第12話 町へ
私が向かったのは私が住んでいたスラム地帯が端にある、石で出来た10メートル程の外壁で囲まれている町マソタだ。
いきなり旅に出るといっても準備が必要なため、私が住んでいたスラム街の壁の内側にある町にまずは行くことにした。スラム街は壁の外側にあったので町に入るのはこれが初めてだったりする。楽しみだ。
「上手く入ることが出来たら良いな」
森の中にある小川に自分の姿を写しながら、見た目に問題がないかを確認する。
今の私の見た目は元々の髪の色である銀鼠色から茶髪へと干渉魔法で色を変えていた。色関連でいうと、この世界には忌み嫌われている色がある。
最も嫌われている色、それは紫系統の色だ。
人々が紫を見ると嫌悪感が湧く理由。それは世界中全ての種族から畏れと嫌悪の対象とされている毒龍の姿が紫系統の色だから。
毒龍とは世界で限られた数しか存在が確認されていないS級の魔物の中でさらに少ない名持ちの一体であり、最も魔族、獣人族、ヒト族の文明に被害を与えてきた魔物。
名前の通り毒を使った攻撃を得意としているものの、詳しい生態については良く分かっていない。
そして今まで討伐がされていない理由は単純に毒龍の体が守りに特化した作りになっているからだ。
物理と魔法への耐久力、体の再生能力、体力と生命力がS級の魔物の中でトップクラスを誇っている。 毒龍が現れ、通りすぎた場所は多かれ少なかれ被害を受けるのだそう。
一方的に暮らしていた場所を奪われ、その上生半可な攻撃はほとんど効かない。理不尽でしかない毒龍を彷彿とさせる紫系統の色は、完全なとばっちりで嫌われているのが現状である。
そして毒も紫色と同じ様な理由から嫌われている。つまり私が毒魔法を使えることがばれたら私も毒龍の使者などと言われて嫌われる。
ちなみにアシストさん情報では毒竜には使者は居るが魔物であって人型の使者はいないと言っていた。今の私のばれたらただでは済まない情報。
その一、魔族の半吸血鬼であること。
その二、毒魔法が使えること。
何とか上手く隠し通したいな。
でも私は自分で言うのもなんだと思うけど、おっちょこちょいな所があるのと、私から猛毒魔法と吸血鬼の能力(まだ使えてはいない)を奪うと、ゴブリン五~六体と五分五分の戦いしかすることができないくらいには私は弱い。
時空間魔法にも攻撃に使える魔法はあるものの、どれも使用魔力量が多く今の私のレベルではおいそれと連発して使うことはできないのが現状だ。
だから格上相手にはどうしても使い勝手の良い毒魔法と、今は使えないけどいつかは使えるようになる予定(未定)の吸血鬼のスキルを使わないと生き残れない。
これらの理由から近い内に何かしらの形でばれそうな気がする。だからいつでも逃げれる(時空間魔法の瞬間移動、転移付与の魔石の用意)準備をしておこう。
今後の対策を南門の列に並びながら練っているとどうやら私の番が来たらしい。
「すみません。私、町に入りたいんです。手数料ならあるので、入れて貰えませんか?」
「お嬢ちゃん、家族の方は居ないのか?」
「居ません。遥か遠くにある場所に二人とも旅立ってしまったんです。私を置いて。だから私一人だけです。」
私は嘘は言ってない。ちょっと人によっては勘違いをして、親切にしてくれるであろう言い方をしただけ。
「そうか。悪いことを聞いた。町にはどんな用件で来たんだ?」
そう言った門番さんは気まずそうに私から視線をずらした。
「身元の証明を保証するのと、お金を稼ぐために来たんです」
「なるほど、用件は分かった。指名手配されている犯罪者の特徴もないし、特段怪しいわけでもない。今から町での身分を発行する。旅人用の身分証を作るからそれで良いか?」
「はい、それでお願いします」
「分かった。手続きに必要なため、名前と年齢を教えてくれ」
「分かりました。名前はリニナと言います。年は10歳です」
門番の方が旅人用身分証の手続きをしている間、私は肩掛け鞄からお金が入った袋を取り出す。お金は両親から貰った旅費20000モカ。銀貨二枚分だ。日本円にすると20万円くらいの価値がある。
取り敢えず時空間魔法の収納と鞄にそれぞれし銀貨二枚を半分に分けて入れてある。万が一片方が奪われても一文無しにならないようにね。
「身分証が出来たぞ。お代は小銀貨一枚だ。」
「門番さんありがとうございます」
ありがたいことに銀貨二枚を二人は小銀貨二十枚分に崩してくれていたので、素早くお金を渡すことが出来た。身分証が高いな。私にとっては高すぎる。
でもこの値段設定のお陰で、お金のない危ない奴らは町に入ることが難しい。
身分証には首へと身分証を着けるための紐が通されていて、門番さんが言うには宿から外に出る時は必ず首に着けるようにとのこと。
「その身分証が身分を証明してくれるのは旅人が町に滞在できる最大日数である1ヶ月の間だ。それ以降は町に居ることはできない。もし一ヶ月以上滞在する場合は、身分を保証する冒険者、または何らかの職業の証明カードを見せてくれれば大丈夫だ。町に住みたい場合は町の中にある家を借りるか買って、町に一定額のお金を納めれば町の一員と認められる。収入によって町に納める額は変わっているから普通に暮らす分には破産することもないはずだ。一ヶ月の期限までに町を出ないと期限以降は町へ勝手に侵入したということで牢屋行きだから気を付けるように。長くなってしまったがようこそレズポンド王国ケリオン領のマソタへ」
南門から町へとは入った私が見たのは活気で溢れた町並みだった。
建物は木材を主に使って作られていて、大小それぞれだけど丈夫に作られていた。
地面は土ではあるものの、凹凸がなく平らに整地されていて転ぶことはなさそうだ。
門から町へと続く道はとても大きく、馬車が行き来しても大丈夫な構造になっており、あちこちに屋台のお店が出ていて、美味しい匂いが漂っている。
「お嬢ちゃん、プニュポフの串焼き一つに付き小銅貨五枚だ。買ってくかい?」
「プニュポフですか!買います!プニュポフの串焼き二つ下さい」
「へいお待ち。今出来たばかりの出来立てほやほやだよ。」
「ありがとうおじさん。美味しくいただくね」
屋台のおっちゃんに小銀貨を渡した私はおっちゃんからお釣りを貰いお礼をしてからその場を離れた。宿を取るために近くにいた人に私のお財布にも優しい少し良い宿の場所を聞きだして、お薦めされた宿へと向かいながら串焼きを食べる。
さっき、串焼き屋のおっちゃんが言ったプニュポフとは魔物の名前だ。
プニュポフという生物は一言で言うと肉の塊だ。
見た目はスライムと同じ様な形状と構造をしていることからスライムと似た生き物だと言われている。肉の塊を覆うように、分厚くて衝撃を吸収しつつ跳ね返す弾力性も兼ね備えている透明な膜で包まれている。大きさは個体差によるけれど、小さくても30cm程の大きさはある。
プニュポフから獲れる肉は柔らかく、海老のような歯応えも兼ね備えており、焼くと肉汁が滝のように溢れ出てくる。
そして何より美味しい。
どの大陸にも生息していて、魔物の強さは単体のゴブリンや普通のスライムと同じF級。冒険者ではない人でも三人居れば余裕で勝てるくらいの強さで手に入りやすい魔物。
どうやって繁殖しているのかは謎だけど最低二体居れば一週間後には二十体くらいには増えるので繁殖能力も高いという研究もある。
これらの特徴から美味い!安い!割りと手に入る!この三原則から庶民の食の拠り所となっている。
とても美味しいこのプニュポフがお金持ちや貴族、王族等のいい身分の人が買わないのには理由がある。単純に見た目が気色悪い。ただこれだけの理由で売れない。
でもそのお陰で私のようなお金に余裕の無い人たちが安価で美味しいお肉を食べることが出来ている。何処までも庶民に優しいお肉である。
ありがとうプニュポフ。今日も美味しくいただくね。
「ここがお薦めされた宿かな?」
目的地に到着した私の目の前にあったのは、年季が入った二階建ての宿だった。
看板には宿屋せせらぎと宿の名前が書いてある。
年季が入っているとはいえ、外観は綺麗に手入れされていて建物が大切に扱われているのが分かった。
「しばらく宿に止めて貰いたいのですが、よろしいですか」
扉を開けて宿の一階の扉のすぐ側にある受付にいた従業者に私は声をかけた。
「はい、お部屋は空いているので受け入れることは出来ますが宿に泊まるのは何名様ですか」
受付の人が怖い人だったらどうしようかと思っていたけど、丁寧な言葉遣いの女の人で安心した。
「私だけなので一人です」
「分かりました。部屋は全部屋鍵付きとなっているので鍵は失くさないようお願いします。いつまでお泊まりになりますか?」
鍵付きは本当にありがたい。
この宿を紹介してくれた人に感謝しておこう。ありがとう教えてくれた人。
「そうですね、取り敢えず10日程お願いします」
「承りました。」
「朝と夕方にお食事を毎回用意することが出来ますがいかがでしょうか?」
「もちろん毎日お願いします!」
ご飯は大事。とても大事。本当に大事。
「お食事はお部屋に直接運ぶことも出来ますがどういたしましょう?」
「お部屋まで運んでいただけると助かります。」
「分かりました。では10日間分の部屋代、朝と夕のお食事代、もろもろ合わせて合計で小銀貨三枚となります。先に払われますか?」
高い。高いけど、食事や鍵付きの部屋、そして宿の内観も綺麗なことから此処が良い宿屋であることはさすがの私でも分かる。
楽しい旅にするための経費だと思って割りきろう。もうちょっと安くならないかなとは思うけど今は割りきろう。
「····はい、先に払います。どうぞお願いします」
「確かに承りました。こちらがお客様の部屋の鍵となります。トイレは一階と二階にそれぞれ一つございます。この宿には体の汚れを洗う場所はないので、宿の向かい側にある浴場をご使用するのをお勧めしております。また外出をする際には、お客様のお泊まりになる部屋の中に宿の名前と部屋番号の書かれた木札がございますので、それを持って外出していただきます。お客様が宿に帰られた際に受付にてその木札を提示していただかないと、防犯上の理由で宿に泊めることが出来ない仕様になっております。ですので、必ず木札を持って外出するようお願いたします。これで宿に関しての説明は以上となります。何か質問はありますか?」
「なんにもないです」
「ではごゆっくりとお寛ぎ下さい」
「ありがとうございます。そうしますね」
階段を上がり、部屋の番号を確認して、鍵を開けて中に入り鍵を閉めてから部屋を見渡す。
手動で明かりをつけたり消したりする照明としっかりと眠ることが出来そうなベット。
床に座って使う丸い形のローテーブル。
窓も付いていて空気の入れ換えも出来る。
荷物を置く場所にもゆとりがあるくらいには大きい部屋。文句の付け所がない程にとてもいい部屋だった。
勿論品質の良い素材を使ったお金持ちが泊まる部屋と比べれば、雲泥の差があると思う。
それでも今の私にとっては此処がとてもいい部屋だと思う。居心地いいし。
きっと高い部屋は私には似合わないし、高級感がありすぎて緊張すると思う。
夕食を食べて荷物を部屋の隅に片付けた私は、慣れないことを沢山したこともあって眠くなったので寝ることにした。
「明日は町を観光しようっと」
明日に期待を膨らませながら私の意識はゆっくりと沈んでいった。
読んでいただきありがとうございます。そろそろリニナの旅の仲間を出していきたいと思っているので、楽しみに待っていただけるとありがたいです。




