第15話 アイ アム ダンピール
宿へと帰ってきた私達は、宿の受付にて泊まっている証明となる木札を見せ、帰ってきたことを伝えてから部屋へと戻った。
受付の人に木札を見せた際、ミミニアのことも聞かれたけれど、予め私の干渉魔法で地毛を明るめの紫色から薄茶色へとなるように髪色を変えていたこと。私と同じような境遇の子で、奴隷として売られていたミミニアを、私が冒険者になる時のパーティーを組む人手として買ったという体で説明をしたことで、多少怪しまれてはいたと思うけど快く迎え入れてくれた。
本当に宿の人ありがとうございます!
またミミニアも私と同じ部屋で泊めさせてもらえるように頼んだところ、食事代は一人分増えるのでその分の料金は上乗せしてもらうことと、今日はもう夕食を作り始めてしまったとのことで、ミミニアの分の食事は明日からになることに。
勿論こちらからの急な申し出だったため、受付の人の言葉に素直に従った。上乗せ分の手持ちは今の私にはもう払えなかったため、宿に泊まっていられる最終日までに支払うことにさせてもらった。
こうして受付の人との会話を終え、私達は部屋へと戻ってきた。鍵を開けて部屋へと入り、戸締まりをして鍵を鍵掛けへと戻す。
さて、夕食まですることがなくなったし、そろそろミミニアとの心の距離を少しでも近づけるために会話をしたい。
当たり前だけど、ミミニアの雰囲気は絶えず警戒心マックスの状態を纏っており、私としてもミミニアからしても居心地がこの空間は大変よろしくない。今の状態のまま一緒に過ごすのはお互いに良くないと感じるため、何とか会話を成立させ続けることで、雰囲気を少しでも良くしたい所存。
「ミミニアちゃん、夕食までもう少し時間があるんだ。だからその間にお互いをよく知るために話がしたいって私は思うんだけどどうかな?」
私の言葉にミミニアは驚いたような表情を一瞬だけ見せた後こう言った。
「それは御主人様の私に対する命令ですか?」
「そうじゃないよ。私がミミニアちゃんとの仲を深めたいから会話をさせてほしいというお願いだよ」
「······そうですか。分かりました。御主人様のお願いをお受けします」
うーん、口調が固い。茹でる前のパスタ並みに硬い。私としてはもっと砕けた口調にしてほしいけど、それはまあ追々で良いや。
「ありがとうミミニアちゃん!じゃあまずは私のことをミミニアちゃんに知ってほしいから私のことを話すね」
「はい、分かりました御主人様。あと、奴隷に対してちゃんなどの敬称をつける必要はありません。呼び捨てで結構です」
「わかったよ。じゃあこれからはミミニアと呼ばせてもらうね。」
その後ミミニアに私の趣味や好きなこと、今現在旅をしていること、この町にしばらく滞在して旅の資金を調達することなどを話す。
「なるほど、御主人様は今は旅の途中で、私を買ったのと調子に乗って色々な物を買ったことでお金が尽きたと。このままだと旅をするどころか野垂れ死ぬので、しばらくこの町に滞在してお金を稼ぐのが当面の目標ということですね」
「うん、まあ、言ってることはその通りでぐうの音もでないけど、ミミニアの私に対する当たりがちょっと強くない?」
「御主人様の気にしすぎじゃないですか。私は普通のことを言っただけだと思いますけど。」
「そうかな?いや、そうだね。私の気にしすぎだったということにする。まあでもミミニアも少しずつだけど私に対する遠慮がなくなって嬉しいよ」
ミミニアの態度が少しずつだけど軟化してきて私は嬉しい。この調子で奴隷と主人という間柄から、旅をする仲間へと変わっていったらいいな。
「·····ご主人様。宜しければ私からも、ご主人様に対して質問をしてもいいでしょうか?」
「うん、もちろんいいよ。それに言いたいことや聞きたいことがあったら気軽に話してくれていいからね」
「ありがとうございますご主人様。ではお聞きしますが、どうして私を買ったんですか?」
「それはね、ずっと私は一緒に旅をしてくれる友達、ううん違う、私のことを受け入れた上で友達になってくれる人が出来たらいいなと思ってたんだ。けど、そううまくはいかなくて。きっとこれから先も無理だろうなって思ってた時にミミニアのことを知ってね。この子なら一緒に旅をしてくれる友達になってくれるんじゃないかと思って、ミミニアを買ったんだ。だから良ければ私と友達になってほしい。も、もちろん今すぐにとは思ってないし、ミミニアからしても、出会ってまだ数時間の私と急に友達になれと言われても、なに言ってんだこいつってなると思う。それでも私はミミニアに友達になってもいいかなって思ってもらえるように頑張るから。だから、その、改めてよろしくお願いします」
ミミニアの質問に対して私なりに誠実に答えたつもりだ。友達になりたいことも、ミミニアと出会うまでは半吸血鬼の私は世間から嫌われている。
だから友達が出来ないと半ば諦めていたことも紛れもない事実。
最低だと自分でも思うけど、ミミニアも忌み子ということで私とそんなには世間的な立ち位置は変わらない。だからこそ私は同じ嫌われもの同士のこの子となら友達になれるのではと思ったんだ。
「ふざけないでください!!そんな!そんな理由で私のことを買ったんですか!世間から嫌われている私を!友達が欲しいなら私じゃなくても全然いいじゃないですか。他にいくらでも友達になれる人がいますよ。何で私なんかをその中から選んだんですか。どうして自分から燃え盛る火の中に入ろうとするような、そんな愚かなことをしたんですか。私なんかと関わったって、失うものはあっても得るものなんて何もないのに!!」
そう言ったミミニアは堪えていたものが溢れだし、その思いの流れのままに私という的に叩きつけるような、そんな荒々しさを言葉に孕んでいた。
「·····そうだよね。ミミニアからしたら今の私の発言は軽はずみだったね。ごめん。だからちゃんとさっき伝えた思いが本物だっていうことを、私に証明させてほしい」
ミミニアは私の言葉に対して自身の思いを精一杯ぶつけてくれた。嬉しい。心がじんわりと温かくなる。だってこの世界に生まれてからこれほど真剣に気持ちを向けてくれた人は、両親以外にいなかったから。
半吸血鬼として両親の元に生まれたことを後悔したことは一度もない。それはきっとこの先も変わらないと思う。
ただ、生まれた種族という理由もあって、私には友達や知り合いができなかった。いや、私がもっと最初から投げ出さずに向き合えば結果は違っていたのかもしれない。でも私には向き合う覚悟も、その行いが両親を危険に晒すことになると分かっていたとしてもできる程の勇気は無かった。
だから両親を巻き込まない。そして吸血鬼という種族を気にせずに関われる今の状況だからこそ、ミミニアとは友達になりたい。
ミミニアから見た私の印象は決して良くはないだろう。急に目の前に現れたかと思ったら奴隷として買われて、その買った理由が友達になれると思ったから、という意味不明なことを言われたら怒るのも無理はない。
そんな状況でも、彼女のさっきの発言には私を案じるようなニュアンスも感じられた。
印象は最悪な筈なのに。それでも私に向き合ってくれたミミニアに私もしっかりと向き合いたい。だからさっき伝えようか迷って止めた、私の種族についても今伝えよう。それが今までの私にはできなかったことで、何よりこれから心置きなくミミニアと関わる中で大切なことだと思うから。
「私に今まで友達ができなかった理由。それは、私が半吸血鬼だからだよ。
だからこそ世間からつま弾きにされたもの同士、ミミニアとなら友達になれると思ったんだ。」
ついでに私は信憑性が増すようにと自分に施していた干渉魔法を解く。更にダメ押しでミミニアの協力のもと、ステータス画面を見せることも忘れない。
「え、ほんとに·····半吸血鬼?」
私から出た言葉が以外だったのか、ミミニアは信じられないといった表情を浮かべている。
そういう反応をしたとしても仕方ないと思う。
何故なら自分から吸血鬼だと名乗り出ることは、自ら進んで死にに逝くのと同じ行為だからだ。
そもそも吸血鬼族がここまで忌み嫌われているのは人間の血を主食としていて、彼らにとって人間とは食料でしかないという認識が世間に浸透しているから。
確かに悔しいけれどそういった実態があるのも事実。
でもそんなのは一部の吸血鬼が勝手に暴走してその一派が人間の血を至高の血と定めていて、それ以外を吸わない。そして人間なんてたくさん居るのだから幾分か減っても問題はないし、寧ろ糧となれるのだから光栄の極みだろうという、同族とは到底思えない頭のネジが10本は外れて飛び散っている奴らの印象が伝わっているためだ。
この認識は部分的にデマだと私は言いたい!
まず殆どの吸血鬼は北の大陸に住んでいる。だから人間に危害を加えているのは、本当に極一部の北の大陸を出て中央に移りこんだ一派だけだと聞いている。因みに北の大陸以外には他の吸血鬼は居ない。
何故判るのかというと吸血鬼の祖たる吸血鬼族の族長には自身の吸血鬼の核を通して他の吸血鬼の核を感じることができるという特性がある。
これを使って調べたところ北の大陸以外の他の大陸には、クソ一派と私の家族以外には吸血鬼はいないことが確認されたから。
だから北の大陸以外の吸血鬼は今現在、私とクソ一派(人数不明)だけということになる。
また吸血鬼は基本的には人間と同じような食生活をしていることについても触れておきたい。
吸血鬼が血を求める理由。それは吸血鬼が血を摂取しないと思考が血を欲するように段々となり、極度に血の匂いに反応したり、血のことしか考えられなくなったり、手が震えだしたり、ホルモンバランスが崩れて精神的に不安定になったりするから。症状が酷くなると理性も吹き飛んだりもする。
あれ、薬物の禁断症状かな?
ともかく、吸血鬼と血は切っても切り離せない関係であると理解してもらえればいいと思う。
血を定期的、具体的に言うと月に一回くらい、個人差はあるけど最低200ml摂取するだけで事足りる。しかも摂取する血は人間の血である必要はない。
動物とかでも全然美味しいって聞くし、魔物でも大丈夫。味は不味いらしいけど。
そして最後に自分事ではあるけれど、半吸血鬼は血を摂取する必要がない。
何故なら核が完全に機能していなく、血を欲するようにも、体が吸血鬼の力を扱えるようにも完全に作りきられていないから。
これによって半吸血鬼は本来の吸血鬼としての力を使うことが全くできない。
でも、体質的には吸血鬼と変わらないために日光が苦手というデメリットだけはそのまま反映されている。
私の場合は、なぜか常時発動している【太陽光無効】というスキルのお陰でデメリットはないに等しいから大丈夫だけども。それを言うと【干渉魔法】も吸血鬼の種族スキルなのに使うことができてるのも不思議だ。でも原因も使える理由も分からないから、有り難くこの恩恵を享受させてもらってる。
という感じの内容をしっかりとミミニアに誠心誠意心を込めて伝えた。
その結果、私の訴えが実を結んだようで、ミミニアはひとまずは信じてみるけど、なにか妙な動きを少しでもした場合は、すぐにでも正体をばらすという条件のもと一緒にいてくれることになった。
また夕食は私の種族についての説明の合間に部屋に運ばれたので、ミミニアと二人で仲良く(私がそう思っているだけ)説明をしながら美味しくいただいた。
「ミミニア、改めてありがとう。私のことを受け入れてくれて。嬉しかったよ、ほんとに。」
正直に言うとミミニアが私のことを受け入れてくれるとは思っていなかった。だってそれが私にとっての当たり前の反応だったから。だから私は心の底から沸き立つありのままの気持ちをミミニアに告げた。
「誤解しないでください。ご主人様のことはまだ信用したわけじゃありません。ただ、私の存在を認めてくれた人に対して不義理でいたくないだけです。くれぐれも変な勘違いはしないでくださいね」
そう言ったミミニアの尻尾や猫耳は勝手にピョコピョコと揺れてはいなかったけど、無表情ながらもうっすらと頬が赤みを帯びていたことを私は多分忘れることはないと思う。
「うん、わかったよ。じゃあそろそろ夜も遅いし、布団を敷いて寝よう」
「そうですね。ご主人様の布団も私が用意しますから、ちょっとだけ待っていてください。」
「ううん、自分の分は自分でやるよ。それにミミニアとって今日は激動の一日だったと思うから、私がミミニアの分も敷いとくね」
「いいえ、ここは私が敷いておくので、ご主人様は先に着替えをすればいいじゃないですか」
「いやいや、私が敷いておくから遠慮しなくていいよ。」
お互い譲らないまま暫く口論をして、ふと、二人で敷けば良くない?と思い立って二人で敷いた。
私はミミニアと口論をしながらも、お互いに思いをぶつけ合うのが楽しくて。途中から意固地になってしまったのは、今のところは私だけの秘密だ。




