
<できないこと>
飛距離が20メートルまでしかなく、それ以上離れたところにいる敵に攻撃が届かないこと。
魔力鳥の数が全然足りていないこと。
魔力鳥の方向を変えることができないのと、速度を上げたり下げたりすることができないこと。
六羽以上の同時操作ができないこと。それ以上しようとすると頭が痛くなってできなくなるため。
障害物を避けることが操作をしないとできないこと。
改めてまとめるとできることとできないことがはっきりしている。三時間ほど足りない頭を悩まして私は仮説を立ててみた。
まず、20メートルまでしか飛べないのは、私の魔法の効果を持続させることができる距離が20メートルまでだからだと思う。だから私と魔法の繋がりをなんとか繋げたまま20メートル以上飛ばせることができれば消えることなく、どこまでも飛べるはずだ。
私は【時空間魔法】の魔法を使えばできるのではないかと考える。あれなら、空間を隔てていれば私と鳥との実際の距離は違くても、空間を繋げていれば私と鳥との空間を繋げた距離は絶えず20メートルを超えていないから消えないのではと思う。
魔力鳥の数を増やすことに関しては、私がこの前作った魔力鳥は鳥の中までびっちりと魔力を込めていた。だからこれからは鳥の内部には魔力を込めず、外側の外見だけ魔力を込めれば鳥の中は空洞になる。こうすれば魔力を節約できるから、作れる量も増やすことができるはず。理論上ではきっとできるはず。
鳥の飛ぶ速さを自在にすることについては風魔法を使いたいなと思ってる。鳥の翼や足から風を出して速さを調節すれば自由に動かせると私は考えた。そして方向を変えることに関しては、干渉魔法を使いたい。干渉魔法で鳥の翼や足などの鳥の体を動かすことで鳥のからだから出ている風を操って方向を変えようと考えた。
私のこれからの目標は【死を司る鳥】を完成させること。そのためにまずは今の出来ていないことに関する解決策である【風魔法】、【干渉魔法】の取得。そして【時空間魔法】と【風魔法】、【干渉魔法】を使えるようにすることから始めよう。
私の理想をたくさん詰め込んだかっこいい魔法にするんだ。私は未来でこの魔法を使って戦っている自分を思い描きながら、軽い足取りで家へと帰るのであった。